『ゴーストバスターズ』今昔物語
今週のクローズアップ
■『ゴーストバスターズ』今昔物語
「妙なものを見たら、誰を呼ぶ?」「ゴーストバスターズ!」。1980年代を生きた少年であれば、少なからず『ゴーストバスターズ』に憧れたことがあるはずだ。少なくとも筆者は、本作がテレビ放送されると、すぐさま友達と空想のプロトンパックを背負って、ノートの切れ端に書いたゴースト(当時発売されていたファミコンゲームのゴーストだった)を壁に貼り、ゴースト退治にいそしんだ。そんな不朽のエンタメ大作の誕生から30年がたち、ブルーレイボックスの発売と劇場再上映が決定! 改めて作品の魅力と、報じられ続けているパート3の状況を追います!
■カッコよくないけどかっこいい!バスターズの面々!
パート1の公開は1984年のこと。アメリカ・ニューヨークで、超常現象を研究する3人の科学者が「ありもしないものの研究に金は出せん!」とばかりに大学から追い出され、前代未聞の幽霊退治ビジネスをスタート。最初こそつまずくかと思われたが、徐々にお化け退治の依頼が舞い込み始め人気者に。しかし、ニューヨークでは、門の神ズールと鍵の神ビンツが人間の体を借りて破壊の神ゴーザをよみがえらせようと活動を開始。さらには「ゴーストバスターズ」の活動に目を付けた保健局の役人に強制的に幽霊保管庫の電源を切られる事態が重なり、ニューヨーク中がゴーストだらけに。こうして街の希望となった彼らの奮闘が描かれる。
この最高にゴキゲンなホラーコメディーの中心となるのは、何といっても「ゴーストバスターズ」を立ち上げる、ピーター・ヴェンクマン博士(ビル・マーレイ)、レイモンド・スタンツ博士(ダン・エイクロイド)、イゴン・スペングラー博士(ハロルド・ライミス)ら3人の科学者たち。彼らは知識こそ豊富だが、超常現象の研究にいそしむ変わり者で、ハンサムでも健全なスポーツマンでもない、金だってない社会の落ちこぼれだ。
しかし彼らは決して権力者にこびへつらうことなく、くだらないルールに縛られることもない。特にビルが演じたヴェンクマン博士は、超常現象さえ信じていない皮肉屋。それでいて心の闇を抱えて鬱屈(うっくつ)しているわけでもない、およそハリウッド映画の主人公らしくないキャラクター。高級ホテルで初めての幽霊退治に挑む場面で、彼らは宴会場の豪華なシャンデリアやケーキを吹き飛ばし、ヴェンクマン博士は「一度やってみたかった」と机のテーブルクロス引きに挑戦、高級な食器を床にぶちまける。そんな自由奔放にはしゃぎまくる彼らが、どんなにハンサムな映画スターよりも最高にカッコよくて身近な存在に思えた。
■彼らしかいない!最高の才能がそろったスタッフたち
本作の脚本を手掛けたのは、傑作コメディー『アニマル・ハウス』の脚本をものにしていたライミスと、「サタデー・ナイト・ライブ」のレギュラーと脚本に参加していたエイクロイド。コメディー雑誌「ナショナル・ランプーン」と提携したラジオ番組などで手腕を発揮し、後にタイムループものの傑作『恋はデジャ・ブ』を監督した才人ライミスと、同じくコメディアンとしてバツグンの才能を持ち、超常現象をはじめとする知識にも造詣の深いエイクロイドのタッグ。さらに監督は製作者時代からライミスと付き合いのあるアイヴァン・ライトマンが担当した。今見れば、これほど本作に適した人々はいないと思える、まさに完璧な布陣だ。さらにこれだけの大作ながら、脚本は3か月で書き上げられ、さらに撮影しながらストーリーを付け加えていったという、インディペンデント精神あふれる制作体制も本作の魅力といえる。
■魅惑的なガジェットと個性的なゴーストが男心を直撃!
そして、何より当時の少年の心をくすぐったのが、ゴーストバスターズが使う小道具の数々。バカでかいバックパックに幽霊を捕獲するビームを放出する銃をつなげたプロトンパックに、幽霊を吸い込むゴーストトラップ、幽霊探知機のPKEメーター……精巧でありながら、ほどよい手作り感にあふれたガジェットのどれもが魅力的で、映画を観た誰もが、ベージュのつなぎに袖を通してこの装備を身に着ける自分の姿を想像したはず。本国アメリカではいまだその人気は絶大で、先に行われた2014年のコミコン・インターナショナルでも、バスターズの衣装を身に着けたコスプレイヤーたちが笑顔でサンディエゴの街中を歩いていた。ライミスによると、当時映画の中の出来事を本当だと思った人から、パックを送ってほしいという手紙が届いたこともあったという。
またゴーストバスターズが寝泊まりする建物も魅力的だった。元消防署(ファイアハウス)を改装した本部は、レンガ造りで問題箇所だらけのオンボロ屋敷だが、2階と1階をつなぐポールが付いている! それだけで秘密基地としては完璧で、いざ出動となれば、ポールを滑り降りてつなぎに着替える彼らの姿は憧れの的だった。そして、そんな彼らが乗り込む車両が「エクト・ワン」。救急車や霊きゅう車として作られた59年型キャデラックシリーズ62を基に、エイクロイドが細部まで設定を考えた装置が載せられたこの車は作品を象徴する存在となり、およそ実用的ではない細長いテールフィンに至るまで、何もかもがカッコよかった。
そして何と言っても忘れてはならないのが、個性的なゴーストたち。でかい口で食物をむさぼり食う「スライマー」を筆頭に、大好きな読書を邪魔されると老婦人の見た目から突如として醜いバケモノに変化する「ライブラリーゴースト」、ゾンビの姿で運転席に座り街中でタクシーを暴走させる「タクシー・ゴースト」、破壊の神ゴーザの寺院の番犬「テラードッグ」。
そしてゴーザが人間の世界を破滅させるために変身する34メートルの「マシュマロ・マン」……どのゴーストも最高にバカげていながらも恐ろしく、一目見たら忘れられない存在感を発揮していた。
■立役者ライミスの死…そして続編の製作はどうなる?
冒頭に挙げたレイ・パーカー・Jrによる主題歌は誰にとっても忘れられない一曲となり、当然映画は空前のヒットを記録。5年後には続編『ゴーストバスターズ2』が公開され、1ほどの高評価ではなかったものの、こちらも大ヒットを記録した。s
そんな本作にパート3製作の話が持ち上がったのはそれからさらに19年後の2008年のこと。ビル、エイクロイド、ライミスの3人も出演し、ライトマン監督も参加。さらには『40歳の童貞男』のジャド・アパトーがプロデュースを手掛け、2009年の後半から撮影が開始される予定……とファンの期待をあおる情報が飛び交ったが、度重なる脚本のリライトやキャスティング選考の難航などが報じられ、予定はどんどん先送りに。結局2014年になっても撮影は開始されず、2月には、炎症性血管炎の合併症のため、ライミスが69歳にして早すぎる死を迎える。
『ゴーストバスターズ』の頭脳だったライミスの死を受け、ライトマンは監督を辞退。ファン待望のパート3の実現は幻と終わるのかという状況だ。しかし7月にはエイクロイドが、撮影が決まったとトーク番組で発言。来年にはプリプロダクションに入るといい、ライトマンに代わる監督として、映画『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』や『デンジャラス・バディ』のポール・フェイグの名が挙がっている。
女性を含む新しい世代のゴーストバスターズを描くことになっているといううわさのパート3。新しい世代の活躍を楽しみに待ちながら、まずは30年という節目を迎えた『ゴーストバスターズ』の活躍を、もう一度劇場で体感したい!
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作品情報
映画『ゴーストバスターズ』はTOHOシネマズ日本橋ほか9月6日より全国公開中
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