映画『ロラックスおじさんの秘密の種』志村けん 単独インタビュー
「変なおじさん」だからこそ出来上がったキャラクター
取材・文:須永貴子 写真:奥山智明
『怪盗グルーの月泥棒 3D』を手掛けたユニバーサル・スタジオとイルミネーションが再びタッグを組んだ3Dアトラクションムービー『ロラックスおじさんの秘密の種』。森を守る木の精=ロラックスおじさんの吹き替えを務めるのは日本を代表するコント芸人、志村けん。声の仕事は何と33年ぶりという志村が、演じたキャラクター、そしてアフレコについて語った。
何歳になっても、初めての仕事に緊張
Q:33年ぶりに声の仕事と聞いて驚きました。
厳密に言うと、映像に声を入れる仕事は初めてなんですよ。昔やったの(1977~79年に放送された人形劇「飛べ!孫悟空」)は、まず声を入れてから、それに人形の動きを合わせるという作り方だったので、全然違うんです。だから、「向こうで大ヒットしているアニメを日本でやるので、その声をやってくれ」と言われたときは「できるかな?」と、ちょっと不安のほうが大きかったですね。何歳になっても、初めての仕事は緊張します(笑)。
Q:ダニー・デヴィートの声が入ったオリジナルをご覧になった感想は?
僕は基本的にアニメーションを観ないんです。ほぼ初めての体験だったからか、「今のアニメーションってすごいな」と思いました。2Dのバージョンを観たんですけど、それでも映像の迫力がすごい。「これが3Dになったらどうなるんだろう?」と思いましたね。サラッと楽しみながら観つつも、ロラックスおじさんに関しては「このキャラクターを自分がやるのか……」とすごく気になりました。他のキャラクター以上に、おじさんのせりふの字幕を一生懸命読んだりね。おじさんに関してだけは、平常心では観られなかったです。
Q:ロラックスおじさんを、どういうキャラクターだと思われましたか? 森を守る木の精という、人間でも動物でもない存在が、観ているうちに志村さんのミステリアスな部分と素晴らしくマッチしていたと思います。
観る方がどう感じるのか、心配は心配でしたけど、木の精だとか、妖精だとか、そういうことは気にせず「なんとなくこんな感じかなー」と思って、現場で声を出してみました。ダニー・デヴィートの声もまったく意識せず。なんせ初めてのことだから準備の仕方がわからないし、練習のしようもないしで、手ぶらで行って、ぶっつけみたいな感覚でやりました。
「志村けん」だから実現した邦題やせりふ
Q:1日5時間を2日間という収録時間だったとお聞きしています。出番の多さや初アフレコということを考えると、とてもスムーズでしたね。
そうですね。テンポよく録(と)れたので、疲労感もなく。コントのほうが断然疲れます(笑)。ただ、アフレコは僕から録り始めたので、ほかのキャラクターの声が入っていない状態だったんですよ。だから、人の言葉尻を聞けなかったので、誰かのせりふを受けて言うせりふはタイミングがちょっと難しかったです。「0.14秒と表示されているタイミングで言ってください」と言われて、数字だけを気にしてしゃべると、キャラクターの口とずれちゃうし。
Q:ロラックスおじさんが初めて登場する場面の、言葉ではない音のようなせりふが、かなり難しそうだな……と思いました。
あれ、台本には「アドリブ」って書いてあったんで、雰囲気でやってみました(笑)。ほぼ順録りだったので、アフレコの最初のほうでしたね。
Q:すごい! 邦題に「おじさん」という単語が入ったのは、志村さんのキャラクターである「変なおじさん」ありきだと聞いています。また、予告編でも流れていますが、「なんだチミは? わたしがロラックスおじさんです」というせりふも、志村ファンにはたまらないですよね!
いつも言っている言葉ですからね。何の抵抗もなく(笑)。
Q:声だけの表現というものについて、どう思われますか?
おじさんに声を当てながら、多分無意識に、自分もおじさんと同じ顔になっていたと思うんですよ。だから、自分としては声だけで表現している感覚ではなかったので、窮屈さとかは感じなかったですね。
Q:演じてみて、ロラックスおじさんのどんなところが魅力的でしたか?
喜怒哀楽がはっきりしているところですね。ちょっと怒りっぽいところ、おちゃめなところ、そして寂しさや哀愁を醸し出しているところなど、いろいろな表情があるキャラクターです。あと、後ろ姿がすごく魅力的なのね。もともとなで肩のおじさんが、肩を落とす後ろ姿は哀愁が漂っていて、本当にかわいかったですねえ。
ジェットコースターは乗れなくても楽しめるアトラクション!
Q:他のキャラクターでお気に入りは?
動物たちはクマも鳥もみんな表情が豊かでかわいいですね、悪役のオヤジ(悪の実力者、オヘア)も面白いです。悪役が魅力的なのはいいですね。よくできているなあと思うのが、メインのキャラクターが手前でせりふをしゃべっている後ろで、周りのキャラクターが笑わせる表情や動きをしているんですよ。あと、次の場面に移るギリギリのところの表現も面白い。細かい部分なので、2回目くらいで気付きましたね。
Q:アトラクションムービーという売り込みですが、志村さんは、アトラクションは好きですか?
若いときは乗りましたけど、今はほとんど乗らないです。仕事でジェットコースターに乗る話が来ても、断っています。怖いんで(笑)。僕みたいにアトラクションに乗るのは怖いという人に、ぴったりの映画ですよね。特に、若い頃のワンスラーがベッドに乗って眠ったまま川で流されるシーンとか、3Dで観たらすごい迫力だと思います。
志村けんがオススメするファミリー・ムービー
Q:人工的な街に生まれ育った少年テッドが、街に緑を取り戻すために奮闘するこの作品のテーマについてはどう思われますか?
自然保護や、自然を大事にしようというメッセージが、嫌味なく伝わりますよね。「こういう人たちに」というよりも、家族全員で観てほしい作品です。お子さんから年配の方まで、きっと感じるものがあるんじゃないでしょうか。
Q:ちなみに志村さんが、日々、自然保護に関することで、心掛けていることはありますか?
外国の木を切って作っているというのを聞いてから、割り箸はなるべく使わずに、マイ箸を使うようにしているくらいかなあ~。あるバーで、すごく使いやすい箸を売っていたんですよ。その店では、それを置き箸してもらっています。ほかのお店も、よく行くお店にはそれぞれにマイ箸が置いてあります。新しく行くようになった店にも、「他の店だとマイ箸置いてくれるんだよー」と言うと、「わかりましたー」って対応してくれます(笑)。
ロラックスおじさんという、志村けん本人でもなければ、これまでに演じたキャラクターとも違う、ユニークなキャラクターをほぼ初めてといってもいい声優として、即座に自分のものにしてしまうあたり、さすがである。本人はとてもシャイで自分からは多くを語らないが、ハリウッドのスタジオが志村けんのコントの映像を観て、ロラックスおじさん役に即決したというエピソードにもうならされる。今後、志村けんの声をスクリーンで聴く機会はきっと増えるだろう。
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映画『ロラックスおじさんの秘密の種』は10月6日より全国公開