クライムサスペンス激戦区の全米でなぜウケる?「ブラックリスト」捜査FILE
昨秋からアメリカ三大ネットワークの一つNBCで新作として放送開始した「ブラックリスト」。第2話が放送された段階で、シーズン1のフルシーズン全22話の製作が決定した。視聴率競争が激しく、数字次第ではすぐに打ち切られるアメリカのテレビ界において、これは異例のこと。初回の視聴者数は時間帯トップで、第2話は放送日翌日から1週間以内に録画視聴した視聴者数で史上最多記録を樹立するなど、昨秋からの新作ドラマの中でも圧倒的人気を誇っている。本作が成功を収めた秘密を、四つのポイントから、プロファイリング(分析)していこう。
タイトルの“ブラックリスト”とは、世界中の凶悪犯罪者の情報が網羅された極秘リストのこと。そんな国家機密級の情報を握る男こそ、世界中の犯罪者たちの裏取引に協力し、“犯罪コンシェルジュ”と称される国際的な最重要指名手配犯レイモンド・レディントン(通称レッド)である。
第1話は、その主人公レッドがFBI本部の正面玄関ホールに堂々と出頭し、ゆったりとした優雅なしぐさで膝をつきつつ両手を頭の後ろに組むと、取り囲んだFBI職員たちの銃口が一斉に向けられるという場面から始まる。ここまで冒頭約1、2分程度。そんな衝撃的な幕開けで一気に作品世界に引き込み、視聴者の心をわしづかみにしてしまったことが、初回から高い評価を集めた要因の一つともいえるだろう。
本作には、レッドの他にもう一人の主人公が存在する。それは、レッドから交渉相手として指名される新米FBIプロファイラーのエリザベス・キーン。レッドは彼女が担当することを条件に、凶悪犯やテロリストたちに関する情報提供とその逮捕に協力するというのである。
こうして設定の要である、最重要指名手配犯と新米FBIプロファイラーの異色タッグという刺激的な関係が誕生。つまりバディー物ともいえるが、レッドがなぜ協力を申し出たのか、なぜエリザベスを指名したのかは謎のまま。プロファイラーといってもまだ新米のエリザベスには百戦錬磨のレッドを分析できるわけもなく、彼女は敵か味方かも判然としない人物と共に、さまざまな事件の渦中に巻き込まれていく。
『羊たちの沈黙』のレクター、『ダークナイト』のジョーカーなど、独自の美学を持った孤高のワルは魅惑的だが、本作に登場するレッドもまさにそう。頭脳明晰(めいせき)で会話はウイットに富み、しかもオシャレ。成熟した大人の男のフェロモンを発散しまくるような人物だが、優しげな一面を見せたかと思うと冷酷な態度を示すこともあり、善悪の区別をも惑わす複雑なキャラクターなのだ。
この難役を演じるのが、映画・テレビ共に実績豊かなジェームズ・スペイダー。映画『セックスと嘘とビデオテープ』で一躍脚光を浴び、近年はテレビドラマ「ザ・プラクティス/ボストン弁護士ファイル」とそのスピンオフの「ボストン・リーガル」の双方で、同じ役によるエミー賞受賞という史上初の快挙も達成している。そんな彼が新たな役づくりとして、スキンヘッドでエキセントリックに演じてみせたレッド役には、そのキャリア史上最高に近い称賛の声が数多く上がっている。
レッドの情報提供により、毎回さまざまな犯行手口や個性を持った凶悪犯が登場し、それらを捜査・解決していく1話完結型のドラマと、レッドの真意、エリザベスの過去、登場人物たちの意外な秘密など、次々と浮かび上がるたくさんの謎が解き明かされていく連続ドラマならではの醍醐味(だいごみ)を同時に楽しめる、1粒で2度おいしい本作。
また凶悪犯たちは世界中に点在しているため、世界各地が舞台となることもあるほか、激しい銃撃戦や大爆破シーンもあるなど、そのスケールは大作アクション映画並み。これら全編にちりばめられたさまざまな要素が緻密に融合しているからこそ中毒性があり、2話目以降も高水準で視聴者数をキープしている。まだ放送中の最新作のため今後のことは知る由もないが、新たな人気シリーズに成長するのは間違いなさそうだ。
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