第7回 ノルウェー国際映画祭の魅力に迫る!
ぐるっと!世界の映画祭
ヨーロッパ北西にあるノルウェー王国の、さらに西端にある人口約3万5,000人の港町ハウゲスンで、昨年、めでたく40回大会を迎えた映画祭があります。その名もズバリ、ノルウェー国際映画祭。その歴史と継続の秘密を知るべく、昨年はベネチアなど7か所の海外映画祭に参加した映画ジャーナリスト中山治美が、2012年8月17日~23日に開催された第40回大会をレポートします。
北欧の映画人が集結
ノルウェー国際映画祭は、1973年に国立映画連盟によって産声を上げた。当初はオスロ近郊のドローバックで開催されていたが、1987年からハウゲスンへ。同じ港町を舞台にしていることから「ノルウェーのカンヌ」を目指し、映画祭期間中には同国のアカデミー賞ことアマンダ賞の授賞式も華やかに開催される。
今年で第28回を迎えたアマンダ賞で最優秀主演女優賞に選ばれたのは、「元祖ドラゴン・タトゥーの女」ことスウェーデン女優ノオミ・ラパス。対象となったのはサスペンス映画『チャイルドコール 呼声』(ノルウェー・ドイツ・スウェーデン)。同作が象徴するように北欧地域合作作品が多く、映画祭も北欧映画人交流の場となっているようだ。
ノルウェー映画は暗くないッ!
映画祭の部門は招待部門、仏映画部門、子ども映画部門など。期間中にはノルウェー映画のマーケットも開催される。せっかくなので、筆者はノルウェー作品を中心に観賞。これまで『孤島の王』(2010)のような極寒の地で繰り広げられる暗い作品が多いという印象を抱いていたが、イメージが変わった。
まずはオープニング作品『コン・ティキ(原題) / Kon-Tiki』。人類学者トール・ヘイエルダールの実話を基にしたダイナミックなアドベンチャー大作だ。ドキュメンタリー映画『ウィズ・アコーディオン・トゥ・ジ・オペラ(英題)/With Accordion To The Opera』はアコーディオンサークルがオペラ座のステージを目指す。陽気な老人パワーに爆笑しっぱなしだった。
国全体が子どもに優しい
ノルウェーといえば育児や教育制度が充実していることで知られる。映画も教育の一環として活用されており、アマンダ賞には最優秀子ども映画賞まで設けられている。映画祭の子ども映画部門は、地元小学生が「授業」として観賞に訪れ、スウェーデンのアニメ『タイガー&タトゥー(原題) / Tiger&Tatoos』の上映の際には約600人の小学低学年生で会場が埋まった。
海外の映画祭を回っていて感じるのは、子ども映画部門を設けて地元の子どもたちも一緒に楽しめる場を設けていること。これは映画を芸術として捉えているだけではなく、小さいころから劇場で映画を観る楽しさや、映画祭のファンを育てているのだという。日本の映画祭もぜひ見習いたい姿勢だ。
日本映画は1本のみ
第40回大会には70本の長短編が上映されたが、うち日本映画は、若者を対象にした15+部門で上映された宮崎吾朗監督『コクリコ坂から』のみ。スタジオジブリ作品の人気の高さを表すと同時に、北欧における日本映画の認知度の低さを痛感した。
そもそも同映画祭は予算の関係もあって、日本映画はすでに同国での配給が決まった英語字幕付きの作品だけが選ばれてきたという。つまり、ある程度国際的な知名度のある監督作のみということになる。ただし、日本映画の需要がないというわけではない。首都オスロでは毎年、アジアや南米映画を中心とした映画祭が開催されており、昨年は日活特集も行われた。日本映画を普及させる余地はまだまだありそうだ。
ノルウェーの大自然を体感する
入り組んだ地形ゆえ、ハウゲスンに鉄道は通っていない。日本からは欧州の主要都市で乗り換えオスロへ。さらに国内線に乗り継いで飛行機で降り立つか、バスを利用することになる。ハッキリいって交通の便は悪いが、その分景観は素晴らしく、苦労して行くだけの価値はある。
特にベルゲンまで足を延ばせば、世界遺産のブリッゲンやフィヨルドツアー、さらに鉄道ファン憧れの列車ベルゲン急行も楽しめる。特に氷河も望める車窓からの景色は圧巻だ。
国際映画祭だけど英語なし!?
小さな町で開催される映画祭だけに観客とゲストの距離が近く、会いたい映画人にすぐに会えるので取材もスムーズ。また町全体が映画祭をバックアップしており、会期中は市長主催のディナーも行われた。ただしアマンダ賞や舞台あいさつも含めてノルウェー語が中心。ノルウェー映画には英語字幕が付いてない作品もあって想像力を必要とされた。日本から参加するのには言葉と物価の高さが最大のネックといえそうだ。
編集・文・写真:中山治美