第5回 背景美術の魔術師・竹田悠介にインタビュー! 後編
『009 RE:CYBORG』の世界
ついに公開された映画『009 RE:CYBORG』!
石ノ森章太郎氏の未完コミック「サイボーグ009」を原作に、『攻殻機動隊S.A.C』シリーズの神山健治監督が新たに現代を舞台に作り上げた本作で背景を務めたのが美術監督・竹田悠介。前回は3D立体視にまつわる苦労など、背景美術ならではの話を明かしましたが、今回は神山健治監督との関わりを中心に裏話を語りました。
神山監督と竹田悠介美術監督の出会いは、2002年のテレビアニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」。それから「東のエデン」「精霊の守り人」など主だった作品では常にタッグを組んでいます。
監督からのリアクションがない!
Q:神山健治監督の印象をうかがえますか?
竹田:厳しいです。今でもどきどきします。すごく作品作りに真摯(しんし)な方なので。それに加えて、プロデュース能力も兼ね備えているので、作品にとって何が必要で何が必要じゃないかをちゃんと把握している。10年近く一緒にやらせてもらっていますけど、必要と思えること以外は拍子抜けするぐらい、何も言ってこない。でもこちらからしてみると、何の要求もないというのが一番怖いですよね。
Q:監督からの要求はまったくなかったんですか?
竹田:要求というとあれですけど、本番に入る前、絵の方向性を煮詰めていくときに一度確認に出すわけです。そのときにチェックしてもらった返事ですかね。今回は、コンテを見ていてもテンションが今までと段違いでした。場面転換がいつも以上に凝っているなとは思いました。どんどんシーンが変わっていくので、変化の付け方っていうのは気を使っていたんじゃないかなと思っていたんですけど、監督は一つのシーンの中でも変化を付けるようにしてほしいと言っていましたね。
幻の押井守版「009」
Q:具体的にはいつごろから制作にかかったのでしょうか?
竹田:かなり初期、この作品を押井(守)さんがやるという話だったときに、一度PVを作ったんですよね。そのときのPVからやっているので、2010年夏くらいなのかな。でも、それからしばらく何もなくて、やっとシナリオが上がってきて、次の話があったときは、いろいろあって神山さんが監督ということになっていました。細かいことはよくわからないんですけど、本当にいろいろあったみたいですね(笑)。
Q:押井監督から神山監督に変わったことによって、何が大きく変わりましたか?
竹田:僕の印象では、押井さんがフル3Dでやるということは、『スカイ・クロラ』寄りのセンスに近い映像を目指すつもりなのかなって思っていたんですね。すると、僕が描くような2Dの背景はあんまりないんじゃないかなと思っていました。押井さんのPVを見るとわかるんですけど、いわゆる3Dなんですよ。なので、違った意味で絵に密度が必要になるなとは思ってはいたんですけど、やらずに終わってしまったので……。
Q:神山監督は、背景を2Dにすると最初から言っていたんですか?
竹田:かなり最初の段階で、キャラクターは3D、背景は2D、そして3D立体視にすると言っていましたね。その段階で僕は3D立体視ということに気を取られてしまったんです。完成した絵を見ていただくとわかると思うんですけど、今回のキャラクターは3Dで描きながらも、かなり2Dに近い印象になっています。とはいえ、そのキャラクターと2Dの背景を組み合わせると、やっぱりキャラクターの密度が高いんですよ。服のしわ一つを取っても正確なしわが入っている。そういう意味では、2Dの背景は描いている人の遊びが入っちゃうので、あんまり遊び過ぎると、3Dのキャラクターとは合わなくなるのかなとは感じていました。
これまでで一番苦労した仕事だった
Q:竹田さんにとって、今回の作品から学ぶことは多かったんですね。
竹田:3D立体視での長編アニメって、それほどまだ多くないんですよね。やる前はガイドラインみたいなのがあるかと思っていたんですが、探してみるとない(笑)。なので、全てが文字通りの試行錯誤でした。神山さんとアニメーションディレクターの鈴木(大介)さんもかなり苦労していたと聞いたのも、かなり後になってからです。
Q:じゃあ、これまでで最も大変だった作品は『009』ですか?
竹田:そうですね。まあ、自分はいつも一番最近にやったのが一番大変なんですよ。その分『009』は気に入っていますし……そのほかでは「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」の「草迷宮」っていう話がお気に入りで、初めてデジタルで作画をした「BLOOD THE LAST VAMPIRE」が思い出深いですね。
Q:最後に『009』の背景で「特にここだけは観てほしい」というカットがあれば、教えてください。
竹田:全部ですね(笑)。いろんな見どころがあると思うんですよ。だから、言い出すとキリがなくて。ニューヨークの裏路地、イスタンブール……イスタンブールなんてあんなに短いシーンなのにロケハンにまで行っていますから。そして、ラストのベネチア。あそこは若干、イメージ的な表現にしています。神山監督も、あそこはベネチアっていう街でありつつ、水はとにかく透明だと主張していました。だから思い切って、本当に透明にしているんですよ。波のハイライトしか見えないくらいで。そしたら、それが3Dになったときは本当にきれいでしたね。そういう意味で、一番手応えがあったのはベネチアかもしれないですね。
苦労話からお気に入りのカットまで、背景美術のさまざまを語った竹田。確かにその話を聞いてから改めて作品を観てみると、その背景の書き込みの緻密さには驚かされます。2Dでもそのすごさは十分に伝わってきますが、その真価がはっきりとわかるのは3D映像。普段は見落としがちな背景ですが、そこに着目すると新たな発見があるかもしれません!
文・構成:シネマトゥデイ 福田麗
映画『009 RE:CYBORG』は公開中
短期集中連載『009 RE:CYBORG』バックナンバー
■第4回 背景美術の魔術師・竹田悠介にインタビュー! 前編
■第3回 声優コメント特集Vol.3 ~小野大輔・斎藤千和・玉川砂記子~
■第2回 声優コメント特集Vol.2 ~増岡太郎・丹沢晃之・大川透~
■第1回 声優コメント特集Vol.1 ~宮野真守・杉山紀彰・吉野裕行~
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