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世相を反映する映像作品から差別問題を考える

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クラシック作品から見る現代作品から考えるテレビドラマからわかる

世相を反映する映像作品から差別問題を考える

悲しいことに人間は差別をする生き物である。しかしながら、そうしたさまざまな差別の存在を人々がきちんと認識し、その実態や構造を理解することによって、最大限の平等を実現することは可能であるはずだ。何事においても「知る」ということは重要な進歩である。そこで、今回は人種と価値観のるつぼであるアメリカの映画やテレビドラマの中から、差別について考えるきっかけとなるような作品をチョイス。文字数に限りがあるため、昨今のグローバル化社会の中でより深刻になりつつある人種問題を扱った映画を中心に紹介していきたい。
 
文/なかざわひでゆき

クラシック作品から見る

問題意識の低かった時代

まずは、差別に対する人々の問題意識がまだ低かった時代の映画から見ていこう。アメリカ映画最初の金字塔といわれるD・W・グリフィス監督の南北戦争映画『國民の創生』(1915)は、白人至上主義団体KKKを勇敢な英雄として扱い、黒人を愚かで暴力的な人種として描いたことでも悪名高い。しかし、当のグリフィスは『散り行く花』(1919)で白人女性と中国人男性の悲恋を描いていることからも推察されるように、決して人種差別主義者というわけではなかった。当時の白人の多くが黒人に対して抱いていた偏見や先入観を率直に反映しただけだった、と推察するのが妥当だろう。

また、アメリカでは19世紀末からの中国系移民の大量流入、20世紀に入ってからの大日本帝国の台頭に対する不安や警戒心から、アジア人を露骨に敵視するような映画も数多く作られた。その代表例が、中国人の犯罪王フー・マンチューを主人公にした『成吉思汗の仮面』(1932)を筆頭とする一連のフー・マンチュー映画だ。さらに、バットマンの最初の映画化作品である連続活劇『バットマン(原題) / Batman』(1943・日本未公開)やアニメ版『スーパーマン』(1941)では、日本人が悪役として登場。その偏見に満ちた内容は衝撃的だ。

衝撃的といえば、見世物小屋で働く身体障害者たちが自分たちをいじめる人々に壮絶な復讐(ふくしゅう)を果たす『怪物團』(1932)はさらにすさまじい。本来は障害者差別を糾弾する意図を持った映画なのだが、その被差別者たちをある種の怪物として描いているため、逆に差別を助長しかねない危険性をはらんだ作品だといえよう。演じているのは本物の障害者たち。こうした戦前の古い映画を通してその時代の価値観に触れてみると、逆に差別とは一体何なのか、どこから来るものなのかということを考えさせられる。

D・W・グリフィス

D・W・グリフィス
General Photographic Agency/Getty Images

「国民の創生 / グリフィス短篇集 クリティカル・エディション 2枚組」

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発売中
6,300円(税込み)
発売元:紀伊國屋書店
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「散り行く花」

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発売中
3,675円(税込み)
発売元:アイ・ヴィー・シー
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現代作品から考える

ウーマンリブ運動などによる変化

さて、戦後も有色人種に対する法的な差別が歴然と存在していたアメリカでは、やがて1950年代半ばより人種差別を解消するための公民権運動や、1960年代後半からは女性の権利向上を訴えるウーマンリブが活発化していく。そのような時代を背景に誕生した傑作が、地域住民の反発や中傷に屈することなく無実の黒人青年を救おうとする弁護士を描いた『アラバマ物語』(1962)だ。また、戦前の映画『模倣の人生』(1934)をリメイクした『悲しみは空の彼方に』(1959)では、白人と黒人のシングルマザーが苦難に直面しながら友情を育んでいく姿を通して、彼女たちの前に立ちはだかる女性差別と人種差別の高い壁を描いてみせた。

さらに時代が下ると、1970年代前半に起きた黒人映画ブームの中から人種問題と向き合う黒人の映画監督が現れ始める。その代表格がメルヴィン・ヴァン・ピープルズだ。白人と権力に対する敵意をむき出しにしたアクション映画『スウィート・スウィートバック』(1971)は日本でも有名だが、平凡な白人サラリーマンがある朝目覚めると黒人になっていたという不条理な設定の下、人種差別の理不尽はもとより中途半端なリベラルの偽善をも風刺したコメディー『ウォーターメロン・マン(原題) / Watermelon Man』(1970・日本未公開)がまた一見の価値あり。その作家性において後継者と見なされるのがスパイク・リー監督。伝説的な公民権運動活動家の生涯を描いた『マルコムX』(1992)も見応え十分だったが、やはりさまざまな人種間の根深い対立や経済格差などを背景にした群像劇『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)が最も印象深い。一口に人種差別といっても多民族社会においては複雑な様相を呈するのだ。

「アラバマ物語 コレクターズ・エディション」

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発売中
3,990円(税込み)
発売元:ジェネオン・ユニバーサル
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「マルコムX」

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発売中
1,500円(税込み)
発売元:パラマウント ジャパン
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「ドゥ・ザ・ライト・シング」

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発売中
1,500円(税込み)
発売元:ジェネオン・ユニバーサル
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現代アメリカの差別問題

また、同性愛者グループの目を通して性の多様性に不寛容な社会を考察した『真夜中のパーティ』(1970)や、いつの時代も男性が潜在的に持つ女性蔑視を完全無欠の人造主婦に投影させた『ステップフォード・ワイフ』(1975・日本未公開)も、一筋縄ではいかない差別意識の構造を痛感させる。貧しい黒人社会にも存在する女性差別や階級差別に切り込んだスティーヴン・スピルバーグ監督の『カラーパープル』(1985)は、弱者がさらに弱者を虐げるという負の連鎖を描いていて秀逸。

ハリウッドにおけるダークサイドの住人ティム・バートン監督は、『バットマン リターンズ』(1992)でさげすまれ続けるマイノリティーの悲しみと怒りと復讐(ふくしゅう)をエンターテインメントへと昇華させた。近年では、多様化する人種や階級間のあつれきと衝突を巧みな構成で浮き彫りにした『クラッシュ』(2004)、急増するアジア系移民の問題に焦点を合わせた『グラン・トリノ』(2008)あたりが、現代アメリカの差別問題を理解する上で必見だろう。

「カラーパープル」

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2,625円(税込み)
発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ

「クラッシュ」

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2,940円(税込み)
発売元:東宝
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「グラン・トリノ」

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発売中
1,500円(税込み)
発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
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テレビドラマからわかる

テレビドラマで描かれる差別

次にテレビドラマへ目を移してみよう。かつては誰もが無料で観ることができるというテレビの性質上、ドラマで描かれる世界には差別などほとんど存在しなかった。わずかに、伝統を重んじる保守的な田舎町の水面下で繰り広げられる愛憎劇を描いた青春ドラマ「ペイトン・プレイス物語」(1964~1969)において、社会的立場の弱い女性に対する根強い偏見の問題に触れられていたくらいだろうか。

しかし、1970年代に入ると公民権運動やウーマンリブの影響で様相が一変する。中でも画期的な第一歩だったのは、人種差別や同性愛、中絶など、それまでタブー視されてきた社会問題を初めてオープンに取り上げたホームドラマ「オール・イン・ザ・ファミリー(原題) / All in the Family」(1971-79)である。これを契機に、いわゆる社会派的要素を盛り込んだテレビドラマが次々と登場。その頂点ともいえるのが、黒人差別からユダヤ人差別、階級差別、同性愛差別まで、ありとあらゆる差別を痛烈なブラック・ユーモアで笑い飛ばした異色のシットコム「SOAP ソープ」(1977~1981)。ゲイの若者を等身大に演じたビリー・クリスタルを一躍スターにした番組としても有名だが、その破天荒で荒唐無稽なストーリー展開を含めて、これは今観ても十分に面白い傑作だ。また、ミニシリーズとして放送された「ROOTS/ルーツ」(1977)は、奴隷制度があった時代にまでさかのぼってアフリカ系アメリカ人の苦難の歴史を力強く描き、日本でも主人公クンタ・キンテの名前が流行語になるほどの大ブームを巻き起こした。

ミア・ファロー

「ペイトン・プレイス物語」には若き日のミア・ファローも出演
Stephen Lovekin / Getty Images

ビリー・クリスタル

「SOAP ソープ」のビリー・クリスタル
Kevin Winter / Getty Images

近年のテレビドラマでの表現

1980年代のドラマは時のレーガン政権の影響もあってか一時的に保守化した。だが、近年は表現に規制の少ないケーブル局が次々とオリジナルドラマを放送するようになったおかげで、よりストレートに差別の問題を取り上げる作品が増えたといえる。中でも、日陰者の同性愛者を夜の民バンパイアになぞらえた「トゥルーブラッド」(2008~放送中)は、人間とバンパイアの種族を超えた禁断の愛を主軸としつつ、現在もアメリカ南部に脈々と伝わる人種差別や階級差別、宗教や迷信などの深刻な病巣を生々しくえぐり出した野心作。

1960年代のニューヨークを舞台にした「MAD MEN マッドメン」(2007~放送中)ではアメリカの一般大衆が人権問題に鈍感だった時代が克明に描かれている。 また、ネットワーク系のドラマでも、世界中で大ブームを巻き起こしたミュージカルドラマ「glee/グリー」(2009~放送中)などは、格差が歴然と存在する学園生活の中において、性的志向や身体的特徴などのせいでイジメられる高校生たちを主人公に、彼らがその現実と対峙(たいじ)しながら乗り越えることで人間的に成長していく姿を堂々と描いている。

日本人はよく「単一民族の日本には人種差別がないからよくわからない」などと言うが、そもそも日本は決して単一民族などではないし、めったに表面化しないだけで人種差別はいくらでも存在する。それどころか、同和問題から身体障害、同性愛に至るまであらゆる差別がそこらじゅうに散らばっている。ただ臭いものにふたをしているだけの話だ。だからこそ、ここで紹介した作品を通して、改めて身近にある差別の問題について考えてみてほしい。

「マッドメン シーズン1 DVD-BOX」

「マッドメン シーズン1 DVD-BOX」
発売中
20,790円(税込み)
発売元:フジテレビジョン/ポニーキャニオン
販売元:ポニーキャニオン

「glee/グリー DVDコレクターズBOX」

「glee/グリー DVDコレクターズBOX」
発売中
15,120円(税込み)
発売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
販売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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