「宇宙兄弟」小山宙哉×ユニコーン対談:「漫画」と「音楽」を語り尽くす!
人気コミック「宇宙兄弟」の「エピソード0」を描いた『宇宙兄弟#0(ナンバー・ゼロ)』(8月9日公開)の主題歌がロックバンド・ユニコーンの「早口カレー」「Feel So Moon」に決定したことを記念して、映画の脚本も手掛けた原作者・小山宙哉とユニコーンの対談が実現! 残念ながら、ユニコーンのEBIは体調不良のため欠席となりましたが、その代わりに小山が「一日ユニコーン」としてメンバーとおそろいのツナギを着ることに! 主題歌決定の経緯から知られざるエピソードまで、たっぷり語ってもらいました!
取材・文・構成:編集部 福田麗
メインテーマはユニコーンがよかった!
Q:小山さんはまさかの「一日ユニコーン」になりましたが、気分はいかがですか?
小山宙哉(以下、小山):うれしいです。EBIさんに感謝ですね……あ、もちろんEBIさんにも会いたかったんですけど、これ(メンバーとおそろいのツナギ)を着られたので、感謝です。
川西幸一(以下、川西):似合いますよ。
奥田民生(以下、奥田):まあ、誰が着ても似合うという……(笑)。
ABEDON:サイズも合っていたようで、良かったです。似合っています。
Q:映画版の主題歌は、小山さんの方からぜひユニコーンさんにお願いしたいとオファーしたんですよね?
小山:テレビアニメの時に一緒にやらせてもらって(ユニコーンはテレビアニメ版の最初のオープニングテーマ「Feel So Moon」を担当)、その時にすごくお世話になったんです。それで、アニメのテーマソングには他にもいい曲があるんですけど、ユニコーンさんとは最初にやった思い入れもあるので、映画のメインテーマはユニコーンさんがいいなと思ったんです。
Q:「早口カレー」に決まるまでの経緯はどのようなものだったんですか?
奥田:他にもいくつか候補があって、制作途中の段階のものを聴いてもらったんですよ。
ABEDON:そうそう、4曲くらい聴いてもらったのかな。
奥田:使えそうなものを言ってくれ、みたいな(笑)。歌詞もまだなかったので、その段階で言ってくれたら、「宇宙兄弟」風に作りますよ、と。
Q:小山さんはなぜ、「早口カレー」に決めたんでしょう?
小山:歌詞のない曲を聴いて、イントロのギターリフが、エンディングの雰囲気に合っているなと思ったんですね。のんびりしていて、すごく平和な感じで……それが最後にぴったりくるんじゃないかと。エンドロールが流れている時に、あの曲が流れているとすごくいいなと思ったんです。
Q:決まった段階では、まだ制作途中だったわけですよね。小山さんの側から何かリクエストなどはされたんでしょうか?
小山:特になかったんですが、聞かれたので、兄弟関係とか男友達関係のようなイメージで、とお伝えしました。
ABEDON:だいたいウチは曲を持ってきた人が、その曲に関してはメインを張ることが多いんです。「早口カレー」は奥田くんだったので、彼が非常に頑張ったんじゃないでしょうか。ただ、最後まで歌詞ができていませんでしたね。今回のようにお題があると、歌詞が最後になっちゃう場合が多いですね。逆に言えば、題材がないと適当に書いてもいいっていうのがあるので。
手島いさむ(以下、手島):適当……(苦笑)。
ABEDON:変な言い方すれば、ね(笑)。
奥田:でも歌詞を作っている時は、そんなに映画のことを考えなかったですよ。「Feel So Moon」の時は割とちゃんと「これが『宇宙兄弟』だ」っていう曲にしようとしていたんですけど、今回はそんなに考えないで、全く違う内容でも雰囲気が合えばいいかな、みたいな。
小山:すごくいい歌詞になりました。最初は、まずタイトルが決まっていたことにびっくりしたんですよ。漫画だと、本編を描き終わった後にタイトルを決めたりするので。
奥田:普通は歌詞が付くと、またタイトルが変わるんですけどね。あれはたまたま「早口」と「カレー」が出てくるので、そのままいけましたね。
小山:あの歌詞、今回の映画のテーマにぴったりだと思ったんですよ。
ABEDON:……カレーが、ですか?
一同:(笑)
小山:カレーがというか、サビの歌詞があるじゃないですか。少ないセリフで、「宇宙兄弟」の裏テーマみたいなところを見抜いていると思いました。これ以上ない歌詞だと思っています。
奥田:まあ、「早口カレー」になったので、ちょっとは意味のある歌にしなくちゃいけなくなったんですよね。もうちょっと適当な歌でもよかったんですけど、あんな歌詞になりました。
Q:小山さんは主題歌が「早口カレー」に決まった後、脚本にカレーが出てくるシーンを足されたそうですね。
小山:せっかくなので、脚本の方を主題歌に寄せた感じですね。
奥田:ラーメンだったら、ラーメンが出てきたんですかね?(笑)
小山:実は原作でも第2話でムッタが家に帰ったら、お母さんがカレーを作ったりしているんですよ。だから、ちょうど良かったなと思ったんです。
漫画家のイメージは変わり者!?
Q:小山さんとユニコーンさんは、「Feel So Moon」の時に初めて会われたそうですが、そのときの印象はいかがでしたか?
小山:今もですけど、5人対1人じゃないですか。めちゃくちゃ緊張していたので、他のことは覚えていないんですよ。
奥田:あー、人数的にね。俺もスカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ。奥田は2002年のシングル「美しく燃える森」、2010年の「流星とバラード」にボーカルとして参加)に行ったとき、そうだった。
手島:圧倒される感じ?
奥田:圧倒されるというか、負けるやん。何をしても。だからおとなしくしていよう、みたいな。
Q:逆に、ユニコーンさん側から見た小山さんの印象はどうでしたか?
奥田:漫画家の人って、謎が多いじゃないですか。普段から顔を出すわけじゃないし、「先生」と呼ばれるしさ。だから、「どんな人なんだろう?」とは思うよね。
手島:宇宙のこと描いているしさあ。
川西:変わり者がやって来る……とか?
手島:そうそう。変わり者がやって来るのかなあとは思っていた。
ABEDON:俺たち、まず「先生」なんて呼ばれたことないもんね。
奥田:でも、お父さんは呼ばれていたじゃん。(注:ABEDONの父親は教師)
ABEDON:(笑)。リアルでね。それはそうだけど、まあ、世界が違う感じがしたよね。ああ、でも、サインを頼まれていたところを見ていて、ちりちりした髪の毛を一つ一つ、丁寧に描いていて、マメだなあと思いましたね。もし俺らが描くとしたら、そこはぐるぐるぐるってやって、終わりだし。
手島:表現力が違うんだよね。
奥田:俺らもものすごく暇なとき、絵を描くわけですよ。でも、テッシー(手島)はいいのを描くよ。
川西:テッシーはすごいよね。
ABEDON:味がありますよ。
川西:性格が出ているというか(笑)。
奥田:ラーメン屋とか行くと、サイン飾ってあるじゃん。あれ、みんなすごくちゃんと描いているよね。
ABEDON:格言みたいのと一緒にね。「おいしかったです」「また来ます」とか。
手島:本当に来るのかよ、と。
漫画家とミュージシャンの共通点
川西:漫画家って、ずっと机に座っているじゃないですか。腰とか痛くなりませんか?
小山:なります、なります。猫背になるし。
川西:肩なんか上がんないんじゃないですか?
奥田:それは関係ないよ!(注:奥田は五十肩)
Q:漫画家から見て、ミュージシャンのうらやましいところってありますか?
小山:ライブがあることですね。漫画って描いてから世に出るのはかなり遅いですし、反響というのも目に見えるわけではないので、そこは憧れるところですね。
川西:あー、ライブじゃないんですよね。
小山:そうなんです。ミュージシャンはライブがあるじゃないですか。それがうらやましいですね。
奥田:ライブやれば?
小山:漫画で、ですか?
ABEDON:それって描いている間、お客さんが待っていないといけないんでしょ(笑)。
手島:やっと次のコマが来たー! みたいな(笑)。
川西:おまえらうるさいよー、みたいな。先に読んだ人に対して「セリフを先に言うな」とか(笑)。
小山:あ、でも、レコーディングに関していえば、漫画を描く作業に似ている気がするんですよ。まず、デモを作るじゃないですか。漫画だとネームっていうラフな状態があるんですよ。それを基に、直しを重ねたりして、いいものになるまでとことん微調整する。そこは似ているとは思いますね。
ABEDON:創作する行為っていうのはそう変わらないよね。本質的には。
手島:漫画家の中には、何も準備していないのに、いきなり描く人はいるんですか?
小山:実体験とか自分が見たものだったら、堂々と描けますよね。だから、ミュージシャンでも、歌詞とかは似たようなものがあるんじゃないかなと思っているんですけど。
奥田:何を歌詞にするかはそれぞれ違うんですけど……俺らは、ねえ(笑)。
ABEDON:俺らは、ねえ(笑)。
奥田:実体験を歌詞にするのはテッシーだけなんでね。
手島:身につまされる系ですね。見たものをそのまま描く。
ABEDON:聴いているこっちがつらくなるからやめろっての(笑)。
川西:ツッコめないんですよ、あまりに本当のことすぎて。
ABEDON:そうそう。「これはこうしたほうがいい」とか言えない。
手島:え、そうなんだ?
奥田:ソロでやればいいのにとか思うよ。
一同:(笑)。
小山:今回の曲ですか? あのバラードの? よかったですよ。(注:手島が作詞・作曲した「それだけのこと」のこと)
奥田:いやいや、あそこまでやって、最後に俺に歌えって言われたらどうしようかと思ったよ。嫌じゃん。
手島:だから弾き語りになったわけですよ。
小山:あの曲の間、民生さんは何をしていたんですか?
奥田:俺は……監督?
ABEDON:ゲームしているか、うとうとしているか。
奥田:歌い方に難癖をつけたりね。
川西:実際に手を貸したのはABEDONだけですよ。
ABEDON:ピアノでね。それも歌を聴かなかった。歌を聴くとテッシーにつられてしまうのがわかったから(笑)。
手島:あの、これ、半分くらいはウソですから。
ABEDON:何が? 今のトークが?
手島:なんか……いろいろ?
奥田:何でここに来てびびるんだよ!(笑)
ユニコーンの楽しみ方
奥田:バンドにもいろいろあるじゃないですか。一人がメインでやっていて、曲を作るのもその人で、その人が作っている世界をみんなで作り上げるみたいな。
川西:俺たち、その辺はもうめちゃくちゃになっているね。
奥田:曲によってリーダーが代わるし。テッシーみたいのをやっても採用されるし。こんな感じなので、楽なときは楽なんですよ。寝ているだけみたいな日もあるし。ユニコーンのアルバム作っているのに、今日は俺、何もせんかったわー、みたいなね。
ABEDON:割と多いよね。
奥田:それでも進んでいくのは楽ちんですよ。それぞれ別のバンドとかソロをやっているときは、さすがにそうもいかないじゃない? 楽なんすよ、ユニコーンって。それに比べると、漫画家さんは手伝ってもらうことはあるけど、基本的には自分で全部やらなきゃいけないじゃないですか。漫画家がいなくなったら、ダメじゃないですか。俺たちはいなくなることあるからね。5人の中で3人くらい携わっていたら、ユニコーンの曲にしてもいいよっていうムードですよ。
小山:確かに今回のアルバムの1曲目(注:アルバム「イーガジャケジョロ」の表題曲)は電大(注:EBI、手島、川西で結成されたユニット)の三人ですよね。
ABEDON:今回は電大の三人ががんばっていたよね。ノリノリだった。
川西:今日は来ていないEBIくんがノリノリでしたからね。自分の曲はともかく、手島くんが書いてきたのをEBIくんが歌うときに「もう俺はベースは弾かない。俺は歌を歌うんだ」って、ベースを放棄(笑)。
小山:楽しんでいる雰囲気が伝わってきますよ。ユニコーンさんは、そういう楽しみ方もできますよね。シャッフルというか、バリエーションが多いじゃないですか。
ABEDON:それでよし、というふうにみんなが思っているところがあって、それを面白がっているんでしょうね。やっぱり長いことやっているので、題材があるとうれしいんですよ。盛り上がりやすいというか。だから今回、小山さんと一緒にやれたことは、こっちにとってもすごくうれしかったですよ。
宇宙兄弟とユニコーンがさらなるコラボ?
Q:小山さんは漫画を描く時に音楽を聴くことが多いんですよね。
小山:音楽は、それを聴くことによってテンションが上がる。気分が高揚してきて、モチベーションが上がるんです。あとは何げなく聞いていて、歌詞とかが心に残って、そのちょっとした歌詞からイメージを広げたりもしますね。そのままエピソードになるというのもよくあります。だから、今日着たツナギも映画に出そうと思っています(笑)。
Q:特にユニコーンさんの曲に思い入れなどはありますか?
小山:漫画を書く前から聞いていたので、結構染み付いていますね。ユニコーンさんの歌って、ギャグ要素があるじゃないですか。ダジャレが好きだったり。実は、僕も結構ダジャラーなので。
ABEDON:ダジャラー?(笑)
小山:サブタイトルをダジャレにしたりしているんですよ。あ、そういえば、「早口カレー」もダジャレですよね。
奥田:歌詞なんてダジャレじゃないと書けないですよ。何も考えていないですもん。
Q:今まではユニコーンさんが小山さんの「宇宙兄弟」に楽曲を提供するという流れでしたが、逆にユニコーンさんが小山さんにやってもらいたいことはありますか?
奥田:あー、歌詞を作ってくれたら楽やわあ。
ABEDON:今の半分の作業で済むね。
奥田:歌詞がなければ、年に5枚くらい作れますよ。歌詞が嫌なんですよ。
小山:でも、自分の作った歌詞じゃないと歌いづらいとかありませんか?
ユニコーン:ない!
川西:でも、自分の作った曲に歌詞を作るっていうのはまだわかるけど、他人の曲に歌詞を付けてくれって言われたら、すごく悩むよね。
ABEDON:プレッシャーがあるからね。
川西:「これは、俺にどうしてほしいんだろう?」というのから考えるから。
ABEDON:それは振った時点で、どうとでもしてくれってことじゃないの?
川西:そうなの?
ABEDON:うん。
奥田:他人だと、適当な意見が出てくるじゃん。そういうひとごとみたいな意見が欲しいわけよ。
Q:もしも歌詞を提供することになったら、小山さんはいかがですか?
小山:もちろん、やらせていただきますよ。
ABEDON:むしろ、歌詞スタートでもいいかな。
小山:歌詞スタートの場合もあるんですか?
奥田:どっちもあるね。
小山:へえ。
Q:実現したら、「一日ユニコーン」ではなく、本当にユニコーンの仲間入りですね。
小山:うわ、すごい……。
川西:じゃあ、ベースもやってもらいましょうか?(笑)
ABEDON:今、いないからね(笑)。
奥田:演奏を放棄して、歌っちゃうし(笑)。
当日、いきなり「これを着てもらおうかと思って」とツナギを渡された小山はまさかの事態に戸惑い気味でしたが、写真撮影ではしっかりポーズを取ってくれるなど、ノリノリ! 対するユニコーンも漫画の話題で盛り上がったかと思うと、そのまま別の話題につなげるなど、安定のチームワークで終始、対談を盛り上げていました。その両者がタッグを組んだ『宇宙兄弟#0(ナンバー・ゼロ)』の主題歌「早口カレー」。映画に「カレー」はどんなところで出てくるのか? そして本当に「ツナギ」は出てくるのか? 要注目です!
映画『宇宙兄弟#0(ナンバー・ゼロ)』は8月9日より全国公開