『拳銃と目玉焼』特集:崖っぷちのビデオ屋が撮り上げた自主制作映画が大逆転!東京進出を決めたウワサの名作を緊急レポート
「8万円のカメラ」「スタッフは3.5人」という破格の低予算で撮り上げた自主制作映画『拳銃と目玉焼』が、満を持して東京で公開に。「ハリウッド映画に対抗する」という監督の熱意が観客に届き、大阪での初日には立ち見が出るほどの盛況で続映が決定し、香川・京都での上映を経て東京進出を果たした本作が完成するまでの道のりを、安田淳一監督への直撃インタビューを交えて紹介します!(取材・文:シネマトゥデイ編集部 入倉功一)
監督を務めた安田淳一は、学生時代に映画作りの傍ら学費を稼ぐため、京都で結婚式や幼稚園行事のビデオ撮影業をスタート。卒業後もビデオ屋を続けていたが、40才を過ぎて「やりたいことをやらなあかん」と一念発起! 長編映画制作を決意した。撮影はほぼ3、4人体制で進行。足りない労力は自ら補い、撮影や照明、編集、衣装、劇中のプラモデル制作まで、実に1人13役をこなし「ハリウッドの2,000分の1の予算で作りました」と胸を張った。
「一眼レフで動画が撮れるようになって以降、自主映画の映像のクオリティーは格段に上がりました。その一方で映像に負けない、照明技術や俳優さんの存在感がより必要になったと思います。この作品ではカメラこそ実売8万円のカメラで撮影したものの、出演者にはプロの俳優さんを起用し、衣装やロケ場所も妥協しなかったつもりです。その成果が映像に現れていると信じています」
この作品の主人公は、新聞配達員としてつましい生活を送る心優しい中年の男・志朗(小野孝弘)。彼が、行きつけの喫茶店で働く女の子・ユキ(沙倉ゆうの)を守るため、夜な夜なスーツを自作し、近所の公園でトレーニングに励む。その、「やれそうで誰もやらない」涙ぐましい努力が、観客の心をくすぶる。監督が愛してやまない寅さんと仮面○イダー、そして昭和男のやせ我慢のダンディズムと、変身ヒーローの胸をすく活劇。そこに関西らしい人情喜劇をないまぜにして日本映画に新しいヒーローが誕生した!
「本作ではハリウッド映画のように大金と CG によって力ずくでヒーローを成立させるのではなく、ストーリーと張り巡らした伏線によってリアリティーをもって成立するヒーローを目指しました。おもちゃを売るためのシステムに成り果てた現代のヒーロー達が失った熱いメッセージや、混沌とした時代にこそ取り戻されなければならない「正義」と言う価値観、それ以上に本当に「カッコいい」とはどういう事なのか、自分なりの考えを物語に込めたいと思いました」
完成した映画を公開すべくミニシアター行脚を開始した監督。しかし中年ヒーローの奮闘を描く娯楽的な作風は、アート系映画から「客層に合わない」と断られ続けた。大阪・香川・京都でなんとか単館公開され、反応よく延長上映されてもなお製作費回収には及ばなかった。そして目に留まったのがシネコン。「自主映画がシネコンにかけてもらえるわけない」と人に言われるまでもなくあきらめていた監督だが、言うだけならタダとばかりにいちかばちかのシネコン営業を決行。その結果、T・ジョイとバルト9から「面白い」との評価を得て都内進出と全国6都市でのシネコン上映を実現させた。(この結果を受けて、さらに幾つか単館劇場が公開を決めた)。
「インディーズ映画を取り巻く環境は非常に厳しいものがあります。作ってもまず回収できないのが常。長年ビデオ屋をやってきて思うのは、自分の作りたいものではなく、お客さんの欲しいものを、お客さんの期待以上に作る。そうするとまた注文してくれる、と言う商売の基本をはずさないという事。映画にもこの考えが当てはまるんじゃないでしょうか。とにかくお客さんがお金を払って楽しめるものを作る。そしてまた次回作に来ていただく。この姿勢を一貫していれば希望は見えるんじゃないかと。思い余って未来映画社と言う小さな映画製作配給会社を立ち上げました。実験です(笑)。今は次回作の『ごはん』という作品を撮影しています。最低5本は製作して配給したい。5本やってダメならあきらめます(笑)」
撮影1日目、朝4時起きでその日の脚本を書き上げた監督。2時間ほどで終わるはずのシーンだったが、撮影は6時間以上かけて何とか終了。監督の頭に「ホンマにこれ完成できるのかな……」という不安がよぎった。そんな監督を支えたのは、「ここで撮らないと一生後悔する」という思い。一度腹をくくると、掛けるべきところにはお金をつぎ込み、会社が傾き心配した妻の実家から電話が掛かってきても、へこたれることなく完成までの3年を乗り切った。
「この苦しみから逃れるわけにはいかないと思いました。人間、一生に一回ぐらい死ぬほど頑張らなあかん時がある。それが今だと自分に言い聞かせました。今のしんどさから抜け出すには目の前にあるワンカットを撮り続けるしかない。そう開き直ると脚本が間に合わずその日に撮る分を朝4時に起きて書き、毎日のように十数万円が出続け、撮影を進めながら明日のロケ場所を同時に探す七転八倒の毎日をなんとか生きながらえることが出来ました。その結果「脚本が完成してから撮影するべし」と言う、当たり前すぎる教訓を得ました」
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