第8回 クロック国際アニメーション映画祭の魅力に迫る!
ぐるっと!世界の映画祭
ユニークな開催場所で知られるクロック国際アニメーション映画祭。ウクライナとロシアで交互に開催されますが、会場は何と船上! 2012年9月9~18日に開催された第19回大会に、映画製作・配給会社カルトブランシュ(フランス・パリ)の岡本珠希さんが参加しました。映画祭版『そして船は行く』です。
ソ連崩壊で船上開催へ
同映画祭はモスクワ国際映画祭からアニメーション部門が独立する形で、1989年に設立された。しかし1991年にソ連が崩壊して国家がなくなったことを契機に、洋上を自由に行き来できる船上での開催に踏み切ったという。以降はウクライナとモスクワで交互に開催され、上映作品もウクライナ時はプロの監督、モスクワ時は学生と若手監督を対象としている。
映画祭の名誉プレジデントは、ロシア映画界の巨匠ユーリー・ノルシュテインで、地元のアニメーターたちも全面バックアップ。寄港地では上映会を開き、地元の観客との交流とアニメーション(以下、アニメ)ファンのための推進も積極的に行なっている。Krok(クロック)はウクライナ語でStep(ステップ)の意味。
寄港地ではスタジオ見学も
2012年はロシアで開催され、サンクトペテルブルク→バラーム→ヤロスラブリ→モスクワというルート。昨年はロシアアニメーション誕生100周年とあって、出発地のサンクトペテルブルクでは記念式典も開催された。「ロシアアニメ歴代トップ100の発表も。中には最近の作品もあったのですが、作風やタッチに、先人たちからの影響を強く感じました」と岡本さん。
また寄港先のヤロスラブリでは、『老人と海』が米アカデミー賞短編アニメ賞を受賞したアレクサンドル・ペトロフのアトリエを見学した。「乗船中も他にやることがないので(笑)、朝から晩まで出品作を観賞するアニメ漬けです」。船上は映画祭に最適の場なのかも!?
巨匠たちから直接批評
岡本さんは配給を手掛けている橋本新監督の短編『ベルーガ』が国際コンペ部門に選出され、橋本監督に代わって参加した。連日上映の他、ワークショップや巨匠たちによる批評もあった。『ベルーガ』の公開批評を担当したのは、ウクライナのイゴール・コヴァリョフ監督で「感情的で表情が豊かな作品」と評価する一方、「ビジュアルと音楽の両方がエモーショナルで殺し合っている」と厳しい意見も。
「橋本監督に伝えると『悪いところは自分でも気付いていた』と受け止めていました。批評された監督の中には、ムッとしていた人もいましたが、巨匠たちの言葉からは愛情を感じます。若手を育てたい気持ちが強いから、コメントが厳しいんですよね」と岡本さんは話す。
国際交流のカギはウオッカ!
食事は3食用意されるが、ノーチョイス。メニューは、ロシア名物の赤カブを使ったスープのボルシチや、にしんの塩漬けや薫製、ヨージキ(ロシア風ミートボール)などの定番が並ぶ。参加者皆で囲む食卓はおいしさ倍増だ。さらに、船内で過ごす長い夜には、仮装パーティーといったイベントや、ウオッカ持参の酒宴が続く。
「どこか修学旅行のような雰囲気で、映画祭終了後もFacebookなどでの皆とのやり取りがすごかった。参加者の6割はロシアやウクライナ人なんですけど、皆陽気なんですよ。とにかく飲む! これが、皆と親しくなるカギですね(笑)」。寄港地では買い物をしたり、観光も可能。船上から見る夕焼けや街の景色もまた格別だ。
今年はウクライナで開催
今年2013年は9月1~10日開催。ウクライナルートでオデッサ→セバストポリ→ザポロジー→キエフと航海する。日本からはアエロフロート・ロシア航空で、モスクワ経由オデッサ行きが便利。岡本さんの場合、渡航費は実費だがクルーズ代(食費込み)は招待だった。限られた空間なので洗濯はほぼ無理。着替えを準備していった方が賢明だ。
10日間の集団生活
船上での映画祭は、途中下船不可の集団旅行。ゆえに「集団生活が苦手な人は不向きですね。またある程度言葉(ロシア語または英語)がわからないと、他の監督たちとコミュニケーションが取れないので参加するのは厳しいですね。しかし、日本のアニメーション作家は一人で作業している人が多いので、他国のクリエイターらと交流できる良い機会だし、何より巨匠たちから直接指導を受けられるので、特に若手には得難い勉強になると思います」と岡本さんは語った。
レポート・写真:岡本珠希
編集・文:中山治美