第30回 ハノイ国際映画祭(ベトナム)
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第30回 ハノイ国際映画祭(ベトナム)
2010年にスタートし、隔年で開催されているハノイ国際映画祭(ベトナム)。自国の映画産業の活性化と「HANIFF Campus」と題した人材育成プロジェクトや企画マーケットを擁しているのは他の国際映画祭と何ら変わらないが、メインスポンサーが韓国企業という側面も……。11月23日~27日に開催された第3回大会で、新作『クレヴァニ、愛のトンネル』(2015年2月中旬公開)をワールドプレミア上映した今関あきよし監督がレポートします。(取材・文:中山治美 写真:今関あきよし)
韓流がベトナムを席巻
ベトナム映画のショーケースおよび人材育成の場として国のバックアップを得てスタート。しかしメインスポンサーは韓国の企業CJ E&Mと、系列のシネコンCGV。ベトナムは日本よりも早く韓流ブームが起こった国として知られ、2007年のWTO(世界貿易機関)加盟後は商機とみた韓国企業の進出が相次ぎ、CGVも同国のシネコンを2011年に買収している。今年の映画祭では、32か国から110作品が上映されたが、韓国映画は長編コンペ部門に『マルティニークからの祈り』が選出されたのをはじめ、CJ作品が並ぶ。「街でも韓国料理店の多さが目につきました」(今関監督)。ベトナムの映画局は2020年に、映画産業で南アジアのトップになることを目指しており、同国での躍進を狙う韓国の思惑が合致した結果が、この映画祭の体制に表れているようだ。
未来人気にびっくり!
今関監督の新作『クレヴァニ、愛のトンネル』はワールドシネマ部門で招待上映された。タイトル通り、ウクライナのクレヴァニ村にある「愛のトンネル」と称される観光スポットを舞台に、20年前に失った恋人の幻影を求めて元高校教師が同地を旅するファンタジーだ。「公開前にどこかの映画祭に出品して話題になれば」と時期の合う同映画祭に出品。事前知識もなく同地を訪れたところ、待っていたのは主演女優・未来穂香フィーバーだった。
「彼女が主演したドラマ『イタズラなKiss』が同地でも放送され、私設ファンクラブもあるとか。赤絨毯(じゅうたん)で彼らに手を振ったら殺到するような熱狂ぶりで、映画祭スタッフに『彼らをあおらないでください』と怒られてしまいました(苦笑)」(今関監督)。しかし赤絨毯(じゅうたん)の様子は現地メディアでも大きく取り上げられ、そのニュースは日本に逆輸入された。PR効果は狙い通りだったようだ。
日本カルチャーに熱視線
映画の上映は会期中2回。滞在スケジュールの都合で上映に立ち会ったのは1回のみだったが、会場は未来ファンを中心に若い観客で満席となった。「キスシーンで『ワォ!』と歓声が上がるなど、観賞中のリアクションが大きいのは海外ならでは。また上映後のQ&Aでは日本語で話し掛けてくる方もいて驚きました。漫画やドラマで覚えたようです」(今関監督)。実は、映画祭開催前の10月から11月にかけて、ハノイ、ブンタウ、ダナンで「日本映画祭2014」が開催。今年は「パッション」をテーマに、一つのことに打ち込む日本人の姿を表した作品を集め、『あしたのジョー』(2011年公開)など8作品が上映されている。「特に、日本のアイドルへの関心の高さを感じます。YouTubeやFacebookで情報をどんどん仕入れているようです」(今関監督)。ちなみに、映画祭の協賛会社には日本の化粧品会社コーセーも名を連ねている。
初赤絨毯(じゅうたん)で猛省
ハノイへは成田や羽田からベトナム航空の直行便で約6時間。映画祭からは、監督一人分の渡航費と宿泊代(3泊)が招待された。今関監督にとっては初赤絨毯(じゅうたん)。だが、ドレスコードの指示もなく「そんなに注目されないだろう」と高をくくっていたため、みんながタキシード姿の中、ジーンズにジャケットというラフなファッションで歩くことに。「テレビで生中継もされたので、ちゃんとした格好をすれば良かったと反省しました」(今関監督)。ファッションは主催者側に対しての礼儀でもある。日本人は宴席の場に慣れていないために怠りがちだが、国際映画祭に参加するときは念のため正装を一着用意していきたい。
寒暖差約40度の世界へ
上映以外の時間は、路地裏を散策。ベトナム風フランスパンサンドイッチ「バインミー」などを頬張り、フランス植民地時代の面影を楽しんだという。ただし、ゆっくりする時間もなく、映画祭後は日本でトランジットをしてからロシアへ。チェルノブイリ事故の悲劇を描いた前作『カリーナの林檎 ~チェルノブイリの森~』(2011年公開)の、待望のモスクワ上映が実現したのだ。「ただし、気温28度からマイナス10度の国へ行くのは体力的にキツかったですね」(今関監督)。しかし撮影時8歳だったカリーナ役のナスチャ・セリョギナと再会。20歳になった彼女が、もうすぐ母親になるという朗報を直接聞くことができた。「また世界から見るとプーチン大統領批判が多いが、現地の人と話すと彼の支持者が意外に多いことに気付きます。ロシアという大国を、他に託すことのできるリーダーがいないそうです。こういう情報は、現地に行ってこそ知り得る楽しみですね」(今関監督)
日本とベトナムの合作映画も製作中
昨年、日本とベトナムの国交樹立40周年を迎え、TBS系でスペシャルドラマ「The Partner パートナー ~愛しき百年の友へ~」が放送されたのも記憶に新しい。そして現在、大森一樹監督が初の日本・ベトナム合作映画『ベトナムの風に吹かれて』(来年公開)を撮影中だ。認知症の母親を単身移住先のベトナムで引き取り、介護生活を送った小松みゆきさんの実体験を映画化したものだ。これを契機に、両国の映画人の交流が活性化するかもしれない。第4回ハノイ国際映画祭の開催は2016年。今年は今関監督の作品1本のみだったが、2年後にはどれだけ日本映画が参加しているのか? 動向が楽しみだ。
写真:今関あきよし
取材・文:中山治美