日本初上陸!「ティム・バートンの世界」展を徹底解剖
今週のクローズアップ
日本初上陸となる美術展「ティム・バートンの世界」が現在開催中です(東京・森アーツセンターギャラリーで2015年1月4日まで、大阪・イベントラボで2015年2月27日~4月19日まで)。映画ファン必見の“かわいいけれど、ちょっと不気味”なティム・バートンの世界に迫った同展の見どころを大特集!(取材・文・構成:編集部 市川遥)
「Tim Burton展」と「ティム・バートンの世界」の違い
ティム・バートンの初の美術展といえば、2009年11月からニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された「Tim Burton展」です。バートンが映画監督として、また個人的に手掛けたプロジェクト約700点が初めて公開され、総来場者数80万人以上という同館史上3位の入場者数を記録するなど好評を博しました。その後「Tim Burton展」は世界5都市を巡回し、2014年3月からはプラハを皮切りに新たな展示会「ティム・バートンの世界」がスタート。今回の日本開催が同展のアジア初上陸となります。
展示数は「Tim Burton展」が約700点、「ティム・バートンの世界」が約500点と差があることについて、チーフキュレーターのジェニー・ヒー氏は「『Tim Burton展』はバートン監督の初の美術展ということで、人々の興味を引くために彼の“映画監督”としてのサンプルを多数展示する必要があった」と説明します。そのため、総展示数700点のうちバートン監督本人のものは550点にとどまり、残りの150点は映画など周辺素材、そして展示の方法も彼の作品を時系列で「初期」「ディズニー時代」「長編」という三つのセクションに分けて、というものでした。
一方、その成功を基に企画された今回の「ティム・バートンの世界」では、映画監督にとどまらないアーティストとしてのバートン監督の芸術活動をより深く掘り下げており、彼の作品をテーマ、モチーフ、プロジェクトごとのセクションに体系化。展示品はバートン監督本人の物のみで、ヒー氏が再びバートン監督のスタジオに行き新たな作品をチョイス。「Tim Burton展」では展示されなかった150点がお披露目となりました。コアなファンもより満足できる内容になっているといえるでしょう。ここからは10のセクションについてそれぞれご紹介します。
アラウンド・ザ・ワールド Around the World
撮影や映画祭、プロモーションツアーなどで世界を回る際、バートン監督は常にスケッチブックを持ち歩き、旅先で出会った人や場所を独自のイメージで捉えて記録しています。
スケッチブックがなくても、何かに描いてしまうバートン監督。このずらりと並んでいるのは何とナプキン! 彼にとっての創作とは自然発生的なものであることをうかがい知れるセクションです。
ホリデー Holidays
ハロウィーン、クリスマスなどの祝祭日は、映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)をはじめバートン監督の作品で頻繁に取り上げられるテーマです。地元カリフォルニア州バーバンクはバートン少年にとって退屈な場所でしたが、祝祭日だけは活気づき、そうした束の間の解放が彼に大きな影響を与えました。
そんな環境だったからこそ、祝祭日は素直な喜びの対象としてだけでなく、皮肉を込めた表現としてバートン監督のプロジェクトに登場することに。右下の無題「オイスター・ボーイの憂鬱な死」(「あさはかにも、サンタはジェームズにテディベアをプレゼントしてしまった。その年、ジェームズが熊にかまれたことも知らないで」)などそうした特徴を如実に捉えた作品が展示されています。
カーニヴァレスク The Carnivalesque
滑稽さとグロテスクさが共存している「カーニヴァレスク(カーニヴァル風)」のテーマは、バートン監督作品ならではのもの。『ビートルジュース』(1988)、『バットマン』(1989)から『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)、『ダーク・シャドウ』(2012)まで多くの映画作品に見られるこのテーマをひもとくセクションです。
実現しなかったプロジェクト Unrealized projects
バートン監督が頭の中で作り上げながら、最終的に絵本、映画、テレビ作品にならなかったプロジェクトはたくさんあります。
ウォルトとロイのディズニー兄弟によって創設されたカリフォルニア芸術大学(通称:カルアーツ)でキャラクターアニメーションを学んだバートン監督は、短編映画『Stalk of the Celery Monster』(1979)を認められて、1979年から1985年までディズニーでアニメーターとして働きました。アニメ映画『コルドロン』(1985)の製作に参加し、同作のために何百もの絵を描きましたが、どれ一つとして採用されませんでした。チーフキュレーターのジェニー・ヒー氏は「ディズニーの作品にしては絵柄が『気味悪すぎる』として不採用になりました。当時ディズニーが作っていた『きつねと猟犬』(1981)などのトーンとティムの絵が合わないと思われてしまったんです」と笑います。
「トリック・オア・トリート」のスケッチもディズニーのために描いたものですが、これも製作されず。ディズニー時代のボツ作品には、後に製作されることになる『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)のジャック・スケリントンや『シザーハンズ』(1990)のエドワード・シザーハンズの面影を見ることができ、彼が否定されても独自のスタイルを貫いたことが確認できます。
フィルム・キャラクター Film Characters
『ピーウィーの大冒険』(1985)から『フランケンウィニー』(2012)まで全ての長編映画に関係する作品を展示。スケッチに加え、絵画やビデオ、台本のメモ、ストーリーボード、パペット、模型まで、映画のキャラクターたちがスクリーンに登場するまでの過程が紹介されています。
書斎 Reading Room
バートン監督は映画の完成を記念する贈り物として、毎回キャストとクルーを載せた特別な本(キャスト&クルー・ブック)を作り、関係者だけに配っています。『ビッグ・フィッシュ』(2003)、『チャーリーとチョコレート工場』(2005)、『ダーク・シャドウ』(2012)などのキャスト&クルー・ブックがデジタルで鑑賞できます。
影響を受けた人 Influences
本展に出品された中で最も初期の作品が含まれているセクション。バートン監督が誰に、そしてどんな作品に影響を受けたのか、そのルーツに迫っています。
バートン監督がディズニーに手紙付きで売り込んだ絵本。ディズニーからの返答には「Dr.スースっぽすぎる」とありました。確かに!
プロになりたてのころのバートン監督が、ディズニー黎明(れいめい)期を支えた伝説的なアニメーター集団「ナイン・オールドメン」風に描いた珍しいスケッチ。
日本の怪獣映画『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966)やガメラの絵も! そのほか、ストップモーション・アニメーションの巨匠レイ・ハリーハウゼン、ユニバーサルのホラー映画シリーズ、大御所俳優ヴィンセント・プライス、ジョルジュ・メリエス監督の『月世界旅行』(1902)などからの影響が感じられる作品、そしてカルアーツの授業ノートやデッサン、アマチュア時代に撮ったスーパー8や16ミリフィルムの作品も紹介されています。
フィギュア:男?女?生物? Figurative Works: Men, Women or Creatures?
有名人や家族、そしてたまたま出会った人々をデフォルメして表現した作品を取り上げているのがこのセクションです。バートン監督の深層心理やプライベートな思考が反映された、最も個人的な作品群といえます。
ポラロイド Polaroids
1992年から1999年にかけて、20×24インチの大判インスタントカメラを使って制作されたのが、この特大のポラロイド写真シリーズです。監督業の息抜きとして撮影されました。
誤解されがちなアウトサイダー The Misunderstood Outcasts
『フランケンウィニー』(1984)、『シザーハンズ』(1990)、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)、『ティム・バートンのコープスブライド』(2005)、『ダーク・シャドウ』(2012)といった映画、そして「オイスター・ボーイの憂鬱な死」などの本に至るまで一貫して見られるテーマを扱ったセクションです。良い意図があるのにもかかわらず惨憺(さんたん)たる結果を招いてしまう者たちが、創造力を使って世間に立ち向かおうとするさまは、バートン監督の自伝的な要素といえるでしょう。
2009年のMoMAでの展覧会の際に制作された新しいアウトサイダーである7メートルのバルーンボーイは、入り口のところで来場者を出迎えています。バルーンボーイは、病院で行われた子どもの誕生パーティーで余った風船を縫い合わせて作られた存在。ほかの子と遊ぶことは許されず地下室のねぐらに押し込まれているけれど、いつか少年と風船の交流を描いた映画『赤い風船』(1956)のように街の上を飛んで小さな子どもたちに喜びを届けたいと思っているんだそうです。
最後は、来日した際にバートン監督が直接壁に描いたバルーンボーイがお見送りです。
「ティム・バートンの世界」はアーティストとしてのバートン監督の神髄に、ワクワクするイラストと共に触れることのできるまたとない機会となっています。
This exhibition is organized by Jenny He, Independent Curator, in collaboration with Tim Burton Productions
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