これぞハマり役!コミックの実写化キャラクターたち
今週のクローズアップ
9月13日に公開される映画『るろうに剣心 伝説の最期編』をはじめ、今の映画に漫画は欠かせない存在となっている。しかし、原作のファンにしてみれば、その世界観を果たして実写で表現できるのか気になるところ。そこで今回は、漫画の実写化作品でファンの期待を裏切らないほどの完成度を見せたハマり役の数々を紹介する。
文・構成:編集部 吉田唯
おかっぱ頭が最高にキュート!『ピンポン』(2002)のペコ(窪塚洋介)
松本大洋の同名卓球漫画を窪塚洋介と井浦新(旧芸名・ARATA)のコンビで実写映画化。高校生のペコ(窪塚)とスマイル(井浦)が卓球を通して成長していくさまを描いている。
個性的な絵柄と特徴的なせりふで構成された原作の世界観を再現するのは無理ではないかといわれていたが、窪塚は独特なせりふ回しやキュートなおかっぱ頭で自由奔放だが卓球には人一倍熱い主人公・ペコを見事に表現した。特に冒頭の有名な「I can fly!」というせりふと共に川に飛び込むシーンは、ペコの個性的な性格をよく表している。さらに本作は卓球という一見地味なスポーツを題材としているが、CGを駆使した試合シーンではアクション映画顔負けの躍動感あふれる熱いプレーを披露。単なるラリーではなく、奥行きのある試合を再現することに成功した。漫画の実写映画で成功した作品として多くの人がこの作品を挙げる理由は、何よりも窪塚が原作の雰囲気を壊すことなくペコを演じたことが大きいだろう。
猫背の天才青年を完コピ!『DEATH NOTE デスノート 前編』(2006)のL(松山ケンイチ)
「週刊少年ジャンプ」で連載がスタートするやいなや、その衝撃的な内容が話題になった大人気漫画を実写映画化した本作。書き込んだ名前の人間を死に至らしめる不思議なノート「デスノート」を手に入れた青年・夜神月(藤原竜也)が理想の世界を作り上げようとするさまを、その野望を阻止しようとする人々との攻防を交えて描いている。
本作で夜神月の正体を突き止めようとする天才青年・Lを演じたのは松山ケンイチ。目の下の真っ黒なクマや極度の甘党という設定、異常なまでの猫背など、原作でもその変人っぷりが印象的であったLを見事に再現した。実写映画化発表当時はどのように原作を再現するのか話題沸騰であったが、公開されてみると「まさにLそのもの!」と絶賛の声が相次ぎ、松山はこの役で一気に知名度を上げることとなった。そのハマりっぷりはLを主人公にしたスピンオフ映画『L change the WorLd』まで製作されるほど。さらに松山は本作を含めた『DEATH NOTE』シリーズの演技が評価され、アジア太平洋地域の映画産業に貢献した人物に贈られるAPNアワードを受賞している。
古代ローマ人を演じたのはまさかの日本人!『テルマエ・ロマエ』(2012)のルシウス(阿部寛)
ヤマザキマリの人気漫画を実写化した本作は、現代日本の銭湯にタイムスリップした古代ローマ帝国の浴場設計技師・ルシウス(阿部寛)が時空を越えて異文化交流を繰り広げるさまを描いている。
古代ローマ人を日本人が演じるという発想に誰もが驚いたが、同時に主人公が阿部だとわかると誰もが「納得!」という反応を見せた、まさにハマり役。顔の濃さだけでなく、その高身長が古代ローマ人という設定に説得力を添え、観客にシュールな笑いを提供した。また、続編の『テルマエ・ロマエII』がイタリアで上映された際に、約200人を対象に行った「最も古代ローマ人らしかったのは?」というアンケートでは阿部が120票というダントツの得票数で第1位に輝き、その古代ローマ人っぷりはイタリア人お墨付きのものとなった。阿部のほか、北村一輝、市村正親、宍戸開といった日本屈指の顔の濃い俳優陣が古代ローマ人を演じる姿も必見だ。
アメコミだって負けていない!『アイアンマン』(2008)のトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)
本作は同名人気アメコミを基に、億万長者で発明家の軍需産業会社社長トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)が自ら開発したハイテクのよろいを身にまとい、「アイアンマン」として敵と戦うさまを描いたアクション超大作。
数多くのアメコミ作品の中でも特に評判が良い『アイアンマン』は、X-MENやハルクなどとは異なり、生身の人間がハイテクなスーツを身に着けることでヒーローになれるのが特徴。そこで、ロバートは今までの完全無欠なヒーロー像を破壊し、ヒーローの人間味あふれる繊細な内面を表現した。これによってロバートは「原作のイメージと違う」という批判的な前評判を見事に覆し、アメコミ映画史上に残るハマり役となった。なお、本作で悪人たちに監禁されたトニーが脱出した後にいう「チーズバーガーが食べたい」というせりふはロバートが考えたもの。ヒーローであっても普通の人間らしい主人公の性質をよく捉えていることがわかるエピソードだ。
今やジョーカーの代名詞!『ダークナイト』(2008)のジョーカー(ヒース・レジャー)
世界的人気を誇るアメコミ「バットマン」シリーズで初めてタイトルからバットマンの名前を外した本作は、バットマン(クリスチャン・ベイル)が宿敵・ジョーカー(ヒース・レジャー)の登場で混乱に陥ったゴッサム・シティーを守るべく、死闘を繰り広げるアクション超大作。公開を前にした2008年1月にヒースが亡くなったことでも話題になった。
映画『バットマン』(1989)で名優ジャック・ニコルソンが演じたジョーカーが原作のイメージに近いジョーカーであったのに対し、ヒースが演じたジョーカーは原作以上に「悪」の面を強調した存在である。公開前には「ジャックが演じたジョーカーを超えられるわけがない」といわれたヒースだが、悪の化身を体現するかのような怪演で主役であるはずのバットマンがかすむほどの存在感を見せつけ、原作ファンだけでなく、多くの人々が彼のジョーカーのとりこになった。なお、彼はこの作品で故人俳優として第81回アカデミー賞助演男優賞を受賞している。
サブカル女子のバイブル!『ゴーストワールド』(2001)のイーニド(ゾーラ・バーチ)
アメリカの人気コミック作家・ダニエル・クロウズの同名コミックを実写映画化。高校を卒業してもろくに就職せず、気ままな生活を送る2人の少女・イーニド(ゾーラ・バーチ)とレベッカ(スカーレット・ヨハンソン)の青春を描いている。今やセクシーアイコンとして大人気のスカーレットが辛辣(しんらつ)だがどこか素朴な少女を演じているのも見どころ。
強烈なキャラクターと奇抜なファッションが特徴的な主人公・イーニドを演じるゾーラは、本作でこじらせ女子の痛々しさといとしさを見事に表現。太縁メガネにパッとしない真ん中分けのショートヘアという外見の完コピ度もさることながら、他人とは違うことに快感を見いだしているイーニドの存在感は、観客の心の中にある青春時代のかさぶたを全力で剥がしにかかってくる。『アメリカン・ビューティー』などでその才能を絶賛されたゾーラだが、この作品以降はテレビやB級映画に活躍の場を移しており、実生活までもがどこかイーニドを思わせる。
カンヌで主演女優2人もパルムドールを受賞!『アデル、ブルーは熱い色』(2013)のエマ(レア・セドゥ)
第66回カンヌ国際映画祭で史上初めて主演女優2人にもパルムドールが贈られた本作。ジュリー・マロの人気コミックを基に、青い髪をした画家の女性・エマ(レア・セドゥ)と運命的に出会ったことでレズビアンに目覚めていくヒロイン・アデル(アデル・エグザルコプロス)の人生を大胆なラブシーンを交えて描いている。
日本ではまだあまり知られてはいないが、ベルギーやフランスを中心とした地域には「バンド・デシネ」と呼ばれる漫画が存在し、三鷹の森ジブリ美術館が配給したことで話題になったスペイン映画『しわ』や、ポン・ジュノ監督の『スノーピアサー』など、近年「バンド・デシネ」を原作にした映画が多く公開されている。本作はそんな「バンド・デシネ」を基に制作され、公開時には原作を日本語に翻訳した漫画が出版された。
『マリー・アントワネットに別れをつげて』などでフェミニンなイメージが強かったレア・セドゥは、本作で鮮やかな青色に髪を染め、ボーイッシュで知的なエマを完璧に演じた。何十回と同じシーンを撮影する狂気的ともいえる監督の撮影方法に追い詰められながらも、ラブシーンなどで披露した体当たりの演技は、公開当時大変な反響を呼んだ。監督はレアの持つ知的な雰囲気がエマ役にぴったりだと感じてこの役をオファーしたと語っているが、それがまさにエマの本質と共鳴し、素晴らしく魅力的なキャラクターとして観客の印象に残ることとなった。