第11回 ウディネ・ファーイースト映画祭の魅力に迫る!
ぐるっと!世界の映画祭
KAT-TUN亀梨和也が主演映画『俺俺』のワールドプレミア上映を行ったことで一層、注目度が高まった第15回ウディネ・ファーイースト映画祭(2013年4月19日~27日)。第2回から日本作品のコンサルタントを務める米映画評論家マーク・シリング氏が、映画祭の軌跡と今年の傾向をレポートします。
アジア映画を欧州に発信
映画研究家サブリナ・バラセッティ(現・映画祭ディレクター)らが中心となって、イタリアの劇場ではなかなか公開されないアジア映画に特化した映画祭を開催すべく1999年にスタート。上映作品も「カンヌやベネチアなど他の欧州の映画祭で上映されるアート作品ではなく、アジアの一般大衆が支持している娯楽作が中心です」(シリング氏)。
今ではすっかり三大映画祭の常連となっているジョニー・トー監督をいち早く欧州で紹介したのもここで、トー監督は第1回から参加している。2008年には映画会社Tucker Filmを設立し、DVD販売&配給業務にも着手。松たか子主演『告白』や阿部寛主演『テルマエ・ロマエ』が映画祭で支持を得て、イタリア公開が決定した。
伝説となった『おくりびと』
日本映画の参加は、シリング氏が加わった第2回大会から。以降、石井輝男、市川準各監督特集のほか、日活アクション、新東宝特集も行われた。「滝田洋二郎監督『秘密』が第2回に上映されたときは評判を聞きつけたリュック・ベッソン監督が駆け付け、それがフランス映画『WASABI』への広末涼子起用につながりました。さらに同じ滝田監督の『おくりびと』を第11回に上映したのですが、上映後20分間も泣きやまない観客が続出しました」(シリング氏)。
ただし日本のヒット作が必ずしも評価されるわけではなく「テレビドラマの映画化はドラマを知らない観客には難しい」とシリング氏。逆に『ガチ☆ボーイ』のように日本の興行は厳しかったが、ウディネで観客賞を受賞した例もある。
今年のカギはコメディー
上映作品64本のうちワールドプレミアとなったのは『俺俺』『くちづけ』『中学生円山』といずれも日本映画。シリング氏の尽力の程がうかがえる。さらに今年は、内田けんじ監督『鍵泥棒のメソッド』や深川栄洋監督『ガール』など日本ならではのコメディーを中心とした計12作品が選ばれた。
「『おくりびと』を選んだときもそうですが、いかに感動させてくれるかが重要です。中村義洋監督『みなさん、さようなら』は3回観ていますけど、毎回泣かされます」(シリング氏)。シリング氏は日本映画の魅力について、自由な発想にあるという。「海外でジャパニーズ・クワーク(Japanese Quirk)と称されるように、“日本映画は奇抜だけど面白い”と認識されています。アイデアの豊富さは他のアジア映画に負けていないですよ」。
多数の文化と歴史を丸ごと体験
映画祭期間中は市内各所でアジア文化を丸ごと楽しむ関連イベントが多数開催される。最も盛り上がるのは、今年で第4回を迎えたコスプレ・コンテスト。ほか、書道、折り紙、太極拳などが趣ある公園や広場で体験できる。また、スロベニアとの国境沿いにある美しい港町トリエステにもバスで約1時間。ここには、映画『ライフ・イズ・ビューティフル』のロケ地にもなったイタリア唯一の強制収容所リジエラ・デイ・サン・サッバがあり、無料で見学できる。
ウディネを含めイタリア北部は場所柄、第2次大戦中、パルチザンの活動が盛んでナチス・ドイツに抵抗した複雑な歴史を持つ。同じイタリアでも、地域によって全く異なる文化や風習を持っていることを体感できるはずだ。
魅惑のサンダニエーレって?
ウディネにはトリエステ空港からバスで1時間。またはベネチア空港からバスと列車を乗り継いで約2時間半。ベネチア共和国とオーストリアの影響を受けた建造物が残る人口約10万人の小都市だ。治安も良く「この14年間、映画祭参加者がトラブルに巻き込まれたことはない」(シリング氏)。
名産は生ハム、サンダニエーレと地元フリウリのワイン。またオーストリアの名残を感じる地ビールBIREとイモのパンケーキ、フリコもオススメ。
もっと積極的に参加を!
昨年の東京国際映画祭期間中に行われた海外映画祭プログラマーサミットで、バラセッティが「こちらの知名度が低いせいか、海外は意識していないと、むげに断られたこともある」と漏らしていたが、日本の映画会社の協力態勢もあまり良いとはいえないようだ。そのため上映作品を確保するのも、ゲストとして参加してもらうのも一苦労するという。シリング氏は「参加すれば次につながる出会いがありますよ」。来年はぜひ『テルマエ・ロマエII』を上映し、阿部寛を呼びたいという。
レポート:マーク・シリング
編集・写真・文:中山治美