目からうろこの海外ドラマのトレンド(1)今、最もホットなカナダロケ事情に密着!
型破りシネマ塾
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目からうろこの海外ドラマのトレンドその1 今、最もホットなカナダロケ事情に密着!
アメリカの人気ドラマといえば、舞台はロサンゼルスやニューヨーク、ボストンといった大都市がまず思い浮かぶ。当然のことながらメジャースタジオが多く存在するロサンゼルスで撮影している作品が多いが、実は舞台はアメリカでも撮影地はカナダという作品がここ10年で急増している。同じ現象がハリウッド映画にもいえるのだが、今回はテレビドラマにフォーカス。バンクーバー在住歴10年という海外ドラマに詳しいライターの高野宣李さんにお話を伺い、現地の情報を交えながらカナダのアメドラ撮影事情をご紹介します!
構成/今祥枝 取材協力・写真提供/高野宣李
カナダ撮影ブームの火付け役は、あの大ヒットドラマ
古くは「冒険野郎マクガイバー」(1985~1992、カナダで撮影されたのはシーズン3~6)やジョニー・デップの出世作として知られる「21ジャンプ・ストリート」(1987~1991)などのヒットシリーズがブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバーで撮影されていた。だが、現在のような活況のきっかけとなったのが「X-ファイル」(1993~2002、シーズン6以降はアメリカで撮影)だ。その後、加速度的に増えた作品群の一例を挙げると、「ヤング・スーパーマン」「ユーリカ ~地図にない街~」「Lの世界」「スターゲイト SG-1」(アメリカ・カナダ合作)「GALACTICA/ギャラクティカ」「V」(※2009年版)「THE KILLING ~ 闇に眠る美少女」「サイク/名探偵はサイキック?」などがある。日本でも熱心なファンが多い「FRINGE/フリンジ」と「SUPERNATURAL スーパーナチュラル」は、もはや「バンクーバーがファンの聖地のようになっている」という高野さん。現地在住中に最も多くロケに遭遇したのもこの2作品で、スタッフもとてもフレンドリーだったとか。現在撮影中の最新ヒット作にはアメコミをベースにした「Arrow(原題)」やダーク・ファンタジー「Once Upon a Time(原題)」がある。
全世界で大ヒットしたSFスリラー「X-ファイル」シーズン7。「途中からアメリカに撮影地が移ったのは、主役のデビッド・ドゥカヴニーが際限なく雨が降り続けるバンクーバーの冬に嫌気がさして、ロケ地を移さないなら番組を降りるとゴネたから……というのは現地では有名な話」と高野さん
2011年10月からアメリカのABCネットワークで放送中の人気シリーズ「Once Upon a Time」。「白雪姫」をベースに、おとぎ話の登場人物が記憶をなくして現代によみがえるファンタジー。「Arrow」と同じくバンクーバー周辺で撮影されているドラマで、2作品共に高野さんイチオシの新シリーズ!
J・J・エイブラムスが製作総指揮を務めるSFスリラー「FRINGE/フリンジ」。シーズン3を撮影中のバンクーバーのロケ現場には、こんな看板が!
「FRINGE/フリンジ」シーズン3ロケ現場の様子。目の前で主演のアナ・トーヴやジョン・ノーブルの演技を目撃できたという高野さんがうらやましい!
これを印を見かけたらロケ現場を目撃できるチャンス! 本来はスタッフやエキストラのためのもの
パラレルワールドと戦うFBI捜査官チームの活躍を描くFBI捜査チームの活躍を描く「FRINGE/フリンジ」。才色兼備のFBI捜査官オリビア(左)、スイーツ好きの天才科学者ウォルター(右)、その息子で顧問を務めるピーター(中央)ら個性豊かな面々のチームプレーにグイグイ引き込まれる。
FRINGE and allrelated characters and elements are
trademarks of and (C) Warner Bros. Entertainment Inc.
「FRINGE/フリンジ<サード・シーズン>コンプリート・ボックス(4枚組)」
価格:24,500円(税込み)販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
バンクーバー在住歴10年のライターが明かすカナダ撮影にSFが多い理由
前述したのはほんの一部だが、こうしてざっと眺めるとジャンルとしてSFが目立つ。これは「バンクーバーに、カナダで最も大きな特殊効果ステージを持つNorth Shore StudiosとVancouver Film Studiosがあるのも大きな理由の一つ」と高野さんは語る。「VFSはロサンゼルス以外にある最も大きなプロダクション設備を持つスタジオの一つでもあります。また、Bridge Studiosは、北米で最も大きな特殊効果ステージの一つを持っています。「スターゲイト」シリーズなどは主にここで撮影されていました。世界最大ともいわれる撮影ステージを持つMammoth Studiosの存在も大きいですね」
加えて、CGには欠かせないデジタルアニメーションや特殊効果の分野でも目覚ましい発展を遂げている。「ピクサーがバンクーバーにスタジオを作り、マイクロソフトも新しいゲームの製作オフィスをバンクーバーに作るなど最先端を行っています。また、公立大学や専門学校などでは映画制作に関わる分野を学ぶプログラムも充実しており、映像・アニメーション製作、特殊メイクなど映像業界で活躍するスペシャリストを積極的に養成しています」(高野さん)
製作コストを抑えられて「ハリウッドノース」と呼ばれるまでに成長
市の文化財に指定されている「HERITAGE BUILDING」が多く残るバンクーバーの街並みは、イエローキャブを走らせたり地下鉄の入り口などを作ればニューヨークの街に早変わり
もっとも、そもそもアメリカのプロダクションがカナダで撮影するようになったのは、カナダドルが安く、コストを抑えることができたからというのは大前提。同時に、古い建物が残る街並みはニューヨーク郊外やアメリカの諸都市に変ぼうさせることが容易で、海や山など豊かな自然にも恵まれたバンクーバーは、アメリカの西海岸や田舎町が舞台となる作品にとっても地理的な利点は大きい。当初はそうした理由から増えた作品の誘致が活発化するにつれて、設備、人材、機材などを現地で提供する機会が多くなり、映画・テレビの製作の受け入れ環境が充実していきハリウッドノースと呼ばれるまでに発展を遂げたのである。
そんな中、2010年にはブリティッシュ・コロンビア州にHST(GST=連邦税とPST=州税の二つの税金が統合されたもの)という税制が導入され、これによってこの地で撮影するフィルム・プロダクションは、税制の面で優遇を受けられるようになった。このことが更なる発展を後押ししたのだが、HSTの導入によって飲食・外食産業の方はダメージを受け消費者からも反対の声が多く上がるようになった結果、住民投票が行われHST廃止が決定した(実施は今年3月から)。詳しい説明は省略するが、HSTが廃止されると撮影プロダクションは増税を受けることになるため、HSTを採用しているオンタリオ州への撮影プロダクションの移動が始まっており、近年は同州のトロントで撮影するドラマも増えているのだ。
急増中のトロント撮影作品「SUITS/スーツ」の現場を訪問
急速に増えているトロントで撮影されている作品には、「SUITS/スーツ」「コバート・アフェア」「ウェアハウス13 ~秘密の倉庫 事件ファイル~」「ALPHAS/アルファズ」といった人気シリーズがある。昨年10月に、筆者はUSAネットワークの看板番組の一つである「SUITS/スーツ」と同局の同じく人気番組「コバート・アフェア」などの撮影が行われているスタジオを訪れる機会があった。広大な敷地に入ると矢印に沿って両番組のスタジオが分かれており、当日は「SUITS/スーツ」の撮影のみが行われていたが、普段は両番組のスタッフやキャストは同じ場所で食事をとり、待ち時間などには交流もあるとか。トロントの街もまたバンクーバーと同じく古い建物と新しい建物が混在しており、規模は全体的に小さいが金融街などニューヨークに似た雰囲気がある。マンハッタンが舞台という「SUITS/スーツ」はスタジオだけでなく、ロケを行うこともあるというのも納得だ。
アメリカのプロダクションが次々とカナダで製作を行う一方で、「フラッシュポイント -特殊機動隊SRU- 」「リ・ジェネシス バイオ犯罪捜査班」「リスナー 心を読む青い瞳」「ルーキーブルー ~新米警官 奮闘記~」「コンバット・ホスピタル 戦場救命」などカナダで製作されたオリジナル・シリーズがアメリカで放送されるというケースも増えている。国内のテレビ事情も含め、カナダ発のドラマについては、また次の機会に紹介したいと思う。
トロントのスタジオでシーズン2を撮影中のマンハッタンを舞台にしたリーガルドラマ「SUITS/スーツ」。舞台となる法律事務所は丸々スタジオ内にセットが組まれている
セット内で取材を受ける主演の一人、ハーヴィー役のガブリエル・マクト。窓の外はマンハッタンの風景そのものに見えるが、もちろんフェイク(パイロット版のみニューヨークでの撮影あり)!
マンハッタンの大手法律事務所を舞台に、バックグラウンドが全く異なるハーヴィーとマイクのコンビを中心とするドラマを軽妙なタッチで描く。共演者のアンサンブルが光る本作は、現場の雰囲気も和気藹々!
Photo by: Christos Kalohoridis / NBC Universal
(c)2012 NBCUniversal, Inc. All rights reserved.
カナダ発の犯罪ドラマ「ルーキーブルー ~新米警官 奮闘記~」(※写真はシーズン3)は、死と隣り合わせの日々を送る若い警官たちの友情、恋、成長を描いた等身大の青春ドラマが人気
類まれな身体能力&知能を誇るセクシーなCIA諜報員アニーの活躍を描くスパイ・アクション「コバート・アフェア」。ヒロインと盲目のCIAエージェント、オーギーとのコンビネーションも痛快
Profile
高野宣李(たかのせんり) ライター。SFや犯罪捜査物が大好物だが、面白ければ何でもござれの雑食系。海外ドラマの洗礼は「バットマン」「冒険野郎マクガイバー」が人生のターニングポイント、今ハマっている「ホワイトカラー」では現在進行形で人生初の春めいた喜びを満喫中。