第60回『プリズナーズ』『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』『ブルージャスミン』『闇金ウシジマくん Part2 』『X-MEN:フューチャー&パスト』
今月の5つ星
『ウォーターボーイズ』などのヒットメーカー、矢口史靖監督が三浦しをんのベストセラー小説を映画化した『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』、ケイト・ブランシェットが転落するセレブを演じアカデミー賞を受賞した『ブルージャスミン』『X-MEN』シリーズ最新作など話題作が勢ぞろい!
愛する者のために善悪を超越した「正義」を貫く親の物語という点では、過去にも韓国映画『母なる証明』などがあり、目新しさはないが、民族紛争を題材にした衝撃作『灼熱の魂』で世界を震撼(しんかん)させた ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の新作は、やはり壮絶としかいいようがない。失踪した幼いまな娘を救うために怪物と化していく主人公ケラー(ヒュー・ジャックマン)の執念、狂気、怒り。そして、この世には想像を絶する闇の世界への入り口がすぐそこにあるのだという恐怖をまざまざと見せ付けられるサスペンスドラマだ。意味深なことをつぶやいた「10歳児並みの知能」しかない容疑者の青年アレックス(ポール・ダノ)を監禁し、娘の居場所を吐かせようとするケラーと、彼の暴走を阻止しようとする敏腕刑事ロキ(ジェイク・ギレンホール)。顔面が崩れるほど痛めつける拷問シーン、16人の子供を殺したという男のミイラ化死体、独自の捜査方法でロキがたどり着いた重要参考人の奇怪なアジトなど、目を覆いたくなる事実や光景が延々と続く。このアジトにあった無数の黒い収納箱が、まさに「闇の世界」を象徴しているかのようだ。セリフや小道具で「迷路」をモチーフに仕立てたことも真実にたどり着けない登場人物たちの焦燥感を煽り、衝撃的な展開を迎えるラストでは胸をえぐるような余韻を残す。(編集部・石井百合子)
『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』などのオリジナル作品を手掛けてきた矢口史靖監督が初めて他人の原作を映画化した本作。しかし、題材の面白さとスラップスティックな笑いの双方の持ち味が発揮された、まさに矢口監督らしい作品となっていた。原作は三浦しをんのベストセラーで、都会育ちの若者が安易な気持ちで1年間の林業研修に参加したことから、携帯電話も使えない片田舎で過酷な日々にさらされる。主人公は、初めて触れる荒っぽくも優しい人々や自然に囲まれた暮らしの中で変化を遂げていくが、その過程をステレオタイプに見せない染谷将太の表現力が見事。矢口組初参加のキャストも多いが、適材適所の配役で皆が好演している。中でも主人公の先輩役の伊藤英明は最高のハマリ役で、その“山猿”ぶりを誰もが好きになってしまうことだろう。従来どおり取材や脚本に時間をかけるやり方はそのままに、原作があることによる掘り下げとこれまでなかった新味が加わって矢口史靖の集大成になっており、かつ新たな可能性を感じさせる。笑いあり、涙あり、ファンタジックな展開やスケール豊かなアクション(?)とちょっぴりエロもあり、誰にでもお薦めしたい娯楽作品だ。(編集部・天本伸一郎)
何といってもケイト・ブランシェット。そのひと言に尽きる。特に優雅なセレブ生活を送っていた過去を振り返り、独り言をブツブツとつぶやく姿は恐怖を覚えるほどの怪演ぶりで、アカデミー主演女優賞のほか映画賞を総なめしたのも大いに納得。ケイトの技巧が堪能できる逸品といっても過言ではない。そして、何不自由なく華やかな生活を送っていたジャスミン(ケイト)の過去と、全てを失いはい上がろうと必死にもがく現在という真逆の姿を交互に見せるストーリー構成は、ジャスミンの転落にわかりやすいコントラストをもたらし、作品全体のメリハリを付けることにも成功している。名匠ウディ・アレンが一人の大人の女性の悩める姿を描いたドラマで、匠の技も大いに楽しむことができる。(編集部・小松芙未)
真鍋昌平の人気漫画の映画化第2弾。今作で闇金業者ウシジマ(山田孝之)と対峙(たいじ)するのは、ヤンキーやホスト、やくざ、同業者など。主な債務者が大学生だった前作と比較するとより犯罪色やアングラな部分が強まっているものの、ドラマ版から引き続きメガホンを取る山口雅俊監督が生み出す絶妙なさじ加減の笑いなどにより、エンターテインメント性も十分な作品として仕上がっている。今作ではカウカウファイナンスのメンツのほかにも、ドラマ「闇金ウシジマくんSeason2」から登場した情報屋の戌亥(綾野剛)がウシジマをサポート。私生活でも仲の良い二人ともあってその息はぴったりだ。またそのほかの出演者たちも、もう後がない人間の内面をうまく表現しており、中でも特に山田孝之に負けない存在感を放つストーカー役の柳楽優弥や、闇金業者役の高橋メアリージュンの爆発力は鳥肌もの。本作のストーリーと相まって、えたいの知れない気持ち悪さや見てはいけないものを見てしまったような罪悪感を呼び起こさせる。(編集部・井本早紀)
スピンオフも含めると、これが7作目となる『X-MEN』シリーズ最新作。今回の大風呂敷の広げ方はこれまで以上にすさまじく、1973年の過去と2023年の近未来を舞台にしつつ、これまでのシリーズ全作を包括したストーリーが展開される。「過去にタイムスリップして未来の強敵が生まれてくるのを防ぐ」という設定は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』……というよりは『ゴジラVSキングギドラ』が元ネタか。ほかにも親友同士の確執や挫折からの復活など、ありとあらゆる要素を盛り込んでおり、360度どこから見ても完璧な娯楽大作に仕上がっている。「シリーズ集大成」という煽り文句は下手をすれば“いちげんさんお断り”な印象を与えるが、その心配は無用。職人監督のブライアン・シンガーらしく、複数の世界観・時間軸を交差させながらも、すんなり物語が頭に入ってくる。強いて難点を挙げるとすれば、ジェームズ・マカヴォイとパトリック・スチュワートが同一人物を演じるというキャスティングくらいか。彼の頭髪に一体、何があったのかが気になる。(編集部・福田麗)