第18回 フランス・ナント三大陸映画祭の魅力に迫る!
ぐるっと!世界の映画祭
歴史あるフランス・ナント三大陸映画祭で最高賞の「金の気球賞」と学生が選ぶ「若い審査員賞」をダブル受賞したばかりの映画『ほとりの朔子』の深田晃司監督。興奮冷めやらぬ第35回大会(現地時間2013年11月19日~26日)の様子をレポートします。(レポート、写真:深田晃司、編集・文:中山治美)
気鋭作家がここから飛躍
1979年に映画コンサルタントのジャラドー兄弟が創設し、アフリカ・南米・アジアの作品を対象としている。新進発掘に定評があり、アミール・ナデリ監督が『駆ける少年』で、ジャ・ジャンクー監督が『一瞬の夢』でそれぞれ最高賞を受賞し、世界へと飛躍した。日本作品では過去、高嶺剛監督『ウンタマギルー』、是枝裕和監督『ワンダフルライフ』、富田克也監督『サウダーヂ』が最高賞を獲得している。
「少しでも国内宣伝に結び付けたいという思いでコンペのある映画祭を狙いました。中でもナント三大陸映画祭は歴史もあり、出品される作品のクオリティーの高さに信頼があります。個人的にも映画『ざくろ屋敷 バルザック『人間喜劇』より』の取材でロワール地方を訪れており再訪したかった」(深田監督)。
日本のエリック・ロメール!?
映画祭は地元の人たちでにぎわうアットホームな雰囲気だが、シネフィルが多く質疑応答は技術的な内容が多かったという。深田監督こだわりのスタンダードサイズに着目した人も。
「スタンダードを選んだのは中高生時代に親しんでいた1960年代の白黒映画の原体験があるから。これまでデジタルビデオカメラ(16:9)で俳優をアップにした際、両脇に空間ができるのが生理的に気になっていた。でも『ほとりの朔子』は風景より人物をモチーフにして構成したので、どうしてもスタンダードにしたかった」(深田監督)。
そして必ず聞かれたのが作風から「フランス映画が好きなのか?」とのこと。「多くの方にエリック・ロメール監督を思わせると言われました。でもむしろ、自転車の撮り方とかフランソワ・トリュフォー監督の短編『あこがれ』を意識しています」(深田監督)。
ゲストとの距離近し
会期中、取材などで他作品を観る機会はあまりなかったそうだが、その中でも印象に残ったのはフィリピンのシリーン・セノ監督『ビッグボーイ(英題) / BIG BOY』だという。「8ミリフィルムで撮影された作品で、映画の多様性をダイレクトに感じさせてくれる刺激的な映画でした」(深田監督)。また同じコンペに参加していた中国のワン・ビン監督とは、一緒に食事をする機会にも恵まれた。
「上映会場は市内に広がるが、メインセンターにカフェやレストランがありミーティングポイントになっている。そこに行けば誰かに会えるんです。ワン監督は英語ができないので、中国語からフランス語、フランス語から日本語という2人の通訳を介しての会話となりました。英語を話せなくとも巨匠になれるんですね。ちょっと自信が付きました(笑)」(深田監督)。
現地の家庭にホームステイ
ナントへは、パリから国内線に乗り換えてナント・アトランティック空港へ。ナント滞在は、一般家庭にホームステイした。映画祭は期間中、住民とパートナーシップを結んで関係者を無料宿泊させてもらっている。
その代わりにホスト家族は、映画祭イベントに無料参加できる特典がある。とはいえ招待監督が宿泊するのは初めてだとか。「フランスの一般家庭はそう見られませんから。金の気球賞受賞を喜んでくれ、お祝いにキーホルダーを頂きました」(深田監督)。
パリから多数の業界人も
「マーケットはないとはいえ、パリから多数の映画関係者が来場しており、『ほとりの朔子』も何社かから配給したいというオファーを頂きました。わたしが代表理事を務める特定非営利活動法人「独立映画鍋」で以前、映画祭講座を開催し、それに合わせて英語の名刺と出品作のプレス、そして次回作『さようなら』の英語資料も用意したところ、興味を示してくれた会社もありました。映画祭は旅行気分で行くともったいないということを実感しました」(深田監督)。