第22回:戦車映画『フューリー』&ノーランSF『インターステラー』&恐怖のスパルタ先生『ウィップラッシュ』
最新!全米HOTムービー
世界の映画産業の中心・アメリカで今最もアツい映画を現地在住ライターが紹介する「最新!全米HOTムービー」。今回の3本は、リアリティーあふれる戦車映画『フューリー』、クリストファー・ノーラン監督最新SF『インターステラー』、そして音楽学校のスパルタ教育を描いたスリリングな『ウィップラッシュ(原題)/ Whiplash』!(取材・文:吉川優子、細谷佳史)
『フューリー』
ブラッド・ピット主演の戦争映画『フューリー』が、オープニングの週末に2,370万2,421ドル(約23億7,024万2,100円)を売り上げ、予想通りナンバーワンヒットを記録した。第2次世界大戦末期、ドイツ領内に深く侵入したアメリカの戦車部隊にスポットを当て、アクションだけでなく、実際の戦場で何が起きていたかを兵士の視点からリアルに描く人間ドラマに仕上がっている。(数字はBox Office Mojo調べ、1ドル100円計算)
ブラピが演じるのは、壊れて動かなくなった1台の戦車で、300人のドイツ軍の精鋭部隊を相手にした5人のアメリカ兵の隊長役。8月、アンジェリーナ・ジョリーと正式に結婚したブラピは、6人の子供を持つ父親だが、撮影現場でも父親的な存在だったようだ。ブラピの下で名砲手を演じたシャイア・ラブーフは、ニュース番組で「彼(ブラピ)はみんなの面倒を見ていた。彼は戦車の中で父親だったよ。(この役は)僕が今までで最もやりがいのある仕事だった」と語っていた。また監督のデヴィッド・エアーは、役者たちの間に何年も一緒に戦ってきたような自然な雰囲気を出すために「撮影前に役者同士でボクシングのスパーリングをさせた」というから面白い。これまであまり見たことのない狭い戦車内の描写が秀逸。ティーガー戦車とシャーマン戦車の一対一の対決シーンは、映画史に残る名場面といっていいだろう。
映画『フューリー』は11月28日よりTOHOシネマズ日劇ほか全国公開
『インターステラー』
豪華キャスト&スタッフを直撃!『インターステラー』リレーインタビュー
『ダークナイト』トリロジーや『インセプション』など、エピックな娯楽作を作らせたら右に出る者はいないクリストファー・ノーラン。世界が今最も注目しているこの映画監督の待望の新作『インターステラー』が、いよいよ11月7日から北米で公開される。数週間前からテレビスポットが頻繁に流れ始め、公開に向けて作品への期待度が高まっている。
時空間を今までにない速さで移動できるワームホールが宇宙で発見され、環境汚染で存亡の危機を迎えた人類が、未来を懸けた宇宙への旅に出るという壮大なスケールの感動作だ。今年『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー賞主演男優賞を受賞し、今一番旬な俳優マシュー・マコノヒーが、2人の子供を地球に残してその旅に参加する主人公の元エンジニアを演じる他、アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインという実力派女優陣が出演。
毎回、部分的にIMAXカメラを使って撮影してきたノーランは、今回さらに多くのシーンでIMAXを使用。デジタル上映全盛の今、あえてフィルムでの上映にこだわっている。先日ハリウッドの映画館に行った際、今作が、デジタルだけでなく、70ミリと35ミリでフィルム上映されることが告知されていた。自分の作品を自分が思う最高の条件で観客に体験してもらいたいというノーランの完全主義ぶりを見て、彼が『2001年宇宙の旅』の巨匠スタンリー・キューブリックにますます近づいたと感じた。
映画『インターステラー』は11月22日より新宿ピカデリー他にて全国公開
『ウィップラッシュ(原題)/ Whiplash』
今年サンダンス映画祭で審査員大賞と観客賞をダブル受賞、トロント映画祭でも大評判だったインディー映画『ウィップラッシュ(原題)』をようやくキャッチ。日曜日の夜というのにソールドアウトで驚いた。
舞台は、全米一有名なニューヨークの音楽学校。えり抜きの生徒を集めた学内のジャズバンドのドラマーになろうと躍起になっている学生アンドリューと、スパルタ式教育で全生徒に恐れられている教師フレッチャーの関係を描いたスリリングなドラマ。最初はまだあどけなさの残るアンドリューが、フレッチャーに認められたい一心で、指から血を流して猛練習、徐々に精神的に追い詰められていく。予想のつかない展開で、クライマックスが圧巻だ。
アンドリューを演じるのは、『ラビット・ホール』や『ダイバージェント』のマイルズ・テラー。15歳からドラムをロックバンドで演奏していただけあり、準備期間が3週間しかなかったにもかかわらず、迫力ある演奏を披露していて説得力満点。そして、フレッチャー役のJ・K・シモンズは、ジャズを愛するあまり、生徒を精神的にも肉体的にも虐待する教師を、まるで彼のために書かれた役であるかのように見事に演じている。
監督デイミアン・チャゼル自身の経験が基になっているそうで、この長編を撮る前、同じ題材で短編を作り、資金集めをした。撮影期間が20日間という短さだったが、カメラの動きが絶妙で、音楽に合わせた編集もテンポ良く秀逸。アカデミー賞など、さまざまな賞に絡んでくるのではと予想されている。29歳のチャゼルの才能は大きく注目されているが、次回作は何とロサンゼルスを舞台にしたミュージカル映画で、主演は再びマイルズと、エマ・ワトソンというから今後も楽しみだ。
映画『ウィップラッシュ(原題)/ Whiplash』は日本公開未定
【今月のHOTライター】
■吉川優子
俳優や監督の取材、ドキュメンタリー番組や長編映画の製作など、幅広く映画に関する仕事を手掛ける。最近の作品は「ハリウッド白熱教室」など。
■細谷佳史(フィルムメーカー)
プロデュース作にジョー・ダンテらと組んだ『デス・ルーム』など。『悪の教典 -序章-』『宇宙兄弟』ではUS(アメリカ側)プロデューサーを務める。