第66回:『6才のボクが、大人になるまで。』『紙の月』『インターステラー』『日々ロック』『フューリー』
今月の5つ星
主要人物4人を同じ俳優が12年間演じたことでも話題の家族ドラマ『6才のボクが、大人になるまで。』、宮沢りえが東京国際映画祭最優秀女優賞を受賞したサスペンス『紙の月』、『ダークナイト』シリーズのクリストファー・ノーラン監督最新作『インターステラー』など見応え十分の秀作&快作が勢ぞろい!
『6才のボクが、大人になるまで。』
現実と虚構の線引きが限りなく曖昧な脚本が秀逸
6歳の少年メイソンと母、父、姉の12年間の変遷の物語を同じ主要キャスト(エラー・コルトレーン、パトリシア・アークエット、イーサン・ホーク、ローレライ・リンクレイター)で12年間にわたって撮り続けた新たな名作。『恋人までの距離(ディスタンス)』から『ビフォア・ミッドナイト』まで18年に及ぶシリーズで“時間の流れによって変化する男女の関係”を映し出したリチャード・リンクレイター監督が、それと並行して製作していたというから驚きだ。毎年夏にキャストを集めてそれぞれの実体験を反映させた脚本をその都度作り、撮影に臨んだというだけあって、現実とフィクションの線引きは限りなく曖昧。特別ドラマチックなことが起きるわけではないものの2時間45分という上映時間は長さを全く感じさせず、“今”が一瞬一瞬の積み重ねであるという事実に圧倒させられるという稀有(けう)な映画体験ができる。(編集部・市川遥)
映画『6才のボクが、大人になるまで。』は11月14日より公開
『紙の月』
まばゆいほどイノセントな犯罪者を演じた宮沢りえの好演が圧巻
原作は角田光代の同名小説で、かつて原田知世主演でドラマ化もされた本作は、平凡な主婦が引き起こした巨額横領事件という設定を聞くと、「一体何が彼女をそうさせたのか?」と写真週刊誌を読んでいるようなやじ馬的好奇心をかき立てられる。はたから見れば、欲求不満の主婦が年下の恋人に貢ぎ破滅していくありふれた事件かもしれないが、不思議と「哀れ」な印象がないのが映画版の面白さだ。その理由の一つが、先ごろ東京国際映画祭最優秀女優賞を受賞した宮沢りえの好演。「誰にお願いしようか考えている時に、宮沢りえさん演じる梨花が、僕には一番想像がつかなかった」と吉田大八監督が語っている通り、控えめな演技ながら随所でハッとするような複雑な表情を見せ、迷うことなく「堕(お)ちていく」梨花の予測不可能な心理をのぞきたい、という欲望を煽(あお)る。そして、もう一つは梨花が疾走する躍動感あふれるクライマックスだ。全てから解放され、どこへ向かうのでもなく走り続ける梨花の姿はまばゆいほどに「イノセント」であり、彼女の新たな物語の始まりを予感させるラストには恍惚(こうこつ)とさせられる。(編集部・石井百合子)
映画『紙の月』は11月15日より公開
『インターステラー』
人間が直面するであろう問題に映画の意義を感じる秀作
天災や食糧危機によって人間が生きづらくなるという、これから現実にも起こりうる問題を軸にしていることに映画の意義を感じる秀作。食物が育たなくなってしまった未来のない地球の表現は人間を苦しめる砂ぼこり一つとってもこまやかで、リアリティーを追求した名匠クリストファー・ノーラン監督のこだわりが詰まっていることは明らか。物語を組み立てている要素も家族愛や地球を救う使命というドラマチックなものから時空を超えるSFまで幅広く、一筋縄ではいかないことが大きな魅力。時には、シーンに合わせて観ている側の体にも重力が乗り移ってくる。この現象は場面を盛り上げる劇中音楽の効果が大きく、アカデミー賞常連のハンス・ジマーにはさすがのひと言しかない。絡むことが必至の賞レースで、どんな賞をいくつ取るのかにも期待したい。(編集部・小松芙未)
映画『インターステラー』は11月22日より公開
『日々ロック』
酔いどれトップアイドルにふんした二階堂ふみがハマリ役
2010年から週刊ヤングジャンプで連載中の人気コミックを、『SR サイタマノラッパー』の入江悠監督が映画化した本作は、金なし風呂なし彼女なしの究極のヘタレだがロックを愛する心だけは誰にも負けない青年が、ロックスターを目指す姿を描いた青春ドラマ。主人公たちはとにかくバカで、どうしようもないほどにダサい。だけど、バカなくらい何かに熱くなれることって最高にカッコイイ! と最後には思わずにいられない。脇役たちも皆強烈で、中でも誰もが憧れるトップアイドルでありながら、飲むと誰も手を付けられない破天荒キャラを演じた二階堂ふみはハマリ役。劇中では、デジタルサウンドに合わせてPerfume風に歌って踊る超絶キュートな姿も披露している。柴咲コウらと音楽ユニット「galaxias!」を組んだことでも知られるアーティスト・DECO*27らが提供した楽曲の良さも相まって、映画の中だけに収まるにはもったいない最強のアイドルが誕生した。(編集部・中山雄一朗)
映画『日々ロック』は11月22日より公開
『フューリー』
ブラピが『ファイト・クラブ』に連なる名キャラを好演
ブラッド・ピットが製作総指揮・主演を務めた戦争大作。第2次世界大戦末期「フューリー」(激怒)と名付けられたシャーマン戦車に搭乗する5人のアメリカ軍兵士の決死の戦いを、徹底したリアリズムで描き出す。実際に稼働するティーガー戦車を持ち出した戦車バトルは、それだけでも戦争映画の歴史に残すべき白眉の出来。『エンド・オブ・ウォッチ』をはじめとする過去作において、凄惨(せいさん)な描写で「暴力」の先にある「結果」を見せつけてきたデヴィッド・エアー監督の手腕はここでもさく裂しており、戦車内には吹き飛んだ兵士の顔面が張り付き、戦車につぶされた死体は泥と交じり合い地面に沈み込む。思わず目をそむけたくなる死体の描写が、ドラマよりも遥かに効果的に戦争のむなしさを叫び続け、極限状況における兵士たちの戦いをより過酷に演出してみせる。何より注目なのは、ブラピ演じるフューリー部隊のリーダー、ウォーダディー。「ナチはぶち殺す!」と『イングロリアス・バスターズ』と言っていることがほぼ一緒だが、問題児だらけの部隊を厳しくまとめ、若者を導き、時に優しさも垣間見せる男気あふれる兄貴キャラ! 『ファイト・クラブ』以来ともいえる名キャラクターとなっており、公開時には憧れる男子続出の予感。(編集部・入倉功一)
映画『フューリー』は11月28日より公開