第46回『LOOPER/ルーパー』『テッド』『アルバート氏の人生』『東京家族』『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
今月の5つ星
アカデミー賞11部門にノミネートされた3D一大叙事詩『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』、見た目はかわいいけどおっさんのベアが人気白熱の辛口コメディー『テッド』、名匠・山田洋次が小津安二郎の代表作にオマージュをささげた『東京家族』など、えりすぐりのラインナップを紹介!
「ルーパー」とは、未来から送られてきたターゲットを消すことを生業(なりわい)とする殺し屋のこと。本作は、30年後の自分(ブルース・ウィリス)と対決することになったルーパーのジョー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)を主人公にしたSF作品だ。ジョセフは声色や銃の構え方、さらには生え際を気にするしぐさ(!)などで若き日のブルースを見事に体現。タイムトラベルもの&ブルースの出演作ということで映画『12モンキーズ』の再来のようにも思えるが、本作はよりシンプルかつドラマチック。自己中心的だったヤング・ジョー(ジョセフ)が農場の母子との出会いで成長し、最終的に“ある決断”を下すときのまなざしは胸に迫るものがあり、SFとしてもヒューマン・ドラマとしても楽しめる仕上がりになっている。そして物語の鍵を握る、ちょっと不気味だけどかわいい子役の熱演も必見!(編集部・市川遥)
この、 「おっさんテディベア」のテッドが、「かわいくてかわいくて仕方がない」などと思うのはごく一部のマニアだけかと思ったが、全米で大ヒットシリーズ『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』に勝る興行収入を記録したという本作。関連グッズも超入手困難になっているとのことで、どうやらテッドの人気は世界規模らしい。ストーリーは、友達のいない少年ジョンのキュートな願いがかない、テディベアに命が宿る……というもの。ソファでマリファナを吸いながら映画を観て「おっさん」に成長したジョンとテッドは、やたら映画に詳しく、本作には映画ファンの心をくすぐる小ネタが満載。コメディー、ラブストーリー、サスペンス、ファンタジーと王道の映画らしい要素をふんだんに盛り込みながら、物語展開では王道映画を裏切ってくれるのもいい。テッドの声、監督、脚本、原案、製作の1人5役を務めたセス・マクファーレンは、ただ者ではないようだ。(編集部・島村幸恵)
性を偽ることでしか生き残ることのできなかった女性が、殻を破り、喜々として本当の人生を歩み出す姿をかわいらしくも切なく描いたヒューマン・ドラマ。何といってもグレン・クローズ演じるアルバートが恋心を抱いてからの言動や笑顔が魅力的で、癒えることのない傷を抱える彼の、そして彼女の生きざまが観る者の心に迫ってくる。ファーストインパクトはやっぱり、グレンがウエイターに成り切ったその容姿だろう。男性として違和感がないのは、第84回アカデミー賞メイクアップ賞にノミネートされたのも納得のメイク技術あってこそ。また、『美しい人』や『彼女を見ればわかること』を手掛けたロドリゴ・ガルシア監督が、19世紀を舞台にした本作のインテリアやファッション、装飾を美しく映像に収めたことが映画ファンにとって大きな喜びの一つ。深い緑や白、ゴールドなどの色の調和も作品の品格を感じさせる。アルバート以外のキャラクターも個性豊かで、自己中の女主人、ヤンキー気質の若い男、不出来なおじさんウエイター、酒飲みのドクター、アルバートが恋する肉食ウエイトレス……。皆、どこかに貧しさを抱えているからこそいとおしい。人間の一生について思いを巡らすきっかけを与えてくれえる秀作だ。(編集部・小松芙未)
小津安二郎監督の代表作『東京物語』(1953)を観たとき、なんて退屈な映画なのかと思った。しかし、山田洋次監督がそんが『東京物語』にオマージュをささげて制作した映画『東京家族』を観て、『東京物語』の良さがわかった気がした。『東京家族』で描かれているのは、2012年現在の日本の家族。現代の若者にとっては一見古くさくも思えるだろう本作は、きっとそんな若者たちにとっても懐かしい、日本の、家族の物語に仕上がっている。『東京物語』にも、1953年の当時の日本人にとって懐かしい、日本の家族が描かれていたのだろう。ストーリー、カメラアングル、ロケーション、随所にちりばめられた山田洋次監督の小津安二郎監督への敬意を感じつつ、『東京家族』として現代版に生まれ変わった東京の家族の物語を、現代の若者にも堪能してもらいたいと思う。(編集部・島村幸恵)
第85回アカデミー賞に作品賞、監督賞など11部門ノミネートされた本作は、キリスト教、ヒンドゥー教、ユダヤ教を信じ父から「宗教をころころ変えるな」と叱られ、トラと「友達」になろうと試みたりと好奇心旺盛な少年パイ(スライ・シャルマ)の奇想天外なアドベンチャー。家族、動物園の動物たちと共にインドからカナダに渡る最中に嵐で船が沈没。生き残った凶暴なトラと共にボートで大海原を漂流するはめになったパイの、食うか食われるかのサバイバル劇、そして「神の存在」を問う深遠なストーリーにグイグイ引き込まれる。満天の星が輝く静寂に包まれた夜の海、数千匹のミーアキャットが棲む「人喰い島」といった神秘の3D映像の数々は、まるで「動く巨大な立体絵本」。少年を待ち受ける試練を予測不可能なトーン&画で見せていく名匠アン・リーの鮮やかな演出腕は、マジックを見ているような印象だ。ラストではちょっとした「種明かし」のような展開が待ち受けるが、それをどう受け止めるのか、観る人の感性にゆだねた摩訶不思議な余韻が後をひく。(編集部・石井百合子)