第1回 『ジャンゴ 繋がれざる者』『パシフィック・リム』『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』
最新!全米HOTムービー
世界の映画産業の中心、アメリカの最新映画情報を現地在住ライターが紹介する「最新! 全米HOTムービー」。第1回目となる今回は、『ジャンゴ 繋がれざる者』『パシフィック・リム』『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』の情報をたっぷりと紹介します!(取材・文:吉川優子、細谷佳史)
今、最もHOTな映画はコレ! 『ジャンゴ 繋がれざる者』
クエンティン・タランティーノ監督の、『ジャンゴ 繋がれざる者』が、現在全米興収1億4,700万ドル(1月末現在、日本円で約118億円 / 1ドル80円換算)を上げ、タランティーノ作品で最大のヒットとなっている。
「奴隷を扱ったものをジャンル映画として作りたいと10年前から考えていたんだ」と、昔奴隷が実際働いていたニューオーリンズのプランテーションで語っていたタランティーノ。娯楽性の高いウエスタンというジャンルの中に、シリアスな奴隷制のテーマが盛り込まれていることがヒットにつながっているのかもしれない。
ジャンゴ役のジェイミー・フォックスは、「これは30年後にも議論が続くようなすごく勇気のある脚本だ。クエンティンは、奴隷として手錠をはめられた僕を気遣い、何度も『大丈夫かい』と聞いてくれた」と話す。彼を奴隷の身から助けるシュルツ博士役は、『イングロリアス・バスターズ』にも出演したクリストフ・ヴァルツ。
彼を想定して書かれた脚本だけあってこれ以上ないほどのはまり役だ。そして、極悪非道なプランテーションのオーナーをレオナルド・ディカプリオが好演。この二人のやりとりは、本作最大の見どころといえるほど絶妙だ。またいつもながら、タランティーノの選曲センスの良さが光っている。
次にブレイクする映画はコレ! 『パシフィック・リム』
『パンズ・ラビリンス』や『ヘルボーイ』で知られるギレルモ・デル・トロ監督の『パシフィック・リム』は、海底の次元の裂け目から出現した怪物が地球を襲撃、人類の存続を懸けて作られた巨大ロボット「イェーガー」が怪物と戦うSF超大作だ。
ロボットの中に人間が入って操縦するのだが、その二人のパイロットをチャーリー・ハナムと菊地凛子が演じる。また、『ヘルボーイ』のロン・パールマンや、子役の芦田愛菜も出演している。
菊地は、「ロンドンで『47 ローニン(原題) / 47 RONIN』を撮影中に今作の話を聞き、『ギレルモの映画に出たい!』と思って、オーディションを受けた」という。ハナムは「ロボットの中に入るシーンの撮影はすごく大変だったけど、リンコだけは文句一つ言わなかった」と彼女を絶賛していた。
デル・トロといえば、その独特のビジュアルセンスとユニークな感性で知られる、今世界で最も注目されている監督の一人。彼は、「子どもの頃、メキシコで『ウルトラマン』や『鉄腕アトム』をいつも見ていた」という日本文化ファン。今作では、『トランスフォーマー』シリーズなどとはまったく違う、彼独自の世界を見せてくれるのは間違いないだろう。
ライターイチオシ映画はコレ! 『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』
アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演女優賞、脚色賞と4部門にノミネートされるという快挙を成し遂げたインディーズ映画『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』。ベン・ザイトリンが監督、共同脚本、そして音楽も担当し、ルイジアナ州モンテカットで16ミリで撮影した。
湿地帯にある「バスタブ」と呼ばれるコミュニティーに住む貧しい少女ハッシュパピーと、いつも飲んだくれている父親ウィンクとの関係を中心に、嵐に見舞われ、洪水で住む所を失いながらも、自分たちの土地から離れられない人々を描いたマジカルな作品だ。
主役ハッシュパピー役のクヮヴェンジャネ・ウォレスが4,000人の少女の中から選ばれたときはまだ5歳、撮影時は6歳だったそうだが、その自然で力強い演技にびっくり。現在9歳のウォレスは、史上最年少でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。
父親役のドワイト・ヘンリーも、ニューオーリンズでパン屋を営んでいたまったくの素人だが、ベテラン俳優にひけを取らない名演ぶり。この父娘を演じた二人の相性がピッタリで、特にエンディングが感動的。ハリウッド映画にはない手作りの良さを感じさせるイマジネーションあふれる作品だ。
【今月のHOTライター】
■吉川優子
俳優や監督の取材、ドキュメンタリー番組や長編映画の製作など、幅広く映画に関する仕事を手掛ける。
■細谷佳史(フィルムメーカー)
プロデュース作にジョー・ダンテらと組んだ『デス・ルーム』など。『悪の教典 -序章-』『宇宙兄弟』ではUS(アメリカ側)プロデューサーを務める。