第5回:オーランド・ブルーム(レゴラス役)
『ホビット 決戦のゆくえ』ロングインタビュー
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの60年前を描いた『ホビット』シリーズ。ピーター・ジャクソン監督が2001年の『ロード・オブ・ザ・リング』から13年にわたって描いてきた“中つ国”における冒険も、本作をもって完結します。ホビットファンの皆さんへ、記念すべき完結編『ホビット 決戦のゆくえ』の公開を前にメインキャスト6名のロングインタビューをお届けします。公開まで奇数日更新です!
第5回:オーランド・ブルーム(レゴラス役)
13年はあっという間だった
Q:2001年の『ロード・オブ・ザ・リング』に始まり本作まで13年にわたってレゴラスとしてきた旅を振り返っていかがですか? 長かったですか? それともあっという間でしたか?
良い質問だね。実はその両方なんだ。ある意味、あっという間だったという感じはある。その間は僕にとってとても忙しい時期だったから。そしてその一方で、どれだけ長い年月がたったのか振り返り、その間にどれだけのことを成し遂げることができたかを考えると「うわー」と思うよ。全てにとても感謝している。またニュージーランドに戻り、こんな体験ができてうれしい限りだ。ニュージーランドというのは僕に大きな影響を与えてくれた国だからね。演劇学校を卒業してからの2年間をニュージーランドで過ごしたということは、僕にとっては大きなことだった。そしてキャスト、監督と仕事をする機会を与えられたというのは、僕に大きな影響を与えたよ。
Q:このシリーズを通して、最も記憶に残っていることは?
それは撮影初日のことだ。恐らく僕にとって最も印象深い1日だった。まず僕は間違った衣装を着ていたんだ(笑)。その日着るはずの衣装ではないものを着ていた。セットに行く2時間前ぐらいに着用したんだけど、あれは恥ずかしかったね。「うーん、それではあまりうまくいかないだろう」という感じで、現場にいた誰もがすぐに解決しなければならないのを悟っていた。でも撮影を始める前にそうする時間はなかった。エルフ語のセリフを言うことになっていて、しかもそれが僕の映画撮影での演技初体験だったんだ。
というわけで、何もかもが初めてだったから、それが最も記憶に残っている思い出だね。まるで断崖絶壁から飛び込もうとする瞬間のようだった。理想的ではなかったかもしれないけど、同時にとても素晴らしい体験だった。裂け谷の家でのハルディア(クレイグ・パーカー)とのシーンで、エクステンデッドバージョンには残ったシーンだよ。
Q:13年で映画界も随分変わったのではないでしょうか? 何か実感としてありますか?
そうだね。中身が変わった。スタジオは規模の大きい、大勢の人々を動員するような映画を作っていて、そういう目的から3Dは今では標準になりつつある。一方で、興味深く、クールな、多くの人を惹(ひ)き付けるインディペンデント映画はなかなか動員数に結び付かなかったりする。より製作するのが難しく、より売り込むのが難しく、そして観客に観てもらうのがなかなか難しくなっているんだ。音楽業界と同じで、映画業界も大変革の真っただ中にいる。将来的に映画はどのようなところで配給されるようになるのだろうか? オンラインのストリーミングなのか? といったさまざまな未知の要素がある。僕は技術的に詳しいわけではないけど、ある種の映画が作られるのがより難しくなっているということは意識している。今まで以上にそんなふうに感じるよ。
レゴラスの不機嫌で頑固な一面
Q:レゴラスは『ホビット』シリーズの原作には登場しません。再びレゴラス役でシリーズに戻りたいと思うか、不安にはなりませんでしたか?
(脚本の)ピーター(・ジャクソン監督)とフラン(・ウォルシュ)に唯一確認したかったのは……まあそんな会話は一度しかしなかったんだけどね。戻ってその役柄をまた演じることが、僕に機会をもたらしてくれるものであるということは疑いの余地がなかったから。ピーターにも「僕が戻る必要が出てきたら、遠慮なく連絡してほしい」と言っていたんだ。だからそれは難しいことではなかった。というのも僕たちは常に連絡を取り合っていたから。
彼に最終的に連絡をもらったとき、「レゴラスがこの映画の一部であるべきだと考えているんだが、興味あるかい?」と言われた。それが実現しそうになった段階というのは、ピーターが確実にメガホンを取るということが決まったときだったんだけど、唯一知りたかったのは、そのキャラクターがたどる旅路というのはどのようなものなのか、どんなアイデアなのか、そしてどうやってそれが展開していくのかということだった。ファンはそれに共感してくれたわけだけど、物語の神髄に忠実なものであるか、ということが大事で、彼の物語に気を取られてしまうような道のりであってはならない。
ピーターはそれをどのように見せていくかということについて、とても効果的な方法を考えていた。レゴラスと共に、彼の視点でエルフを捉えるというわけだ。闇の森のエルフは賢明さという点で劣っており、より危険だと(J・R・R・)トールキンは書いているけど、これは本当だと思うね。それこそが『ホビット』で見られるエルフなんだよ。
後に『ロード・オブ・ザ・リング』ではレゴラスが変わっていき、まるで高尚な目的があるかのようだけど、それは『ホビット』で彼が経験したこと、それまでの経緯に基づいているというわけだ。それが見事に物語に結び付いているというのが素晴らしいと思う。
Q:確かに『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズと比べて若く、ちょっと未熟な感じがすごくうまく出ていました。60年前のレゴラスをどのようにつくり上げたのですか?
それがピーター、フラン、フィリッパ(・ボウエン)を交えた脚本のセッションで話し合ったことの一つだったのは間違いない。それは全て脚本の中にあったから、それを演じればいいだけだった。スランドゥイル(リー・ペイス)との関係やタウリエル(エヴァンジェリン・リリー)という映画オリジナルのキャラクターが生まれたことなどは、僕にとって興味深いことだった。ドワーフ族のキーリ(エイダン・ターナー)との関係がどう発展していくのか興味津々で、タウリエルとキーリの関係にレゴラスの不機嫌で頑固な一面をつくっていくのを助けられたし、父と息子の間の葛藤も僕には役に立った。全て脚本にあったんだ。
だから僕はやりやすかったよ。レゴラスがあのようなキャラクターになっていくにはどのような体験をしなければならなかったかということに集中した。エルフがあのような旅(『ロード・オブ・ザ・リング』3部作)に参加するというのは前代未聞のことなんだ。何か強烈な体験がなければならないわけで、だからこそタウリエルのキャラクターが生まれたというのは良いことだ思う。
それはラブストーリーなどではないと見ているが、それが何であれ、不死のエルフが基にする感情の深さというのは、他のどんな感情と比べても深いもので大切なものなんだ。だからそういうの全てを自分の想像の中で利用して、その旅路に出てキャラクターに肉付けしていくための助けとした。
Q:タウリエルとの関係についてですが、実際のところ第2部公開後の反響はどうでしたか?
どうだろうね。二人の関係についてはよく話題になっているけど、恋愛感情という単純なものを超えた深い感情がそこにあるのだと思う。それを、エルフ同士には「フィーリング」があるというふうに説明しようとしてきた。不死で年齢を重ねることもなく永遠の存在だから、とても深く息の長い感情なんだ。それを嫉妬だとか、彼は彼女に恋をしていてあのドワーフにやいているなどと見るのはあまりにも短絡的だと思う。というのも、まばたきをするくらいの瞬間にドワーフは死んでしまう。わかるかい? それでもエルフの彼は生き続ける。
彼にとって彼女は同じ種族であるということの方が大きいのだと思う。彼女は向こう見ずなところがあるから心配なんだ。それ以外の要素もあるのかもしれないが、そういったもの全てがこの3作目で明らかになる。そういう意味では、それはとても重要な展開で、それによってレゴラスは『ロード・オブ・ザ・リング』の孤立したエルフという、後の彼の姿になっていくわけだ。つまり、それによって後のレゴラスのことがより説明されているんだ。
Q:先ほど「父と息子の間の葛藤」とおっしゃっていましたが、スランドゥイル役のリー・ペイスとの共演はいかがでしたか?
最高だったよ。彼は素晴らしい役者で、この世界に飛び込んでいき、彼のキャラクターのエルフらしさというのを見事に演じていると思う。彼はスランドゥイル役として完璧だったね。僕たちとのやりとりのシーンでは、彼は頑固で冷酷な感じだったけれど、エルフとしての存在感、権力を感じることができる。特に僕は彼の息子という設定だから、僕に対してはなおさらそうだったんだ。彼にはそれが求められていたからね。共演するには最高の相手だったよ。
最近はイアン・マッケランと毎晩会っていた
Q:ガンダルフ役のイアン・マッケランとの関係についてお話しいただけますか? 彼と6作の旅を共にされたわけですが。
そうなんだ。最近、僕が舞台「ロミオとジュリエット」でロミオを演じていたとき、イアンもまた同じくブロードウェイに出演していた。そして僕たちは2人ともピーター・ジャクソンのアパートに滞在していた。ピーターはニューヨークにすてきなアパートを持っていたから、僕とイアンはそこに滞在していたんだ。アパートは二つ、いや三つあって、僕が滞在していたアパートと、イアンが滞在していたとても大きなアパートがあった。
それぞれが別の舞台に出ていたんだけどどちらもブロードウェイだから、終わってから毎晩アパートで会って飲みながらその日の出来事を話せたのが良かったよ。最高だったね。イアンは年を重ねるごとにどんどん素晴らしくなっていると思わないかい? もちろん俳優としてもそうだけれど、それだけでなく、人として年を重ねるたびに素晴らしい人になっている。彼の生き方には共感するね。
Q:ピーター・ジャクソン監督についてはいかがですか? 胸に残っている言葉などありますか?
彼の人となりそのものが胸に残っているよ。彼は自分自身を失わない。全く変わることのない人なんだ。「己に忠実であれ / To thine own self be true.」という有名な言葉(『ハムレット』からの引用)があるが、僕には彼がずっと自分自身で居続けていると感じられる。まったくぶれないね。その道から外れることがない。僕が受けた影響というのはまさにそういうことだった。
Q:『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』を通してお気に入りのシーンを教えてください。
『ホビット』シリーズでは、たるのシーンはレゴラスにとって楽しかったね。6作通してだと、ムマキルとのシーンかな。あれはとてもクレイジーな瞬間だった。まさに「そう来たか」「うわ、クールだ!」と感じたよ。
あらゆる意味でキャリアを確立した作品
Q:本シリーズはあなたにとってどのような位置付けの作品なのでしょう?
あらゆる意味で僕のキャリアを確立した作品だったのだと思う。それによって飛躍したという、僕に与えられた機会の一つだと思っている。ただひたすらありがたいと感じるよ。その後の全ての機会を与えてくれた。
ある意味、僕にとってのもう一つの大きな3部作は『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズなわけだけど、『ブラックホーク・ダウン』『キングダム・オブ・ヘブン』でリドリー・スコット監督と仕事をする機会にも恵まれた。その後、ブロードウェイに行き、最近ではロミオを演じた。ダークな南アフリカの映画では、僕のヒーローの一人であるフォレスト・ウィテカーと共演した。そういった全てが、これらシリーズのおかげだったんだ。
Q:このシリーズが終わろうとしている今、俳優としてのキャリアをどのような方向に進めていこうと思われますか?
ロミオ役が終わり、フォレストと映画で共演して素晴らしい体験をさせてもらった。『ケープタウン』という作品なんだけど、僕にとってかなり方向性の違う作品だった。特にロミオの次に演じたからね。とにかく自分自身がわくわくし、興味を持てることをやりたいと思っている。自分がやりたいことが何なのか、よりはっきりとわかるようになったね。だから焦ってはいないよ。
Q:あなたが関心を持っているのはどんなキャラクターなのですか?
僕は俳優としてとてもフィジカルなんだ。拳銃を持つ俳優というのはいいと思う。全てが変わるのが面白い。とてもアメリカ的な現象なんだけど、拳銃を持つ男と見ると、それを見た者の彼に対する意見は自動的に変えられる。軍に所属する青年を演じたことはあったし、『ケリー・ザ・ギャング』にも出演したけどあれは時代物だった。ところが『ケープタウン』に出演して、この作品はとても暴力的だから観客を見つけるのがなかなか難しい作品ではあるんだけど……僕は南アフリカ出身の警官を演じたんだ。それはこれまで演じてきた役柄とは全く違うものだった。
「うわ、僕は拳銃を持っている。そして全く違った自分に見える」と思ったよ。青年から一人前の男に変化しようとしているのだろう。ある意味、そういう変化をすでに経てきたといえるかもしれない。そういう変化を経て、共感できるキャラクターに出会い、人間的ストーリーを語ることができるというのが素晴らしいと思うんだ。そしてフィジカルな側面も好きだ。それが僕のスキルや強みの一つで、アクションがある作品には惹(ひ)かれるね。そして人間的ストーリーにね。
Q:単にイケメンの若者というふうに見られなくなったことにホッとされているのでしょうか?
そうだね。子供がいると、本物の人生があるんだ。だからそういうふうに感じるのはいいものだよ。
Q:人生はそれだけではないというふうに感じられるようになったのですね?
次に演じる役というだけが全てではないんだと感じるようになったね。それは良いことだよ。
(取材・文・構成:編集部・市川遥)
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映画『ホビット 決戦のゆくえ』 は12月13日より全国公開
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