第21回 ベルリン国際映画祭の魅力に迫る
ぐるっと!世界の映画祭
カンヌ、ベネチアと並んで世界三大映画祭に挙げられるドイツのベルリン国際映画祭。第64回大会(2014年2月6日~2月16日)はコンペティション部門に選出された『小さいおうち』の女優黒木華が最優秀女優賞を受賞したことが大きく話題になった。今年の様子を、短編コンペティション部門「ベルリナーレ・ショーツ」に『WONDER』で参加したアニメーション作家水江未来がレポート。賞は逃したが、大きな収穫を得たようだ。(取材・文:中山治美、写真:水江未来)
多彩なセレクション
ベルリン国際映画祭は、ベネチアとカンヌより遅い1951年にスタート。時は東西ドイツ時代、西側の芸術文化を発信することが目的で、しばし政治に左右された時期もあった。それが今では世界124か国が参加し、期間中約30万人が参加する一大祭に成長した。映画祭のトレードマークはベルリン市の紋章に描かれている「熊」で、コンペティション部門の賞名にも使用されている。
コンペ以外にも子どもを対象とした「ジェネレーション」、料理映画を集めた「キュリナリーシネマ」など特集上映が充実している。「長編コンペ部門は山田洋次監督をはじめ著名監督ばかり。その監督たちと並んで、短編コンペの僕らの写真もメイン会場に飾ってあったのがうれしかった。しっかりそこにサインをしてきました」(水江監督)。
オリジナル着物で勝負
短編コンペ部門には25作品が選ばれ、日本からは水江監督『WONDER』と水尻自子監督『かまくら』が選出された。水江監督は「上映のみならず映画祭を楽しむ」というポリシーにのっとり、自作アニメがデザインされた羽織はかまをまとってのベルリン上陸。
ファッションブランド「kawala」の山本昌義氏にデザインを依頼し、約3か月かけて制作された自慢の一枚だ。「『MODERN No.2』が上映されたベネチア国際映画祭では準備が間に合わなかったのですが、ようやくベルリンで実現しました。評判が良く、映画祭のパーティーに参加すると記念撮影を頼まれたのですが、まさかのタクシー運転手まで(笑)。ただ、はかまを一人ではくのが難しい。それが今後の課題です」(水江監督)。国内の上映でもこの着物を着用予定だというので、ぜひ実物を観賞してほしい。
ホスピタリティーに感動
広島国際アニメーションフェスティバルなど国際的なアニメ映画祭の審査員を務めるほどの水江監督だが、三大映画祭はベネチアに続いて2度目の参加となる。第68回ベネチア国際映画祭ではオリゾンティー部門での出品で、短編長編と混在した上映だったこともあり、良くも悪くも「野放し」状態だったが、今回は短編部門のスタッフがしっかりサポート。
「上映前の解説では、作家の経歴や作品の背景まで理解した上で話してくれたことにうれしい驚きがありました。スタッフいわく『25作品の監督たちには受賞いかんにかかわらず、ベルリンを出発点に世界へ羽ばたいてほしい』と。僕たちの活躍を後押ししようとする姿勢に触れ、ベルリンに恋しました(照)」(水江監督)。そのスタッフの熱意もあって、水江監督の元には他の映画祭からのオファーが続々と届いているという。「改めてベルリンの発信力の大きさを実感しました」(水江監督)。
大使から“おもてなし”
期間中の食事は自費。おのずと、ビールやソーセージなどドイツ料理が中心となったという。しかし期間中、在ドイツ日本大使から映画祭参加中の山田洋次監督らと共に昼食に招待されるという貴重な体験を味わった。並んだメニューは大使の「そろそろ和食が恋しいでしょうから」という配慮で、天ぷらなどの和食が用意されたという。
「刺身が絶品でした」(水江監督)。ただし大使館内には「写真撮影禁止」の貼り紙があったため皆、料理の写真は遠慮していたそうだが、デザートは大使の許可を得て撮影。映画祭のトレードマーク「熊」が描かれたチョコレートに、皆感動したという。
東西ドイツ時代の面影
日本からは直行便がないため、欧州各都市を経由してベルリンへ。短編コンペ参加監督は宿泊費3日分のみの招待で、水江監督の場合はスタッフとアパートを借りたため、代わりに滞在費3日分(180ユーロ、約23,400円・1ユーロ130円計算)が支給された。渡航費は、文化庁が行っている「日本映画海外上映等支援事業」の申請を受ける予定だ。
滞在中は4回の上映全てに立ち会い、舞台あいさつを行ったため市内観光をする時間はなかったが、朝鮮民主主義人民共和国の大使館もあり東西ドイツ時代の面影を感じたという。「帰国してからYouTubeなどで壁が崩壊するまでのドキュメンタリーを観ました。事前にもっと下調べをして行くべきでした」(水江監督)。
アニメでも三大映画祭を狙え
かつてアニメは専門の映画祭も多数あり、三大映画祭で上映されることはまれだった。しかしベルリンは宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』に三大映画祭初の最高賞を授与した場所であり、さまざまなジャンルに門戸を開いている。特に水江監督の作品は手書きの抽象アニメであり、楽しみ方は観客の感性に委ねられている。
「三大映画祭に参加するのは、従来のアニメの概念を打ち壊したい、アニメの底力を見せたいという思いもあります。賞の行方はもちろん気になりますが、それ以上にいかに観客にファンになってもらうかが重要。ベルリンで得た手応えは、今後の映画祭ツアーの大きな自信になりました」(水江監督)。