『ワールド・ウォー Z』公開記念!かっこいいだけじゃないブラピの魅力を検証 今週のクローズアップ 2013年8月16日 『ワールド・ウォー Z』の公開を記念し、ブラッド・ピットを特集。50歳を目前にしながら衰えぬ美貌を誇り、常に新たな方向性を模索しながらハリウッドの第一線で活躍し続ける彼の魅力を、さまざまな角度から分析します! 出世作の『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992)では、フライフィッシングに情熱を燃やす兄弟の弟にふんし、田舎町の豊かな緑とキラキラと輝く川を背景に、素朴でみずみずしい印象を残したブラピ。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)ではトム・クルーズと共に吸血鬼にふんし、BL(ボーイズラブ)を思わせる妖しい愛憎関係で女性たちをとりこに。瞳に愁いをたたえたかなしみの吸血鬼をハマリ役で熱演し、壮絶な減量を経て変身したトムに劣らぬ存在感を発揮した。また、ヒット作『セブン』(1995)に続いてデヴィッド・フィンチャー監督と2度目のコンビを組んだ『ファイト・クラブ』(1999)は男のマッチョな精神を具現化したかのようなキャラクターに加え、6つに割れた腹筋、引き締まった肉体美が目を引く。肉体美といえば、ガイ・リッチー監督作『スナッチ』(2000)で演じた闇の素手ボクシング試合に出る流浪民パイキー役も印象的。彼が繰り出すアイリッシュなまりの英語にイギリス人たちが首をかしげるシーンは、最高に笑える。 同じく、「異世界」のキャラクターに挑んだ『ジョー・ブラックをよろしく』1998)ではスーツ姿の死神役に。「こんな死神だったら、思わずついていってしまうかも……」とのぼせてしまうような美しさだ。大会社の社長を迎えに来たものの、その娘と恋に落ちてしまう死神という、何ともロマンチックな役どころ。ポーカーフェイス&ひょうひょうとした話し方は人間離れしているが、なぜかピーナツバターを好むという庶民的な一面も。アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)では、老人の姿で生まれた男の80年にわたる若返りの過程を演じ分けるなど、ファンタジックな役柄がピタリとハマる稀有(けう)な存在だ。 『リバー・ランズ・スルー・イット』 © Columbia Pictures/ゲッティイメージズ 『ジョー・ブラックをよろしく』 © Universal Pictures/ゲッティイメージズ ブラピの数多い出演作の中で、最もポピュラーな作品の一つが『オーシャンズ』シリーズ(2001~2007)。監督のスティーヴン・ソダーバーグ、そして主演のジョージ・クルーニーからオファーされたブラピは、「これでもかとビッグな俳優が数多く出演しながら、どのキャラクターも均等に描かれている。そこが気に入ったんだ」と、快諾。彼が演じるラスティー・ライアンは、詐欺チームを束ねるボスの右腕であり、細部にこだわる完全主義者。冷静でちょっとシニカルでありながら、ジャンクフードに目がなく、いつもハンバーガーやスナックを手にしているという子どもっぽさも兼ね備えたチャーミングなキャラクターだ。キャラ立ちしながらも、あくまで主張し過ぎず一歩引いたところで主人公のオーシャンを支える抑えた演技が素晴らしく、彼の「ちょいワル」な魅力を最大限に引き出した作品ともいえる。 『ジェシー・ジェームズの暗殺』(2007)『ジャッキー・コーガン』(2012)でブラピを「アウトロー」に起用し、彼のクールな魅力を引き出したのがアンドリュー・ドミニク監督。後者の撮影の際、ブラピは「個人的にも大好きな監督であり、親友でもある」と彼に絶大な信頼を寄せていた。「とびっきりのワルを描いた作品であり、銀行破たん、経済危機の真っただ中にある現代だからこそ観るべき」と深い思い入れを感じさせる本作で、ブラピが演じたのは孤高の殺し屋。現代のアメリカ社会を揶揄(やゆ)するブラックユーモアは好き嫌いが分かれるかもしれないが、「優しく殺す」をモットーに眉一つ動かすことなく、賭博場強盗に関わったワルたちを皆殺しにしていくアンチヒーロー的なキャラクターに魅せられる。 『オーシャンズ12』 © Warner Bros. Pictures photographer: Ralph Nelson/ゲッティイメージズ 『ジャッキー・コーガン』 (C) 2012 Cogans Film Holdings, LLC. All Rights Reserved. ジョニー・デップと同様、三枚目を演じたがるブラピ。コーエン兄弟のブラック・コメディー『バーン・アフター・リーディング』(2008)では頭のねじが1本足りていなさそうなフィットネスクラブのインストラクターに、ジュリエット・ルイスと共演したサスペンス『カリフォルニア』(1993)では生まれながらのサイコキラーに。底抜けにおバカな役から、ゾッとさせるような殺人鬼まで、ハイテンションな怪演七変化を見ていると、きっとクール&美しい役柄よりもダーティーでぶっ飛んだ役柄の方が好みなんだろうと思わせられる。クエンティン・タランティーノ監督作『イングロリアス・バスターズ』(2009)で演じたナチスハンターの中尉役は、その最たる例。タランティーノが「キャスティングの際に彼しか考えられなかった」と言ったのも納得のはじけぶりだ。 これらの役を凌駕(りょうが)するキテレツな演技を披露したのが、テリー・ギリアム監督によるSFサスペンス『12モンキーズ』(1995)。本作でブラピが演じたのは、タイムマシンの故障で別の時代に飛んだ主人公コール(ブルース・ウィリス)が、収容された精神病院で出会った男。人類の99%を死に至らしめるウイルスの研究に関わっているとされる細菌学者の息子であり、主人公を翻弄(ほんろう)するキーパーソンだ。本当に狂っているのか、それとも狂ったふりをしているのか……? 主人公にとって悪の手先にも、味方にも見える不気味さを見事に体現し、作品全体のスリルを盛り上げている。主演のブルース・ウィリスを食う圧倒的な存在感を見せつけ、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。 『バーン・アフター・リーディング』 © Focus Features/ゲッティイメージズ 『12モンキーズ』 © Universal Pictures/ゲッティイメージズ 2004年に『Mr.&Mrs.スミス』の撮影中にアンジェリーナ・ジョリーと恋におちて以来アンジーの連れ子の実質的なパパとなり、2006年に実の子が誕生してからというもの、ブラピは仕事でも積極的にパパを演じるように。『バベル』(2006)では幼い2人の子どもを残して妻と異国を旅するリチャードを、『ツリー・オブ・ライフ』(2011)では3人の息子を厳しくしつける西部男に。そして、『マネーボール』(2011)では離婚して娘と離れて暮らす不器用な球団ゼネラルマネージャー役にふんし、2度目のアカデミー賞主演男優賞にノミネート。いずれも子どもに惜しみない愛情を注ぐ「熱血パパ」。それぞれタイプは違えど、やはり自身が父親であることもあって、彼の体現する父性は胸に迫るものがある。 そんなブラピが、最新作『ワールド・ウォー Z』で再び父親を熱演。しかも、今回は死のウイルスに感染した「Z」たちがはびこる世界が舞台。妻と2人の娘の安全確保を条件に、政府から要請を受けた未知のウイルスの原因究明に挑む元国連捜査官という役柄だけに、「熱血度」もグーンとアップ。フィラデルフィアから韓国、イスラエル、イギリスと世界各国を飛び回り、過酷なミッションを遂行する中で彼の理性を保ったのは、家族と再会するという願い。圧倒的な力と速度で動く「Z」の群れに対し、あまりにも小さく弱く見える彼だが、負けムードの生存者たちを尻目に、孤軍奮闘する「スーパーパパ」ぶりは頼もしい。とりわけクライマックスに、とある研究所で「Z」集団と攻防を繰り広げるシーンの緊迫感は圧巻! スケールは大きくても、登場人物たちに大仰な感情表現はさせない。今まさに世界で起こっているかのような、ドキュメンタリータッチの演出にこだわったマーク・フォースター監督のストイックな演出も効いている。 映画『ワールド・ウォー Z』 (C) 2012 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 映画『ワールド・ウォー Z』は全国公開中 構成・文:シネマトゥデイ編集部 石井百合子 ADVERTISEMENT