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第4回 原作者・石井光太

映画『遺体 明日への十日間』短期集中連載

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遺体

 2011年3月11日、東日本大震災という未曾有の悲劇が起きた。震災から2年目を迎え、報道では伝えられなかった遺体安置所の真実を描いた映画『遺体 明日への十日間』。本作に関わったスタッフ、キャストたちの思いとは? 連載第4回は、本作の原作「遺体 震災、津波の果てに」(新潮社)の著者である石井光太が登場。映画化への思い、そして被災地のこれからを語る。

遺体安置所をテーマにした理由

本カバー写真
「遺体 明日への十日間」(新潮社刊)カバー写真

 被災地での取材中、宿泊所に帰る車の中でラジオの報道を聞いていました。そのときに流れていたのは義捐金のことや、避難所のこと。もちろん必要な情報ではありますし、大切なことではありますが、僕が被災地で見た光景と一時情報との間に大きな違和感がありました。というのも、津波の犠牲者というのは、あくまで亡くなった方々と遺族の方々だと思うんです。

 あのときに必要だったのは、その犠牲者が直面している問題をどう理解して、支えていくかということでした。そこを抜かしてしまったまま仮設住宅や復興の話だけが独り歩きしているように思えた。僕自身の役割は、メディアが目を背けている犠牲者の真実に目を向けることだと思いました。彼らを取材しようと決意したとき、遺族や亡くなった方々が集まる場所というのは「遺体安置所」だと気付いたのです。

遺体安置所の印象

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石井光太
被災地への思いを語る石井光太

 僕は臆病者なので、遺体安置所に入ることは本当に怖かった。最初に足を踏み入れるまで、入り口との間を何度も行き来しました。いったいどんな光景が広がっているのかわからないし、ご遺体を見ることに自分自身が耐えられるかという不安もありました。ですが、被災地を取材したときに、遺体を運んでくださいとか、遺体が見つからないんです、と泣き叫んでいた遺族の方々のことを思い出し、自分がここで引き返してしまったら、そういった方々の悲しみを伝えられないまま進んでしまうと思い、足を踏み入れました。

 安置所に足を運んでいるうちに、そこで働く方々と知り合い、話もするようになりました。彼らが何をしているのかということに目を向けたとき、必死になって遺族の方々を支えようとする姿が見えてきたんです。自分だって逃げ出したいだろうに、ペットボトルを片手に一生懸命にご遺体を洗い、取り乱した遺族に怒鳴られても一言も言い返さずにただ彼らの慟哭を聞く。町の人々が必死になって亡くなった方々の尊厳を守ろうとしている姿を見ているうちに、遺体安置所が怖い場所ではなくなってきました。

主人公・相場常夫のモデルとなった千葉さんとの出会い

相葉役の西田
千葉さんとは瓜二つだという西田敏行--映画『遺体 明日への十日間』より (C) 2013フジテレビジョン

 千葉さんは当時ものすごく忙しく働かれていて、実際には何か所もの遺体安置所を回られていたんです。そんな中で千葉さんの軽自動車に乗って、話を聞かせていただきました。千葉さんはただ真っすぐに前を見続けて、涙をぼろぼろとこぼしながら、運ばれてくるご遺体がどれほど悲惨か、そのご遺体をいかに人間らしく扱ってあげることが大切か。声をかけ続けることがとても大事だということをお話ししてくださいました。

 70歳を過ぎたご老人が、朝5時半からボランティアとして遺体安置所に毎日通い、暗い遺体安置所の中でご遺体や遺族の方にかけ続ける温かな声が、安置所を支える大きな力になっているように思えました。その千葉さんの声を聞いたとき、その声を中心に、遺体安置所で働く方々を描きたいと思うようになりました。遺体安置所を描く、というよりは町の方々がどのように亡くなられた方々の尊厳を守り、町を守ろうとしたのかを描こうとそのときに思いました。

映画化への思い

君塚と石井
君塚良一監督と(左・君塚監督 右・石井)

 本の発売から1か月後に映画化のお話を頂いたときは、正直、「本当にできるのか?」と思いました。君塚監督にお会いしたとき、僕は「とにかく被災地に行ってくださいと言いました。僕は、現実に生きる方々と対峙(たいじ)したときに、取材する側はある種の覚悟を決めなければいけない瞬間が出てくる。特に亡くなっている方や、遺族の方と対峙(たいじ)して描くということは、そのの思い全てを背負わなければいけない。それを抜きにして映画を作ることは不可能なんです。

 君塚さんと一緒に釜石に行って、関係者や遺族の方々をご紹介した後、皆さんから君塚さんとお話を何度もして、手紙を頂いた、などの話を聞いて、君塚さんの覚悟が伝わってきました。作品が出来上がるまでは、関係者の方々も皆さんとても不安がっていたことは事実です。でも映画が完成して、作品を観たときに、君塚監督がとても真摯(しんし)に作ってくださったと感じました。それは関係者の方々もそうだったようで、試写を観た皆さんから「素晴らしかったです」というメールをいただいたときは、僕もとてもうれしかったです。(編集部・森田真帆)

なお、本作の配給によると本作の収益金は被災地に寄付されるとのことです。

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