第45回『ホビット 思いがけない冒険』『007 スカイフォール』『レ・ミゼラブル』『恋のロンドン狂騒曲』『ルビー・スパークス』
今月の5つ星
待望の『007』シリーズ最新作、『ロード・オブ・ザ・リング』のスピンオフ企画『ホビット 思いがけない冒険』、『英国王のスピーチ』のオスカー監督と、ヒュー・ジャックマン&アン・ハサウェイが組んだミュージカル『レ・ミゼラブル』など、お正月の目玉作品がズラリ!
『007』シリーズ生誕50周年を迎えた記念すべき作品とあって期待も高まっていたが、冒頭13分に及ぶチェイスシーンからのアデルが歌う主題歌という最高のオープニングで、のっけからテンションはMAX! さらには過去シリーズに登場した科学者Qや、ボンド・カーの代表格ともいえるアストンマーチン・DB5など、シリーズファンにはたまらない要素がふんだんに盛り込まれている。それもそのはず、メガホンを取ったのは大の『007』ファンだという『アメリカン・ビューティー』のサム・メンデス監督。かつて自分を見捨てたMへの復讐(ふくしゅう)に燃える元「00(ダブルオー)」エージェントとの対決や、Mへの忠誠を試されるボンド、国からその存在意義を問われるMI6と、『007』史上初のアカデミー賞受賞監督による重厚なドラマも見どころの一つ。『ノーカントリー』で自身が演じたあの殺し屋を彷彿(ほうふつ)させる悪役のハビエル・バルデムも相変わらず不気味でキャラ立ちしている。(編集部・中山雄一朗)
ウディ・アレン史上最高のヒット作『ミッドナイト・イン・パリ』の1年前に製作された本作だが、日本での公開は順番が逆。それだけに、期待値がおのずと上がってしまうが、熟年夫婦の離婚や、恋愛結婚した夫婦の倦怠(けんたい)期、その夫が若くてピチピチの年下女性に引かれていくさま、妻の不倫心など、とことんリアルを描いたからこそ『ミッドナイト~』のような大人のラブファンタジーが誕生したのだと腑(ふ)に落ちる一作。真逆といっていいほどの世界観の違いは一見の価値あり。しかも、名優アンソニー・ホプキンス、ジェマ・ジョーンズ、ナオミ・ワッツ 、ジョシュ・ブローリンらが犯す失敗から多くを学べる人生の教科書的側面もチラリ。アレン監督ならではの、画面の隅から品をのぞかせるようなはかない美しさやクラシカルな全体構成もお見事。観て損はない。(編集部・小松芙未)
本作はファンタジー小説「ホビットの冒険」を映画化した『ホビット』3部作の1作目。前シリーズ『ロード・オブ・ザ・リング』では約1,200ページの大長編からエッセンスを抽出して3部作に凝縮させたが、今回はわずか320ページほどの原作をピーター・ジャクソン監督が3部作に膨らませるという全く逆の手法を取った。原作にはない『ロード・オブ・ザ・リング』のオープニングであるビルボとフロドの誕生日のシーンから始まる点などはファンなら思わずニヤリとするだろう。しかし原作には登場しない人物やシーンを数多く差し込むことで物語の世界を広げたものの、心優しきホビット族のビルボのキャラクターがいまいち深められておらず、ビルボとドワーフたちとの関係の変化など説明過多のきらいがある。原作でははっきりと語られることのなかったそれぞれの人物の行動の理由も必要以上に明確に提示されており、この点は好き嫌いが分かれるところだろう。それにしてもHFR 3D(ハイ・フレーム・レート3D)で映し出される映像の鮮明さは特筆すべきもの。モーション・キャプチャーの技術も10年前からは格段に進歩しているようで、終盤でビルボとなぞなぞ勝負をするゴラムの表情の豊かさは絶品! 最新の劇場の大スクリーンで楽しむべきファンタジーだ。(編集部・市川遥)
小説の主人公として作り出した理想の女の子がある日、現実の存在として目の前に現れて……というのは男子ならば一度は夢見たことがあるシチュエーションかも? ただし、そのファンタジックな設定、そして脚本を手掛けたゾーイ・カザンが自らヒロインを、そのゾーイと交際中のポール・ダノが主人公の小説家を演じていることからリア充めいた展開を予想していると、大きく裏切られることになる。なんせ本作のメインテーマは「理想と現実のギャップ」という極めてリアルな問題なのだ。恋人に限らず、その命題は家族や知人をめぐっても変奏され、行き着くのは若くして天才作家としてちやほやされたがゆえに、精神的に未熟なまま大人になってしまった青年の姿。そうしたイタさをラブストーリーというかたちで、そして時にユーモアを交えながら描き出した監督の手腕は見事のひと言だ。ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス監督にとって本作は『リトル・ミス・サンシャイン』以来、実に6年ぶりの新作となるが、そのことはみじんも感じさせない仕上がりとなっている。(編集部・福田麗)
ミュージカル作品の映画化は、その作品を後世に残すという点において、とても意義のあることだ。ヒュー・ジャックマン、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド、ヘレナ・ボナム=カーター、サシャ・バロン・コーエンという役者がいるこの時代に、名作を残してくれたことを、一ミュージカルファンとして、うれしく思う。舞台演出には限界があるので、映画化にあたって壮大に作り上げられた世界観に違和感を覚えるミュージカルファンはいるだろうし、歌のみで作り上げられた世界観に違和感を覚える観客もいるだろう。だが、スタジオで録音した歌声ではなく、演技しながらの生の歌声にこだわったという歌唱シーンには引き込まれるものが多く、この映画化にかけたスタッフ、キャストの魂が感じられる。一曲、一曲に感情移入し、本作で「レ・ミゼラブル」の世界観を堪能してほしい。(編集部・島村幸恵)