第2回:ルーク・エヴァンス(バルド役)
『ホビット 決戦のゆくえ』ロングインタビュー
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの60年前を描いた『ホビット』シリーズ。ピーター・ジャクソン監督が2001年の『ロード・オブ・ザ・リング』から13年にわたって描いてきた“中つ国”における冒険も、本作をもって完結します。ホビットファンの皆さんへ、記念すべき完結編『ホビット 決戦のゆくえ』の公開を前にメインキャスト6名のロングインタビューをお届けします。公開まで奇数日更新です!
第2回:ルーク・エヴァンス(バルド役)
誰もがバルドであり得る
Q:3部ではいよいよ邪竜スマウグとの対決です。また、バルドは王として人々を率いるようにもなります。それまでのしがない暮らしのバルドと、もともとバルドに流れる領主の血、王として戦うバルドと、短い期間でのバルドの変化をどのように演じたのですか?
誰もがバルドであり得ると思うんだ。平凡な男として演じるように努めた。いや、平凡というよりは、負け犬、ギリギリのところで生きている者として見てほしかった。彼は、支配する権利をいや応なく与えられたが、自分が選ばれしリーダーであるかどうかを自分自身に証明したかったんだ。
アメリカ同時多発テロ事件のあの日、大勢の人の命を救ったある男性についてのドキュメンタリーを観た。彼は消防士で、何人もの人の命を救ったが、自ら名乗り出ることはなかったから、彼が誰なのかを知る者はいなかった。ところがようやく彼のことを突き止めることができたということだった。あの日、彼の頭の中には何か思いがあって、彼は自分を捨てて自分でも想像できないようなことをやったのだと思う。まだ火の粉が舞うビルに戻り、今にも崩壊するということがわかっていながら、自分自身ではなく、自分以外の他の人々を助けようとした。
ある意味、僕はバルドのことをそのように見ているんだ。彼は何もヒーローになりたいわけではない。王になることや、自分の先祖について語ることにすらそれほど関心はない。「わたしの先祖は谷間の国の王の一人だった」などと言うような人間にはなれないんだよ。自分のために戦い、家族の面倒を見ようとするというのが彼の人となりだ。
ところが、彼の子供たちのことだけでなくそれ以上のことを考えなければならない必要に迫られ、湖の町の全ての住民の視線が痛いほどだった。とても人間的な感情であり、人間的な旅路なんだよ。自己発見の旅でもある。彼は「よし、それではわたしは何をしたら良いのだろう。わたしにそれをやってほしいのだな? 他にやる者はいないし、やらないわけにはいかない」と思うんだ。自分のためでなく、彼以外にそれを成し遂げることができる者はいないから、そうしたのだろう。だからこそ、逃げるのではなく居残り、まず子供たちのために戦う。その次に湖の町の人々のためにだ。ただそれは彼が自分を認めてほしいからとか、褒めたたえてほしいからとか、王の座が欲しいからなどではないんだ。彼の本能がそうさせている。
ファンタジー映画の魅力
Q:ここまで大きな映画シリーズに参加されたことについてはいかがですか?
素晴らしかった。素晴らしい俳優のグループに参加してほしいと言われたこと、それからまた原作のキャラクターに息を吹き込むというのはこれまでも何回かやったことはあったが、光栄だったよ。バルドというキャラクターに肉付けしていったのは、とてもマジカルな体験だった。これから何年も先、ずっと、バルドを見て僕の顔、僕が演じたキャラクターを思い浮かべてもらえることになるということだ。責任を感じるし、また誇らしく思う。夢のようだよ。
Q:以前からJ・R・R・トールキンのファンだったのですか?
「ホビットの冒険」は読んでいたよ。「指輪物語」は読もうとしたけど、最後まではいかなかった。それでも映画は大好きだよ。そして原作が世界中の人を魅了したという点が素晴らしいと思う。また、コミコンのようなイベントに行くと、何百人、何千人とファンが居て、彼らが思い思いのトールキンのキャラクターのコスプレをしているんだ。彼が世界に与えた衝撃というのはすごいものだよ。それは素晴らしいと思うし、そのようなプロジェクトに参加できてうれしいね。
Q:ファンタジーの世界で展開する映画にこれまで何度か出演なさっていますが、どういうところが魅力なのでしょうか?
うーん、どうだろうね。そういう映画はとても楽しいんだ。実際に存在するわけではないから、ファンタジーの世界に飛び込んでいける権利が与えられたら楽しいものさ。そして『ホビット』のような映画では、中つ国やその背景、キャラクターについて読むことができる資料がたくさんあり、キャラクターたちがいかに絡み合い、お互いに影響を与えるかというのが面白い。
剣を持って、馬に乗って、ドラゴンを倒す……。この世のものではない衣装を着てそれを演じるというのは特別なことだし、最高だね。心底楽しかった。それでも、よろいを着た戦士役や、動物の毛皮を着た川下りの男役をあえて求めているわけではない。そのキャラクターが存在するのはどの世界なのかなどについては考えないようにしなければならない。そのキャラクターが語ろうとしているストーリーについて考え、それが自分の語りたいストーリーなのかどうかについて集中しなければならない。そして自分がそのキャラクターに最も尊敬できるやり方で息を吹き込むことができるかどうかということが重要なんだ。
バルドに関しては、彼に成り切ったと思うんだ。彼のパーソナリティーの多くを体現したつもりだ。バルドのことをとてもよく理解できると感じるね。そしてまた、(出身地である)ウェールズなまりでこの役柄を演じることができたのも、彼を描写するにあたってとても個人的な体験になったんだ(笑)。
Q:『ドラキュラZERO』、本作と2か月余りの間に出演なさった大作2作が公開されますね。
タイミングは少し奇妙だよね。選択肢があったなら、そのうちの1作はもう少し後の公開だったら良かったと思うよ。それでもその2作の公開がとても近いというのはエキサイティングだ。人々には僕の存在が新鮮だと思うし、ヴラド・ツェペシュ、ドラキュラという有名なバンパイアとして覚えてもらえるだろう。しかし、本作ではもう一つの有名な物語とは全く異なる、人間的でヒーロー的キャラクターなんだ。
多かったのはマーティン&リー・ペイスと面と向かうシーン
Q:第3部ではスランドゥイル、ビルボ、トーリンとの絡みも出てきますよね?
バルドは人間の軍のリーダーにならざるを得なかったから、人々の代表として代弁する立場になった。そんな人物になりたかったわけではないんだけど、人々を導いていかざるを得ない。だからかなり早い段階で人々と付き合っていかなければならなかった。これは演じがいのある役柄だったよ。弓矢を使う自分が、使いもしない剣も掲げて、それを成し遂げなければならなかったんだ。彼の先祖から代々伝わる武器をもって、彼がヒーローになっていく姿を目の当たりにするという展開だ。
Q:リー・ペイス、マーティン・フリーマン、リチャード・アーミティッジとの共演はいかがでしたか?
素晴らしかったよ。リチャードよりも、マーティンとリーと面と向かって演技をするシーンが多かったんだ。なぜそうだったのかはわからないけどね。リチャードと一緒のシーンの多くは、大勢のドワーフもみんな出る大きなシーンだったから、スケールによる撮影やモーションキャプチャーといったものを使ったんだ。僕をある部屋に入れてやったんだが、だんだんそれが孤独でつまらないものになっていった。というのも、僕は別の部屋で楽しそうに撮影している様子を音で聞くだけだったのだから。
でもマーティンとはよく一緒に演技をすることができた。僕の位置を少し高くして、古典的な『ロード・オブ・ザ・リング』のテクニックを用いて演じたよ。リーは実際にとても背が高いから、そういうのはあまり問題にはならなかった(笑)。彼はどんなときもいつも僕より背が高いからね。
Q:ガンダルフ役のイアン・マッケランとの共演はいかがでしたか?
最高だった。イアン・マッケランと会うことができただけで光栄だ。彼はとてもいい人なんだ。それでも、彼の演じたキャラクターの中でも特に有名なガンダルフのいでたちのイアン・マッケランに会い、自分も衣装を着てその相手をするというのは最高の体験だよ。これは一生忘れないだろう。素晴らしい1日だったね。谷間の国のシーンで、人間のリーダーを捜して彼がやって来る。そうやって僕のキャラクターと出会うんだ。そのことははっきりと覚えているよ。エキサイティングで、生涯忘れられない体験になった。
Q:タイトルも『The Battle of the Five Armies(五軍の合戦)』に変更になったぐらいですが、アクションシーンは大変でしたか?
とても大変だったよ。戦いの場面の撮影はいつも難しい。本作は特にそうで、スタントマンと一緒に戦いのシーンを学んで、現場でいざ撮影となったとき、そこにあるのは人造のオークの頭だったから「どれ? どこを見るの?」と聞いてばかりだった。どれが2番目、3番目、4番目というのがわからなかった。番号は重要だったんだけど、突然それらが皆同じに見えるわけだ。それぞれが微妙に違うんだけど、難しかった。それらが60体も一斉に追い掛けてきたら、まずかなり怖いし、それからまた「うわー」と圧倒されるんだ。
効果音に合わせて、正しいオークを刺し、正しいオークを殺し、首撃ちにしなければならなかった。とても激しく、あるシーンでは鼻にけがをしてしまったよ。とてもリアルで、フェイクなことは全くない。目に刺さったりしませんようにと祈るしかなかった。でもそれによってさらに素晴らしい作品になったんだ。そのようなシーンでは、悲劇を直視することになる。戦士として訓練を受けたわけでもない湖の町の人々が、オノや海から魚を引き上げる道具などを手にし、武器とする。彼らは武器なんて持っていなかったからね。そんな悲劇のシーンがあるんだ。
僕のキャリアの可能性を広げてくれた作品
Q:ピーター・ジャクソン監督はいろんなバージョンのテイクを撮るんですよね。彼の演出はいかがでしたか?
いつもそうだったよ。ピーターは監督業がとても好きで、全ての工程に関与したいと思っている。役者のルックスから、セリフや動き、戦いに至るまで全てだ。そしてものによっては、はっきりした意見を持っている。「ここで、大きく転んでみてはどうだろう?」などと言えば、スタントマンは「やれやれ、またか」と言うんだ。「また変えないといけない」とね。
それでも誰もがいつでも準備万端だ。というのも、ピーターがセットで何か変更したいことがあれば、変えなければならない。脚本を変えなければならない場合は、フラン(・ウォルシュ)とフィリッパ(・ボウエン)が変え、それがセットに届けられるんだ。それがウェリントンのいいところだ。小さな街だから、フランとフィリッパは自宅に戻って書き、それがプリンターで印刷され、それを使って撮影が続けられる。とても自然なプロセスなんだ。
そういう仕事の仕方が僕は好きだね。その場で衝動的に変えたり、予定していなかったことをやってみたり、というやり方が以前からずっと好きだったんだ。僕のキャラクターに関しては、彼は人間だから、できることはたくさんあった。人間のルールにさえ当てはめればよかったからね。それ以外のことは何も気にする必要はなかった。それによって自由になったし、さまざまなことを試してみることができた。
Q:大きなスクリーンで6作通してご覧になりますか?
きっと日曜日、雨の日曜日にそうすることになるよ(笑)。他にやることが何もない日に、ポップコーンを用意し、掛け布団にくるまって、そうするだろう。最初から最後まで通しで観よう。
Q:最初から最後までスムーズな物語だと思われますか?
そうなると思うよ。ピーターが全てのメガホンを取ったということによって一貫性があると思うんだ。もちろん、最初の3作(『ホビット』3部作)は3Dだが、3作目の後には眼鏡を外さなくてはならない。ピーターが6作全て監督することは良かったと思う。時系列通りでなかったとしてもね。彼自身が始めたことを終わらせるというのは正しいと思う。いや、終わったものを始めるというか(笑)。
Q:全てのプロセスを振り返ってみて、最も誇らしく思われるのはどんなことですか?
この役を獲得したことかな。その時点で最高の達成感があった。僕はそれほど経歴が長いわけではなく、ここわずか3、4年、映画に出演してきただけ。いや、映画に出るようになってからまだ6年ほどだ。だからこそ、そもそもこの役を手に入れたというのはそれだけで素晴らしいことだったんだ。ニュージーランドに着くまでその実感は湧かなかったね。「さあ、着いたぞ。そしてこれが自分が演じる役柄だ」ととても誇りに思ったんだ。
Q:伝説的なファンタジーの実写化に参加するというのはなかなかない経験だと思うのですが、バルド役はあなたの俳優人生にどういう影響を与えたのでしょうか。
良い影響を与えたと思う。それだけ長い期間ずっと、他の人々と一緒に仕事をし、あそこまで息の長い作品のキャラクターでいられたのはとても良い経験になった。続編でまた同じキャラクターを演じるということでもない限り、こういうことはめったにあるわけではない。大概は1度そのキャラクターを演じ、その後、次へと進んでいくわけだけど、本作は18か月間もの間、ずっと衣装を身にまとい、そのキャラクターを演じた後、また撮り直しのために戻るというもので、不思議な体験だったね。撮り直しをやったときも、そのキャラクターにあまりにもすんなり入っていけたのはとても興味深かったよ。
Q:『ホビット』シリーズはあなたにとってどのような位置付けの作品になりますか?
かなり上に近いところだ。『ドラキュラZERO』とトップの座を分かち合うことになるかもしれないな。それはともかく、本作は僕のキャリアの可能性を広げてくれた作品だった。多くの人々が僕のことをバルドとして見てくれる。
(取材・文・構成:編集部・市川遥)
『ホビット 決戦のゆくえ』ロングインタビュー バックナンバー
映画『ホビット 決戦のゆくえ』 は12月13日より全国公開
映画『ホビット 決戦のゆくえ』公式サイト
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