第5回 『華麗なるギャツビー』『ビフォア・ミッドナイト(原題) / Before Midnight』『プッシー・ライオット - ア・パンク・プレイヤー(英題) / Pussy Riot - A Punk Prayer』
最新!全米HOTムービー
世界の映画産業の中心、アメリカの最新映画情報を現地在住ライターが紹介する「最新!全米HOTムービー」。今回は、『華麗なるギャツビー』『ビフォア・ミッドナイト(原題) / Before Midnight』『プッシー・ライオット - ア・パンク・プレイヤー(英題) / Pussy Riot - A Punk Prayer』を紹介します!(取材・文:細木信宏)
■『華麗なるギャツビー』(2012)
アメリカ文学の代表的作家F・スコット・フィッツジェラルドの名作「グレート・ギャツビー」は、これまで数回にわたって映画化されてきたが、人々の記憶に残り世間に知られているのは、おそらくロバート・レッドフォードとミア・ファロー主演の1974年『華麗なるギャツビー』であろう。このたび、あの二大俳優に引けを取らない配役をし、困難な映画化に再挑戦したのが、映画『ムーラン・ルージュ』で独特な世界観を見せつけたバズ・ラーマン監督だ。
彼は、映画『タイタニック』で世界中の女性のハートをつかんだレオナルド・ディカプリオと、話題作に立て続けに出演する演技派女優キャリー・マリガンを起用。フィッツジェラルドの世界観を3Dで彩る決断をし、われわれ観客を1920年代当時のニューヨーク、ロングアイランドにいざなう視覚効果を生み出した。ミステリアスでクールな大金持ち、ジェイ・ギャツビー役のディカプリオがこん身の演技を見せ、チャーミングな女性デイジー・ブキャナンを演じたキャリー・マリガンが、繊細な感情表現で、あのミア・ファローをほうふつさせる魅力を見せる。
さらにニック・キャラウェイ役のトビー・マグワイアは、抑えた演技で、まさに原作者フィッツジェラルドの観察力を巧みに伝える。そして映画音楽は、ジェイ・ZとThe Bullittsが担当し、1920年代当時の音楽にこだわることなく、さまざまなジャンルの音楽を使用し、われわれを刺激してくれる。
■『ビフォア・ミッドナイト(原題) / Before Midnight』
5月から数々の夏の大作がめじろ押しの中で、大作とはいえない『ビフォア・ミッドナイト(原題) / Before Midnight』がヒットしそうだと予測するのにはさまざまな要因がある。本作は、イーサン・ホークとジュリー・デルピー主演の人気ラブコメディー『恋人までの距離(ディスタンス)』『ビフォア・サンセット』の続編。3作続けてリチャード・リンクレイターがメガホンを取り、脚本は前作から引き続き、主演二人と監督が共同執筆している。
そのため、ウイットに富んだ会話のセンスとジョークには磨きが掛かり、長回しの撮影も板についてきた。特にオープニングのシークエンスは、驚くほど自然な流れで長回しの撮影が行われている。リンクレイター監督は前作の撮影を終えてから、6、7年は第3弾のことは全く考えず、2010年から三人でアイデアを練り始めたそうだ。今作は、イーサン演じるジェシーと、ジュリー演じるセリーヌが前作から共に暮らし、すでに二人の間には小さな双子の子どもがいるという設定で、彼らが6週間のギリシャ旅行の途中であるというところから物語が始まる。
注目したいのは、イーサンとジュリーは、前作からの約10年の間に監督にも挑戦し、俳優としてだけではなく、演出の観点からも意見を交わしているだろうこと。主役二人の言葉には重みが増し、観客は徐々に彼らの会話に引き込まれていくのだ。さらに、彼ら二人の周りには共通のヨーロッパの友人たちがおり、それぞれの価値観を交錯させていくところも魅力の一つになっている。
■『プッシー・ライオット - ア・パンク・プレイヤー(英題) / Pussy Riot - A Punk Prayer』
今年のサンダンス映画祭で注目された話題のドキュメンタリー映画『プッシー・ライオット - ア・パンク・プレイヤー(英題) / Pussy Riot - A Punk Prayer』は、昨年3月にウラジーミル・プーチンが再選され、その大統領選挙に対して抗議活動をした女性たちを描いた作品だ。その抗議の中心人物は、ロシアのフェミニスト・パンク・ロック集団、プッシー・ライオットのメンバーである3人の女性、マリア・アリョーヒナ、ナジェージダ・トロコンニコワ、エカチェリーナ・サムツェヴィッチ。
彼女たちが、モスクワにあるロシア正教会救世主ハリストス大聖堂で、プーチンを批判する即興の無許可演奏を行い、わずか1分足らずで逮捕され、その後、裁判に掛けられた過程を描いている。映画内ではカラフルなマスクを頭にかぶり、あらゆる場所で軽快な演奏を繰り広げるプッシー・ライオットのこれまでの活動や、彼女たちの家族へのインタビューによってメンバーの内面や、彼女たちの動機に迫っていく。
さらに、現在のロシアの政治状況、拘束中だったメンバーへの虐待、最長で7年の刑が下される可能性がある中で、多くの国民から同情を集めた経緯のほか、「神を冒?(ぼうとく)した」として批判的な見解を述べる人々など、さまざまなアングルで捉えている点も興味深い。結局、裁判ではマリアとナジェージダが禁錮2年の実刑判決を受け、祭壇でパフォーマンスができなかったエカチェリーナだけが、執行猶予2年が言い渡されている。鑑賞後には友人同士で議論したくなる映画であることは間違いない。
【今月のHOTライター】
■細木信宏 / Nobuhiro Hosoki
海外での映画製作を決意し渡米。フィルム・スクールに通った後、テレビ東京ニューヨーク支社の番組「モーニング・サテライト」のアシスタントとして働く。現在はアメリカのプレスとして活動中。