第3回:リチャード・アーミティッジ(トーリン・オーケンシールド役)
『ホビット 決戦のゆくえ』ロングインタビュー
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの60年前を描いた『ホビット』シリーズ。ピーター・ジャクソン監督が2001年の『ロード・オブ・ザ・リング』から13年にわたって描いてきた“中つ国”における冒険も、本作をもって完結します。ホビットファンの皆さんへ、記念すべき完結編『ホビット 決戦のゆくえ』の公開を前にメインキャスト6名のロングインタビューをお届けします。公開まで奇数日更新です!
第3回:リチャード・アーミティッジ(トーリン・オーケンシールド役)
心理的にも肉体的にも素晴らしいフィナーレ
Q:まもなく完結編の公開ですね。今のお気持ちは?
とても楽しみだよ。本作には楽しみな要素がたくさんあり、特に自分のキャラクターにとってどれだけ盛りだくさんだったかということを僕自身も忘れていたぐらいだ。本作で僕のキャラクターのたどる旅路というのは、役者にとっては贈り物というべきうれしいものだった。心理的な変化もあるし、肉体的にも素晴らしいフィナーレとなった。
Q:当初オファーを受けたときは「大男なのにドワーフ役?」と当惑したとおっしゃっていましたね。
そうだね。ピーター(・ジャクソン監督)のビジョンというのは、当初、理解するのに少し時間がかかったんだけど、9月に本作の最後の30分を観て、僕やそれ以外のドワーフ役がなぜ選ばれたのか合点がいったんだ。僕たちは、いわゆるピークに達した男たちだから、かなり大規模な戦いのシーンでも耐えられるというわけだ。それを見せてもらって納得がいったよ。とても興奮したね。
また、ネタバレにならない程度に言うけど、本作の冒頭に素晴らしい瞬間があるんだ。(J・R・R・)トールキンは偉大な作家だから、物語のクライマックスがある出来事の周辺でやって来ると思わせる。早い段階でそれを示唆し、それ以降、展開していく。そのようなトールキンがやったことを、ピーターは見事に取り入れているというのが3作目で素晴らしいと思うことなんだ。内容はかなり重い。五軍が一つになるとき、戦が宣言される。かなりシリアスになっていくんだ。
Q:ピーター・ジャクソン監督はいろんなバージョンのテイクを撮るんですよね?
ピーターは何テイクも追求していき、最終的に得られたものは、役者の疲労感という彼が求めていたことだった。特に旅路のこの段階ではね。彼は何もスーパーヒーローを求めているわけではなく、気骨のある戦士が必要だったんだ。彼は、我慢の限界に達した状態で戦場に居るというのがどんなことなのかわかっていると思うんだ。彼はそういう状態に役者を、少なくとも僕の演じるキャラクターを追い込み、生き延びるために本当に必死にさせた。
Q:『ホビット』2作に出演された後の、あなたのファンというのはどんな感じなのでしょうか?
彼らは驚くほどのディテールにこだわっている。衣装を作ることができる期間が3年近くあったからね。公開日が先になればなるほど、それだけ準備期間が長くなるから、彼らは入念に衣装を準備し、僕たちがやったのと同じ特殊メイクをしてキャラクターそっくりの姿で登場するんだ。かなりすごいよ。
Q:剣やよろいなどの贈り物を受け取ったりしますか?
僕の方が贈り物をするよ。ギフトとして手紙を開けるための小さなペンナイフをたくさん持っているんだ。クリスマスに僕からもらえるのは、そういうものさ。
僕もきっとトーリンと同じことを言うだろう
Q:わたしにとってのトーリンの魅力は、仲間思いで誇り高い人物でありながら、黄金に取りつかれてしまうところです。第2部でもトーリンの複雑さをとてもうまく表現されていましたが、第3部では執着の度合いも高まります。高潔な部分と、あらがえない金への執着という部分でどのようにバランスを取ったのですか?
それは僕が人として感じるところに限りなく近いものだ。正しいことをやろうと努めており、そうしてきたつもりではある。人を思いやり、理解するというのは、僕の仕事の一部だからね。ただ、同時に何かに駆り立てられ、利己的になってしまうことがある。不思議なもので、演じるというのはそういうものだったりする。僕たちが追い掛けているものは、それが何であっても、手に入れにくいものだったりするし、えり好みされたりするものだ。トーリンの場合は、少なくとも形があるものがその対象で、それを思いがけず手に入れたとき、達成することができないと思っていたことを達成したと感じた。だから3作目を通してそれに固執するというのが、彼の世界の核となるんだ。
個人的に興味深いと感じたのは、1作目、2作目での彼に対する印象というのは、白黒はっきりしていたということだ。微妙なニュアンスを観客が垣間見ることもあったが、ほとんどの場合、彼は白黒はっきりしている人物だった。それが3作目で、大きく崩れるというのを期待している。3作目の彼は白黒はっきりしているわけではないのは確かだ。矛盾しているんだ。彼は精神異常で、理不尽な精神状態にかなり速いスピードで落ちていく。
そこで僕たちがやろうとしたのは、感情の不一致ということだった。映画では普通、一貫性を追求するものだが、あえて矛盾を求めたんだ。彼がヒーローに見えたかと思えば、次の瞬間それが崩れたりする。だから彼に何が起こるかというのは面白いんだ。それは理屈に合わない反応であり、孤立した心がビルボ(マーティン・フリーマン)と金だけに集中しているというものだ。
Q:そうしたトーリンを演じるのは楽しかったですか?
そうだね。最も楽しかったことの一つというのは、ドラゴンのスマウグがいかにトーリンに入り込んでいくかということだった。彼の内面に入っていき、まるで彼自身がドラゴンになってしまったかのようだった。
彼のことを、強欲な人間だと思ったことはなかった。彼はそうではないと思うんだ。彼が金を欲しがったのは金銭的な価値ということではなく、それが象徴するものを手に入れたかったからのはずだ。それが象徴するものというのは、エレボール(かつてドワーフの王国があった山)がその昔象徴し、その後失った荘厳さだった。彼は山から追放され、彼の人々はひどい仕打ちを受け、彼らが難民となったとき、助けようとする者は誰もいなかった。
というわけで、集められた富というのは、彼らに背を向けた全ての人々に対する復讐(ふくしゅう)という意味合いがあった。彼のとりでにやって来て、その富の一部を求められたとき、彼は門のところに立ちはだかり、「われわれが助けを必要としていたとき、おまえたちはどこに居たというのだ?」と言う。「帰れ。扉に鍵を掛ける」と告げる。僕はきっと同じことを言うだろうと思う自分が居るんだ。1度かまれたら用心深くなる、ということわざの通りにね。僕も彼がそのときに抱いた感情と同様、頑固で、怒りをあらわにするところがあるから。
ビルボとトーリンがこれほど親密になるとは思わなかった
Q:マーティンとの共演はいかがでしたか? 3作目では、彼のキャラクターとの絡みが多くなりますよね。
興味深いものだった。二人の関係がいかに親密なものになるのかというのは、脚本を読んだときにはお互い気付かなかったことだった。僕たちが築き上げようとしていたのは、“ビルボのトーリンに対する裏切り”だった。トールキンはトーリンにビルボを城壁から放り出させようとした。その瞬間に向けてずっと築き上げてきた関係だったんだ。メロドラマチックになるわけではないけど、彼が本当にホビットを放り投げるだろうというのがリアルに感じられなければならなかった。それは文字通り、そして隠喩的にもね。共演は楽しかったよ。マーティンは喜劇俳優で、人に好かれる性格だから、そんな彼がビルボを演じ、僕のキャラクターを追い込むというのは興味深いものがあった。
Q:シリーズ全作に登場するガンダルフ役のイアン・マッケランとの共演はいかがでしたか?
まるでロックヒーローに会うようなものだった。イアンとの最初のシーンのことは今でも覚えているよ。感銘を受け、ガンダルフと同じ部屋に居るというのがうれしくてドキドキした。そして2作目の冒頭の素晴らしいプロローグがあった。これは僕がそのセットで撮った最後のシーンだった。2日間、馬に乗ってイアンとのシーンを撮ったんだ。3作目でのガンダルフの旅路というのもとても興味深いものだ。それによって物語が完結し、最後の瞬間にまたさらに先へと進んでいく。そういったシーン全てを距離を取って演じたんだ。城壁の向こう側からね。ガンダルフのシーンが楽しみだよ。
Q:撮影最終日のことを覚えていますか?
撮影が終わり、カットと言われた瞬間のことは覚えている。とてもエモーショナルだった。肉体的にもヘトヘトで、感情的には最高の高揚感があった瞬間だった。(脚本の)フィリッパ(・ボウエン)とフラン(・ウォルシュ)が現場にいて、最後のカットを見ていた。その後やって来てハグしてくれた。僕がいかに全てを懸けて演じていたかを知っているからね。最後にはギフトをもらった。金と剣、オーケンシールド、地図、鍵などをね。そういえば、ひげをくすねてきたよ(笑)。着けたまま帰ったんだ。
Q:異国の地での長い撮影になりました。振り返ってみて一番印象に残っていることは何ですか?
不思議なもので、最も印象に残っているのは朝4時半に集合することだった。全ての季節を通して、さまざまな天候の中、海岸沿いを自分で運転してスタジオに通っていたんだ。まだ暗いうちから運転して、スタジオに到着するまでの道のり、それが自分にとって考える時間だったんだ。日が昇るころ、とても特別な30分間があって、自分一人っきりで仕事に向かっている。それを何度も繰り返してやったという思い出があるよ。
次に行くべきところがまだわからない
Q:今だから言える話ってありますか?
言えない話なら山ほどあるよ。僕たちはニュージーランドに着いてすぐにトレーニングを始めたんだが、みんな一緒にやったんだ。まだ『ホビット』が2部作の予定だったとき、最後にある五軍の合戦が18か月の撮影の最後にあることになっていたからね。ところが、ピーターから3部作になるということを聞いたとき、それから1年後にまた戻ってきてその戦いのシーンの撮影をすることになると悟ったんだ。というわけで、五軍の合戦のシーンは取り残したシーンの撮影をやる際に撮った。つまり、最初に始めたトレーニングを、9か月も後にまた戻ってきて撮影するまでの長い期間ずっと維持しなければならなかったんだ。
そしていよいよそのシーンの撮影というとき、未知の部分がかなりあった。走り始めるまでどれだけ走らなければならないか教えてもらえないマラソンのため、トレーニングするようなものだった。「よし、自分で可能な限り鍛えなければ」と思ってトレーニングし始め、20マイルまで行ったところで、「すまないが、あと60マイル走ってもらわなければならない」と言われるようなものだ。なかなか難しいものがあったよ。彼が戦いのシーンで僕たちに課したのはそういうことだった。3週間も戦いのシーンの撮影があったんだ。
Q:撮影終盤ではドワーフの重い衣装、特殊メイクにも慣れましたか?
それなしではこのキャラクターを演じられないくらいになっていたね。暑くて汗ばみ、着心地は悪かったけど、なくてはならなかった。キャラクターの重さを表現するのに、衣装の重さ、物理的な大きさ、あの眉毛と鼻が必要だった。全てがなくてはならないもので、衣装やメイクアップなしにセットに行くのが難しいと感じた。そうすることが時には必要だったんだが、それらなしにはあのキャラクターには成り切れなかった。欠かせないものとなったんだ。
Q:シリーズ通してお気に入りのシーンは?
うわ、それは……お気に入りのシーンはみんな第3部にあるね。ちらっと観ただけなんだけど、気に入っているシーンが一つあって……いや、二つある。一つ目のシーンについては、話すわけにはいかないんだが、もう一つのシーンは、トーリンとビルボが意外にもとても親密だというものだ。トーリンがビルボ以外の全ての人に裏切られたと思っているというシーンなんだ。ビルボのポケットの中にはアーケン石(トーリンが何よりも欲している先祖の宝)があるんだが、これはスクリーンで観るのが楽しみなシーンだね。というのも、とても危険でありながら、静寂でダークな中、二つの顔が浮かび、お互いを見つめているというものなんだ。圧倒されるシーンになるはずだよ。
Q:『ホビット』シリーズはあなたにとってどのような位置付けの作品になりますか?
ど真ん中だね。『ホビット』の途中で40歳の誕生日を迎えたんだが、人生の真ん中に来たといえる。また、自分のキャリアの中間地点であるとも感じられる。トーリンでその地点までやって来たと思う。自分にとってのエレボール(ドワーフの故郷、彼らの旅の目的地)を獲得したと感じるね。そして今、次に何があるのかに目を向けると、門に数多くの兵士がいるのが見える。さて、次はどこに行ったらいいかな。次に行くべきところがまだわからないんだ。
Q:多くのファンが来日を待っていたのですがかなわなかったので……日本のファンにメッセージをお願いします。
とても残念だよ。なぜ日本に行けないんだろう? 行くことができたらどんなにいいだろう。1作目のプレスツアーで日本に行ったし、シェイクスピア劇「マクベス」を東京に持っていった。だから行くことができたら良かったのにと心から思うよ。皆さんに3作目を楽しんでもらえますように。東京に行けないのは本当に残念だ。
(取材・文・構成:編集部・市川遥)
『ホビット 決戦のゆくえ』ロングインタビュー バックナンバー
第1回:イアン・マッケラン(ガンダルフ役)
第2回:ルーク・エヴァンス(バルド役)
映画『ホビット 決戦のゆくえ』 は12月13日より全国公開
映画『ホビット 決戦のゆくえ』公式サイト
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