第29回 モントリオール世界映画祭(カナダ)
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第29回 モントリオール世界映画祭(カナダ)
吉永小百合企画・主演作『ふしぎな岬の物語』が審査員特別賞グランプリとエキュメニカル審査員賞、呉美保監督が『そこのみにて光輝く』で最優秀監督賞を受賞して、がぜん注目度がアップしたモントリオール世界映画祭(カナダ)。日本作品が受賞したことだけが報じられるが、どんな映画祭なのかは意外に知られていない。そこで同じく本年度の第38回モントリオール世界映画祭(2014年8月21日~9月1日)に短編映画を引っ提げて参加した内藤隆嗣監督にレポートしてもらった。(取材・文:中山治美 写真:内藤隆嗣)
健さんも訪れた!
同映画祭は現・会長のセルジュ・ロジークが1977年に創設。北米で唯一、国際映画製作者連盟公認の長編コンペティション部門のある映画祭でもある。2004年に内部分裂騒動が起こり、以降、ベネチア国際映画祭と開催時期が重なるなどの問題もある。ただし日本では、先ごろ亡くなった高倉健さんが『鉄道員(ぽっぽや)』(1999)で主演男優賞、滝田洋二郎監督の『おくりびと』(2008)が最優秀作品賞を受賞するなど知名度は抜群だ。今年は80か国から約400作品が上映。長編コンペティション部門のほか、ドキュメンタリーや学生映画部門もあり、内藤監督の短編『恋は考えるな、愛は感じろ』は、カナダ以外の長短編を上映する「フォーカス・オン・ワールド・シネマ」部門に選ばれた。「上映は映画祭前半で、吉永さんとは入れ違いでお会いできず。でも『ふしぎな岬の物語』のようなメジャー大作と同じ映画祭に参加できたことをうれしく思いました」(内藤監督)。
ちちぶから世界へ
『恋は考えるな、愛は感じろ』はちちぶ映画祭が行っている短編映画企画に選ばれ、10万円の撮影助成金を得て製作されたご当地映画だ。「秩父の田舎で撮ったほぼ自主映画。短編は上映の機会がないだろうと、最初から海外映画祭を意識して作りました」(内藤監督)。初商業映画『不灯港』(2008)は、第18回PFFスカラシップ作品だったため、ぴあ側がロッテルダム国際映画祭などへの出品手続きを行ってくれた。だが今回は、公益財団法人ユニジャパンのアドバイスを受けながらエントリー規定や作品に合う映画祭を選び、自身の手で全て手続きを行ったという。そして、早い段階で返答が来たのがモントリオールだった。「落選したものの、ディレクターからきちんと返事をいただいたのがカンヌ国際映画祭の監督週間でした。直接手渡したのに連絡すら来なかった映画祭もありました」(内藤監督)。老舗映画祭は、ささいな対応一つで作り手との信頼を築き、歴史を紡いでいるのだ。
ザ・日本!がポイント
『恋は考えるな、愛は感じろ』は、三十四観音巡礼で知られる秩父の地域性を生かした「巡礼」がテーマで、保険営業マンのキザだが不器用な愛がさく裂するラブコメディー。ほか、同じ部門には日本から小野寺昭憲監督『特攻志願』、柿崎裕治監督の時代劇『陽は落ちる』が選ばれたことに代表されるように、日本らしさを感じさせる作品が多い。「上映後のQ&Aでは寺と神社の違いについて聞かれました。吉永さんはフランス語を覚えてあいさつしたそうですが、僕は『あんちょこ』(注:カンペ)を見ながらだったので反省しないと」(内藤監督)。ただ残念ながら観客はあまり多くはなかったという。「映画祭スタッフは、しっかり作品を観て選んでくださったと思うのですが、ホスピタリティーなど全体的に、長編作やコンペ作との歴然とした差を感じました。実際、短編では、劇場公開し、収益に結び付けるのも難しいですから。次回は長編、しかも華やかなコンペで参加したいです」(内藤監督)。
日本よりも高い税金
モントリオールには、ロサンゼルスやトロントなど北米主要都市乗り換えで計14~15時間。今回、内藤監督は1週間滞在し、渡航費&宿泊費共に自費。「数十万円かかるので資金調達に難儀しました。でも『不灯港』以降、5年ぶりの国際映画祭だったので、ここは無理してでも……と決断。スタッフにも温かく見守られ、お尻好きの僕にとってはホットパンツの女性をたくさん見られただけで、十分おつりがきました」(内藤監督)。ただし、州税と連邦税の合わせて約15%が上乗せされるため、物価が高く感じる。「ピザとワインに税金とチップを合わせたら、3,000円ぐらいになるのが痛かった」(内藤監督)。
5年ぶりの映画祭で奮起
モントリオールは“北米のパリ”と称されるように、カナダとはいえフランス語圏。治安も良いことから、フランス語を学ぶために留学している日本人も多い。「字幕は、映画祭側から英語のみで十分と言われたが、より現地の方にセリフのニュアンスを伝えるためにもフランス語も入れておいた方が良かったかも。また長編の監督たちと交流する機会がなかったのが残念」(内藤監督)。しかし、オリジナル作で勝負をしようと、次回作の構想を練っている最中の内藤監督にとって、何よりのいい刺激となったようだ。「海外映画祭で新鮮な空気を吸って、『よし! がんばろう』という気持ちに。何より、安いギャラで手伝ってくれたスタッフ全員のためにも、国際映画祭に参加できて良かった」(内藤監督)。
写真:内藤隆嗣
取材・文:中山治美