アンジェリーナ・ジョリー、映画『マレフィセント』に込めた母の愛
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アンジェリーナ・ジョリー待望の主演作『マレフィセント』がついに公開! 製作総指揮も務めるアンジーが、ディズニー・アニメのヴィランとして知られるマレフィセントに感じた魅力とは? 本作を通して彼女が子供たちに伝えたかったことは、アンジーの母親としてのあふれんばかりの愛と感謝だった。
ディズニー悪女VSハリウッドの元悪女!?
本作でアンジーが演じているマレフィセントは、ディズニーアニメの傑作『眠れる森の美女』でオーロラ姫に恐ろしい“永遠の眠り”の呪いをかけた有名なヴィラン(悪役)。だが本作ではマレフィセントを単なる「悪」として描くのではなく、彼女が悪の道に進んだきっかけや、呪いをかけてしまった自分の良心との葛藤が繊細に描かれている。
製作総指揮も務めているアンジーがなぜマレフィセントに興味を持ったのか。彼女自身がかつてゴシップにまみれたハリウッドの悪女として数多くのバッシングを受けた過去までさかのぼるとその理由が少しだけ見えてくる。黒ずくめのファッションに、ゴシック調のメイク、そして過激な発言を繰り返していたことで、問題児扱いされていた彼女もまた、マレフィセントと同じように心の中に大きな苦悩と悲しみを秘めていた。壮絶な人生を送ってきたアンジーは今、家族とともに幸せな毎日を過ごしており、そこにはかつてハリウッドを騒がせていた頃の寂しげな影はみじんも見えない。映画で描かれているマレフィセントの心の旅路は、アンジー自身が一人の女性としてたどってきた心の成長そのものといえるはずだ。
マレフィセントとアンジー、運命を変えた2つの「裏切り」
悪役マレフィセントの視点から描かれる本作では、これまで誰も知らなかった大きな秘密が明かされる。それはマレフィセントが邪悪な妖精になることとなったきっかけ。少女の頃は永遠の愛を信じるピュアな妖精だったマレフィセントは、ある大きな裏切りを経験したことにより、誰も信じず、心の扉を固く閉ざし、憎しみを胸に抱えたまま悪の道を突き進むことになる。
アンジーの父親ジョン・ヴォイトは、彼女が1歳のときに家族を捨て、ほかの女性に走った。苦労する母の姿を見て成長した彼女は、いつしか父が家を出た原因を知ることとなる。マレフィセントと同じように永遠の愛を信じていたピュアな少女だったアンジーの心には、父の裏切りが重くのしかかるようになり、10代、そして20代にかけて、自傷行為やタトゥー、ドラッグ、摂食障害、など数多くの問題を抱えながら生きるようになったのだった。
地球上で最も純真な存在との出会いが、真実の愛を目覚めさせる
真実の愛を求めながら、20代で2度の結婚を経験したアンジー。アカデミー助演女優賞を受賞した映画『17歳のカルテ』で注目された後は、2番目の夫ビリー・ボブ・ソーントンとの過激な結婚生活が常に世間を騒がせた。ビリーの血液をカプセルに入れて持ち歩いていたり、レッドカーペットで「ついさっきまで車の中でセックスしていたわ」と話したり……。当時のアンジーは、まるで欠落した愛情や自信を補完するかのように自身のセクシュアリティーを際立たせる発言ばかりが目立っていた。
そんな彼女にとって大きな転機となったのは、映画『トゥームレイダー』の撮影でカンボジアを訪れたときだった。孤児院で知った世界の現実は、アンジーに大きなショックを与え、後に彼女は「アンジェリーナ・ジョリー 彼女のカルテ」の中で飢えた赤ちゃんを腕に抱いた瞬間のことを「ああいう苦しみが存在するなんて、まったく知らなかったから。少なくともわたしが暮らしている世界では……」と述懐している。その後、『トゥームレイダー』の撮影中に出会った孤児の一人であるマドックスを養子に迎えてから、彼女の生き方はガラリと変わっていく。それはオーロラ姫という純粋な存在に触れることで、真実の愛を知ったマレフィセントに通じるものがあるだろう。
アンジーが作品に込めた母としての大きな愛
現在、パートナーであるブラッド・ピットと共に養子・実子を含めた6人の子供たちを育てながら、さまざまな基金を設立したりUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)特使として活動するなど、幅広い慈善活動を行っているアンジー。常日頃から「子供たちとの生活が基本で、一番大切」と話しているように、いまのアンジーは愛にあふれ、かつて彼女が背負っていた影は見えない。
この作品には、母アンジーから子供たちへのメッセージがたくさん詰まっている。セレブである両親を持っている以上、彼らは成長していくにつれ、親のさまざまな過去を知ることになるはずだ。だが、どんな過去があろうとも最愛の子供たちに出会えたことで真実の愛を知り、まったく新しい自分に生まれ変わったこと、そしてたとえ血がつながっていなかったとしても愛の深さは変わらない、という母の愛情はスクリーンから痛いほど伝わってくる。本作は、母としての生きざまを、演技を通して子供たちに贈ったアンジーからのプレゼントといえるだろう。
文:編集部 森田真帆