特撮工房ILMを訪問!
8月9日に公開される注目の大作『パシフィック・リム』。25階建てのビルと同じ大きさの巨大ロボットと怪獣が死闘を繰り広げる圧倒的なVFX(ビジュアル・エフェクツ)映像が最大の見どころだ。特撮を担当したのは、VFX界において常にパイオニア的存在で、次々と革新的な映像を生み出してきたインダストリアル・ライト&マジック(通称ILM)だ。このたび、ILMが手掛ける新作『パシフィック・リム』の取材で、「スター・ウォーズ」シリーズの聖地でもある、サンフランシスコにあるILMを訪問した。(取材・文:細谷佳史)
最もヒットした作品トップ10のうち7本に関わるILM
ILMは、もともとジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』のVFXを製作するために1975年に立ち上げた工房。すべての「スター・ウォーズ」シリーズだけでなく、映画『アバター』『タイタニック』『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、『アベンジャーズ』『ジュラシック・パーク』『E.T.』『メン・イン・ブラック』『トランスフォーマー』『ミッション:インポッシブル』『スター・トレック』など、全米で最もヒットした作品トップ10のうち7本に関わっており、近年のハリウッド映画に与えた影響は計り知れない。
そんな最先端のVFXを手掛けてきたILMは、40年近くにわたって約300本もの作品を世に送り出し、そしてアカデミー賞で最も優れたVFXの作品に贈られる視覚効果賞の受賞は15回(The Official Academy Awards(R) Databaseより)にも及ぶ。
ヨーダがお出迎え
ゴールデンゲートブリッジ近くのプレシディオという場所にあるILMに到着すると、まずは噴水の上に立つヨーダが出迎えてくれる。北カリフォルニアらしい日差しに溢れているロビーには、等身大のダース・ベイダーやボバ・フェットなど、「スター・ウォーズ」シリーズの人気キャラが飾られているほか、特撮の生みの親で、1933年に公開された映画『キング・コング』を手掛けたウィリス・H・オブライエンの銅像が飾られている。
ILMの担当者に案内され建物の中を進んでいくと、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』で使われたオリジナルのデザイン画、『ジュラシック・パーク』のTレックスのモデル、黒澤明の『夢』で使われた背景画、『E.T.』の自転車、R2-D2にヨーダ、『ハムナプトラ』シリーズのミイラなど、実際に映画の中で使われた、さまざまなミニチュアやマット画(映画の背景画)など、映画ファンには、たまらないお宝で溢れている。
アート・ディレクターのイェーガーさん登場!
建物内をツアーしながら、オフィスや試写室に立ち寄り、『パシフィック・リム』でアニメーション・ディレクターを担当したハル・ヒッケル、アート・ディレクターを担当したアレックス・イェーガー(本名というから驚き)、デジタルモデル・スーパーバイザーを担当したポール・ジアコッポに、それぞれの立場から、いかに怪獣や巨大ロボットのイェーガーを映像化していったかについて話を聞いた。
そしてツアーの締めくくりとして、フランク・ロイド風の素敵な劇場内で、ギレルモ・デル・トロ監督とアカデミー賞を受賞したVFXスーパーバイザーのジョン・ノールから、本作の製作秘話を話してもらった。日本の映画やアニメに造詣が深いデル・トロは、ロボットのデザインについて以下のように語った。
鉄人28号と機動警察パトレイバーからの影響が大
「『鉄人28号』の影響は大きい。もし『パシフィック・リム』の続編が作られれば、メキシコのロボットが登場することになって、それは丸みを帯びていてとても鉄人に似ているよ。それ以外に、第二次世界大戦のテクノロジーにかなり影響を受けている。当時ロシアには空飛ぶ要塞と呼ばれた、一度も飛んだことがない飛行機があった。7階建てビルぐらいの高さがあって、それぞれの翼に7個ぐらいのエンジンがついている巨大な飛行機なんだ。そういった時代のソ連のテクノロジーの影響は大きい。
それから「機動警察パトレイバー」(押井守監督)シリーズは、この作品のリアリズムに大きな影響を与えている。デザインというより、リアルに感じさせるという意味でね。それと、それぞれのロボットにはその国の特徴を反映しようとした。(アメリカ製の)ジプシー・デンジャーには、エンパイヤ・ステート・ビルのようなアール・デコっぽいスタイルと、ジョン・ウェイン(カウボーイ)の雰囲気がある。中国製のイェーガーには、中世の鎧と深紅の漆が感じられるんだ」
カメラの位置とアングルにこだわり
今回ロボットも怪獣もオールCGだが、デル・トロ監督はあえてリアルに見せる演出にこだわったようだ。「僕らが最初に決めたのは、カメラがロボットの目の中に入って、そこからまたカメラが出てきて、ロボットの周りを回る、といったエキサイティングだけどいかにもCGと分かるショットをやらないということだった。カメラを実際に撮影できる位置に置くことにしたんだ。ヘリコプターからとか、ボートの上からとかね。そしてそのアングルを繰り返し、それらが実際に撮影されたリアルな映像だと観客に思わせるように試みたんだ」
日本人にとって、怪獣や巨大ロボットは昔から馴染みのあるジャンルだが、日本の実写映画では決して描けないスケールとリアリズム溢れる映像がとにかく素晴らしい。ぜひ映画館の大画面で、さらに可能なら、IMAXで体験して欲しいこの夏一番の注目作だ。
■取材・文:細谷佳史(フィルムメーカー)プロデュース作にジョー・ダンテらと組んだ『デス・ルーム』など。『悪の教典 -序章-』『宇宙兄弟』ではUS(アメリカ側)プロデューサーを務める。