何でわざわざ宇宙で行くの?宇宙を舞台にしたSF作品を特集 今週のクローズアップ 2013年8月23日 さほど遠くない昔、宇宙が人類の夢の代名詞だった時代がありました。 1950年代から1970年代にかけてのわずか20年ほどの間、東西冷戦という政治的事情が背景にあったとはいえ、人類が宇宙を目指し、月面に着陸した……そんなロマンあふれる夢の時代が確かに存在したのです。 その時代には、当時の人々の宇宙への憧れを具現化した作品がありました。1966年に発表されたテレビドラマ「スター・トレック/宇宙大作戦」はその筆頭。ほかにも「ミステリー・ゾーン」(「トワイライト・ゾーン」)、「宇宙家族ロビンソン」といった作品が作られていました。 今回は「人々はなぜ、宇宙を目指したのか?」「そして、宇宙人との関係は?」をテーマにさまざまなSF作品を紹介します! 登山家ジョージ・マロリーは言いました。「なぜエベレストに登るのか?」「そこに山があるからだ」と……それになぞらえるのならば、人々が宇宙を目指すのは「そこに宇宙があるから」ということになるでしょう。もっと掘り下げてみると、「異星人とコンタクトを取ること」を宇宙進出の目的に挙げている作品が多いのですが、そうした好奇心が必ずしもポジティブに働くわけではないのが面白いところです。 1979年に公開されたリドリー・スコット監督の映画『エイリアン』には、宇宙貨物船ノストロモ号とその乗員たちが登場。彼らは人類初の異星人との接触を試みたばかりに、異星生物(エイリアン)に寄生され、戦いを強いられることになります。「好奇心はネコをも殺す」とのことわざを地で行く展開ですね。 SFホラーの金字塔である第1作『エイリアン』では望まぬ戦いをすることになったヒロインのリプリー(シガーニー・ウィーヴァー)は、第2作『エイリアン2』はともかく、第3作『エイリアン3』でもエイリアンとの戦いを余儀なくされます。『エイリアン』から数えると、作中時間にして実に200年近くもエイリアンと戦い続けているというわけで……きっと、リプリーはそもそもの発端である「異星人との接触を試みたこと」を何度となく悔やんだことでしょう。 ちなみにイギリスの物理学者で、「スター・トレック」シリーズに出演したこともあるスティーヴン・ホーキング博士は「宇宙人は存在するかもしれないが、破滅的な結果をもたらす恐れがあるので、コンタクトは避けるべき」と2010年にコメントしています。リプリーにぜひとも聞かせてあげたい言葉ですね。 BOB PENN/20TH CENTURY FOX/The Kobal Collection/WireImage.com 映画『エイリアン』より BOB PENN/20TH CENTURY FOX/The Kobal Collection/WireImage.com 映画『エイリアン』より 一方、宇宙を舞台にしているわけではないものの、宇宙人が登場するSFという意味で忘れられないのは、コメディー映画『ビルとテッドの地獄旅行』(1991)。まだ若かりし頃のキアヌ・リーヴスとアレックス・ウィンターが、ロックスターを夢見るバカな高校生にふんしたオバカムービー『ビルとテッドの大冒険』の続編です。 前作の時間旅行から帰ってきたのもつかの間、未来から送り込まれた自分たちにそっくりのロボットによって殺されてしまったビルとテッド。地獄に落ちた二人は何とか生き返ろうとする……というストーリーからしてB級臭がプンプンします。本作のビルとテッドは宇宙に飛び出すわけではないのですが、天国で火星人に助力を求めるという展開はまさに奇想天外(というかオバカ)。 宇宙を舞台にしたSF映画の代表格とされることの多い『エイリアン』が異星人とのコンタクトのポジティブな面ばかりを描いているわけではないのに対し、本作での宇宙人とのやり取りは能天気そのもの。しかし、よーく考えてみると、子どもの頃に考えていた宇宙人というのは『E.T.』しかり、『未知との遭遇』しかり、不可能なことも可能にできる、そんな夢のような存在ではありませんでしたか? 少なくとも、決して怖いばかりの存在ではなかったはずです。 本作はあくまでもB級コメディーなので、好き嫌いは分かれるかもしれませんが、こういう夢のある宇宙人を描いた作品はいつまでも作ってもらいたいものです。 ちなみに2011年に公開された映画『宇宙人ポール』は、人類が宇宙へ……ではなく、宇宙人が地球に落ちてきてしまうコメディー。いわゆるSFというよりは「宇宙人と友達になっちゃった!」というファンタジー色の強い作品ですが、オヤジくさくもどこか温かみを感じさせる宇宙人ポールの造形が実に見事。夢があふれる宇宙人ムービーとなっています。 DVD『ビルトテッドの地獄旅行』は発売中 税込み:3,990円 (C)2008 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. (C)2012 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED. 映画『宇宙人ポール』DVDは発売中 税込3,360円 人類が宇宙に飛び出すさまを描いたSFといえば、代表作として挙げられるのはやはり「スター・トレック」シリーズでしょう。1960年代にスタートした同シリーズはU.S.S.エンタープライズの搭乗員が宇宙のさまざまな場所で遭遇する出来事を描いた作品であり、現在に至るまで新作が製作されている超人気作です。文化間のギャップといった現代社会の問題を描いたエピソードも多く、北米の大学で教材として使われたりもしています。 しかし、この作品の何よりの特徴は、舞台がすでに人類が宇宙進出を果たした未来世界となっている点でしょう。劇中、地球にはいわゆる「宇宙人」がたくさん住んでおり、その一方でいわゆる「地球人」も宇宙に進出しているため、「地球人」「宇宙人」という区切りがないのです。それはつまり、これまでに紹介してきた作品とは「宇宙」の捉え方が全く違うことを示しているのです。 『エイリアン』ではいまだ異星人と接触したことのない時代が舞台になっていたため、主人公は人類初の異星人との接触を試み、悲劇に巻き込まれます。地球を舞台にした『宇宙人ポール』も、現在の地球では宇宙人が珍しい(というか、いないと思われている)からこそ成立したコメディーです。つまり『スター・トレック』では、その他の物語では重要な「異星人」「宇宙人」という要素を抜きにして、いかに宇宙に行くことに必然性を見いだすか、というのが一つのポイントになっているのです。 Michael Ochs Archives / Michael Ochs Archives / Getty Images シリーズ第1作より Hulton Archive / Getty Images こちらは1996年の映画『ファースト・コンタクト/STAR TREK』より シリーズ最新作の映画『スター・トレック イントゥ・ダークネス』のメガホンを取ったJ・J・エイブラムス監督は、本作におけるそうしたリアリティーの重要性について、「『スター・トレック』はとてもクラシックなSFです。なので、そこではどんなことが起きても科学的に説明できなければいけないし、物理的なリアリティーを無視することはできません。『スター・トレック』が描いているのは、いつかわたしたちに訪れる未来なのです」と説きます。だからこそ、本作で主人公たちが宇宙に出ることにも必然性が求められました。ですが、それはSF的な必然性ではなく、物語上の必然です。 本作で主人公のジェームズ・T・カークをはじめとするU.S.S.エンタープライズの乗組員は2度、宇宙に飛び出します。1度目は任務である探査旅行のためですが、ストーリーでより大きな意味を持つ2度目の宇宙への旅立ちは父のように慕っていたパイク提督のかたきを追うため、です。物語の中心に据えられるのは後者であり、そのことからはエイブラムス監督の意図がSFドラマではなく、人間ドラマを描くことにあるのがうかがえます。 もちろんSFならではの描写は散見されるものの、本作を貫いているのはU.S.S.エンタープライズの乗組員たちによる絆の物語です。そもそも、エイブラムス監督自身はオリジナルの「スター・トレック」シリーズには何の思い入れもなかったというのは有名な話。「僕は別に『スター・トレック』が好きなわけではありませんでした」と明言するJ・J・エイブラムス監督でしたが、「だけど、そのおかげで『スター・トレック』ファンではなく、一人の映画ファンとして作品にアプローチすることができました」とコメントしており、その言葉通り、本作は上質なエンターテインメント作品として完成したのです。 これはJ・J・エイブラムス監督がメガホンを取った2009年のシリーズ第1作の映画『スター・トレック』にもいえることですが、エイブラムス監督によるシリーズはテレビシリーズと比べると、エンターテインメント色が明らかに濃くなっています。ですが、それ故に過去のシリーズや前作を観ていない人にも楽しめる作品に仕上がっているのはうれしいところ。「SFだから……」「前作を観ていないから……」と尻込みせず、より多くの人に観てもらいたい一作になっています。 (C) 2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved. 映画『スター・トレック イントゥ・ダークネス』 (C) 2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved. カークとスポックの友情が一つのキーに! (C) 2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved. 骨太の人間ドラマに注目! 映画『スター・トレック イントゥ・ダークネス』は8月23日より全国公開 取材・文・構成:シネマトゥデイ編集部 福田麗 ADVERTISEMENT