スパイダーマンが誕生したのは1962年のこと。すでに「ファンタスティック・フォー」「ハルク」といった作品を生み出していた原作者のスタン・リーは、決まりきったヒーローを描くことに嫌気が差していた。そこでスポーツマンタイプでもない普通の高校生がクモのパワーを持ったヒーローになる物語を、作画家のスティーヴ・ディッコと共に創作。すでに廃刊が決定していた雑誌「アメイジング・ファンタジー」の最終号に掲載したところ読者から大好評で迎えられ、翌年から単体シリーズ「アメイジング・スパイダーマン」が発行された。 |
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スタン・リー
Joe Thomas / Hulton Archive / Getty Images
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多くのアメコミヒーローと同様、スパイダーマンの内容も年代ごとに変化していった。特に1970年代には、「アメイジグ・スパイダーマン」100号をもってスタンがライターを降板。新たなライター陣による変革期を迎える。このころ、恋人グウェン・ステイシーが宿敵グリーン・ゴブリンによって殺害される、アメコミ史上において記念碑的なエピソードなども誕生した。
この年代の後半に製作されたのが、映画『サウンド・オブ・ミュージック』のニコラス・ハモンドがピーターを演じた、スパイダーマン初の実写版テレビドラマ。主要な悪役が登場しないなど原作から大きく改変された内容や、どこか牧歌的な地味な作風もあって短命に終わった。日本でもパイロット版が劇場公開されたほか、特番がビデオ発売されている。 |
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本作のグウェンは無事のようだが? |
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その後も原作シリーズは人気を博したが、やがてスパイダーマンのクローンことベン・ライリーの登場や、ピーターが四つの人格を使い分けて、全く別のヒーローを掛け持ちするなど、謎の展開を見せるようになる。そのため、再び1話からシリーズの仕切り直しも図られたが、これも支持を得られず、これまでのシリーズを継続する形で再スタートが切られた。
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実写化が大成功!
『スパイダーマン2』よりColumbia PicturesPhotofestMediaVast Japan
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そして2002年にサム・ライミ監督がメガホンを取った映画『スパイダーマン』が公開。実現不可能と思われたスパイダーマンのアクションを最先端の技術を駆使して描き出したのはもちろん、原作初期に多大なオマージュをささげた作風や魅力的なキャラクター描写が圧倒的な支持を集め、瞬く間にメガヒットシリーズに。このヒットは、スパイダーマンだけでなく、現在まで続くアメコミブーム自体を再燃させたといえるだろう。
そして原作も、物語重視の展開で再び支持を集めており、より現代的な世界で再び10代のパーカーの活躍を描く新シリーズなども誕生。近年では、パラレルワールドが舞台のシリーズにおいて、死を迎えたピーターに代わり、黒人の少年がスパイダーマンを受け継ぎ話題を集めるなど、時代に合わせた変化を遂げている。
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サム・ライミ版は全3部作が作られた
Kobal/The Kobal Collection/WireImage.com
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実はおなじみのスーツにしても、対峙(たいじ)する相手や状況によって、いくつかのバージョンが存在しているスパイダーマン。よろいのようなアマード・コスチュームや一時的にスパイダーセンスを失ったときに着用した防弾アーマー。さらに「アイアンマン」ことトニー・スターク製の特別コスチュームを着用したこともある。
中でもバトルワールドという遠い星で手にした黒いコスチュームは、無限にウェブを発射し、自由に形状を変える優れもので、ピーターも相当お気に入りだった。しかしその正体は異星の共生体「シンビオート」。寄生される危険があるためこれを引きはがしたが、これが後にスパイダーマン最大の悪役ともいえる存在ヴェノムを生み出すきっかけになる。この黒いコスチュームは、実写では2007年の『スパイダーマン3』で使われている。
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『スパイダーマン3』では黒いスーツが登場
Tony Barson Archive / WireImage
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原作では、ピーターがショーでお金を稼ぐため、捨てられていた高校のダンスクラブの衣装に、シルクスクリーン印刷を施している。これが実写版でもおなじみの基本スタイルだ。実写では、1977年のドラマ版は全身タイツだったが、サム・ライミ監督版の『スパイダーマン』では、手作りでは絶対に作れない、スポーティーでありながら高級感あふれるクオリティーに。そのためか劇中で制作の工程は描かれず、トビー・マグワイア演じるピーターはいきなりコスチュームを着ている。パート2ではスーツをランドリーに放り込み、白い下着に色移りしてしまう庶民的な爆笑シーンも。一方、『アメイジング・スパイダーマン』では、アンドリューふんするピーターがしっかりスーツにシルクスクリーンを施し、特徴的な目を手縫いするほほ笑ましい場面を見ることができる。
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こちらは最新作のスパイダーマンスーツ
Bobby Bank / WireImage / Getty Images
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スパイダーマンは日本でも絶大な支持を得ており、オリジナル作品もいくつか生み出されている。日本が世界に誇る漫画文化にも進出しており、中でもイチオシなのが、作画を池上遼一が担当した1970年の作品。舞台は東京、主人公は日本の高校生でとにかく内向的。当時の世相を反映した薄暗い世界観の中で、鬱屈(うっくつ)した思いを抱えた孤高のヒーローの葛藤(かっとう)を描いた、とてつもなくダークな、必読の一本となっている。
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池上遼一「スパイダーマン 1」(MF文庫)669円(税込み)
販売サイト |
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また映像作品で最も有名なのは、「仮面ライダー」の東映が1978年に手掛けた実写シリーズだろう。物語は、侵略者集団・鉄十字団のモンスター教授に科学者の父を殺害されたスピードレーサーの主人公・拓也が、スパイダー星の王子ガリアからクモの能力を与えられ、彼らに戦いを挑むというもの。
さらにスパイダーマンは、巨大変型ロボット「レオパルドン」(あまりの強さから“特撮史上最強秒殺ロボット”とまでうたわれているという)に搭乗。あまりに原作とかけ離れた設定ながら、東映の誇る特撮技術やアクションが高く評価され、スタン自身も、数ある実写版の中で、「日本版スパイダーマンだけは別格だ。レオパルドンは別として……」とコメントしているという。
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池上遼一「スパイダーマン 2」(MF文庫)669円(税込み)
販売サイト |
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ニューヨークのヒーローであるにもかかわらず、世界中の人々からまるで友人のように慕われているスパイダーマン。原作者のスタン本人は、その変わらぬ人気の理由は、常にお金に困っていて、精神的に強いわけでもなくいつも問題を抱えている、さらに世間から手放しで褒められているわけでもない……つまり読者とそう変わらないスパイダーマンの人間くささにあると分析している。さらに実在するニューヨークの街を守り、若者らしい軽妙なジョークを欠かさない親しみやすさも重要な要素だ。
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われわれ同様、常にやかきごとを抱えて生きているピーター
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「X-MEN」「アイアンマン」「アベンジャーズ」などいくつもの代表作を持つスタンだが、誰かと初めて会ったとき「あなたがスパイダーマンを作った人ですね」と言われることが最も多いという。そして最新作の『アメイジング・スパイダーマン2』で描かれるスパイダーマンことピーターは、実に人間くさくてジョークを常に忘れない、スタンの語る主人公像に最も近づいた印象。スクリーンでの活躍が楽しみだ。
映画『アメイジング・スパイダーマン2』は全国公開中
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親しみやすさナンバーワンのヒーローです!
Bobby Bank / WireImage / Getty Images
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参考文献
マシュー・K・マニング / トム・デファルコ 訳者:光岡三ツ子「スパイダーマン大全」(ShoProBooks)
作:スタン・リー他 / 画:スティーブ・ディッコ他「ベスト・オブ・スパイダーマン」(ShoProBooks)
別冊映画秘宝 アメコミ映画完全ガイド スーパーヒーロー編(洋泉社MOOK)
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文・構成:シネマトゥデイ編集部・入倉功一 |