第25回:ウーマンラッシュアワーの『セッション』談義
映画たて・よこ・ななめ見!
ジブリで宮崎駿監督の出待ちをしちゃうほど映画大好きな村本大輔と、映画に関しては素人同然の中川パラダイスが、あらゆる角度からブッ飛んだ視点で映画トーク。今回は、名門音楽大学を舞台に、完璧なジャズドラマーを育てるために狂気のレッスンを課す教師と、彼にスカウトされた生徒とのぶつかり合いを描く映画『セッション』をななめ見しちゃいます!(取材・文:シネマトゥデイ編集部・入倉功一)
村本:もうこれは拍手ですよ! 何回も手をたたいてしまったわ。面白かったなぁ~! あの先生、フレッチャー(J・K・シモンズ)の悪魔ぶり! そんな彼に主人公のニーマン(マイルズ・テラー)も食らい付いていって……。
中川:何回も地獄に落とされるのにな。
村本:それでもニーマンは諦めないっていうね。車で事故っても血だらけのまま会場に行って演奏しようとする。あのハングリー精神が物語全部につながっているわけや。
中川:逆境を全て力に変えるとは、まさにあのことやで。いや、すごかった!
村本:特に、ニーマンがフレッチャーに負けたな……と思わせておいて、それで終わらずやり返すところあるでしょ。
中川:ええ意味で裏切られたな!
村本:ニーマンが「報道ステーション」の古賀茂明さんに見えた瞬間があったわ!(※3月27日の番組放送中、古舘伊知郎キャスターとゲストコメンテーターの古賀茂明さんの間で起きた、番組降板をめぐる議論が展開した騒動)
中川:ええ! そうなん?
村本:あの古舘伊知郎さんとの、『全て録音していますので』みたいな、生放送ならではのやりとりね。そんな二人のセッションを見ていたような気持ちになった! この映画、お互いに悪であって正義でもある二人の、とんでもなく面白い漫才を見ているようなもんやで!
中川:フレッチャーが『今おまえ(のテンポ)は速かったのか、遅かったのか』って言うて、数を数えさせながらニーマンの頬をパンッ! ってはたき続ける場面あるでしょ。あそこもすごかったな~。
村本:僕らも、できるまで練習するぞ! みたいなことはあるよな。『はい、どうもー! ウーマンラッシュアワーです! お願いしますー!』のとこだけで1、2時間はかかる。
中川:まだ僕が入る前の段階でな。
村本:水泳で、まずは飛び込みから極めようとするようなもんやで。コンマ何秒かの差がタイムにかかってくるみたいな。そこからズーっと最後まで漫才の流れを止めることなく進ませなあかんから。『何でやねん!』のタイミングでも、『いや、なんでやねん!』みたく、『いや』が付くだけでも全然違うからな。
中川:同じフレーズを何回も言い直しているから、違いがわからんときも結構あるわ。
村本:そこよ! やってることは映画まんまやけど、ニーマンはできているにもかかわらず怒られてるでしょ。おまえはできてなくて僕に怒られるわけや!
中川:フレッチャーが椅子をガーンって投げるみたく、おまえも壁とかガンガン蹴(け)るもんな。
村本:何回やっても直らなくて、それに対して僕が怒り続ける……。でも僕らの場合、それがネタになっていくわけや。本番中でも、おまえに対して気になることがあったら言うてしまうからな。そこでお客さんにドーンと受けたときは、“セッション”した感じになるよな。
中川:だから僕は、やり返さないニーマンみたいなもんやで。
村本:何を言うてんねん。……まぁ、僕も前の彼女に、フレッチャーみたいに罵倒されながらお尻をたたかれたことはあるけどね。パンッ! パンッ!「おまえは速いのか、遅いのか!」って。
中川:それはそういう店の話やろ!
村本:でもフレッチャーの気持ちもわかる! 指揮者と演奏者はツッコミとボケみたいなもんやからな。僕も漫才中、おまえを思いきりなぐったりすることもあるし。
中川:調子がいいときは、思いっきり背中パンパンたたいてくるよな! あれ、僕は完全に集中できないんやけど。
村本:背中が真っ赤になってるときあるもんな。内出血みたいに。
中川:自覚とかないの? 僕に対して大丈夫かって思ったり……。
村本:ハ? そんなもんないわ、無意識無意識。
中川:無意識なんかい……。
村本:指揮者と演奏者はケンカするものなのよ。仲良くいちゃいちゃしてるんじゃなくて、二人がよりいいものをやろうとしてケンカしているからいいものが生まれるわけで、漫才も同じや。だから、僕はこれ観て、漫才したくなったわ! 観ている間に2~3個ネタができてメモったからな。やっぱこういう映画を観るとやりたくなるやろ!
中川:いや、ネタ作らないし、やりたくない。誰かにお薦めしたいな~とは思ったけど。
村本:おまえ、ハングリー精神ないなぁ……。歴代の彼女全員と同棲(どうせい)して家に転がり込んで、彼女が働いた金でパチンコに行っていたようなどっぷりタイプやからな。でも結局ね、ハングリー精神こそが最大の力ですよ。芸人でも、売れてないやつには時間と上にはい上がりたいという気持ちがあるから強い!
中川:ハングリー精神……。
村本:ゼロの人間が一番強いわけ。だから、一番怖いのは自分に相応じゃないお金が入ること。そうなると弱くなるわけや。あと、人と飯とか行って聞いた受け売りの言葉で頑張ろうとするのもダメ! そういう言葉はドーピングの筋肉と同じで、ついたうちに入らんのよ。自分で挫折を繰り返すからこそ、その痛みや経験でいろんな言葉が頭に入ってくるから筋肉が付いて強い人間になる。だから、「人がこういうふうに言っていた」っていう、受け売りだけの人間っていうのは自分で筋肉を付けたやつには勝てないし、しょせんコピーでしかないって……誰かが言うてたよ。
中川:それも受け売りやんか!
村本:でもな、偉人になりたいって入れ込むニーマンが一瞬、おまえに見える瞬間もあったわ。「THE MANZAI」で優勝して、「人志松本のすべらない話」に出たときのおまえや。打ち合わせで、小学校のとき友達のおしっこを飲み当てたっていうえらい下ネタを披露したら、「ちょっとテレビなんで」「ゴールデンなんで」ってやめることになったやん。
中川:あったな~。そんなこと。
村本:あの番組ってサイコロで話す人間が決まるから、その日にしゃべれない人とかもリアルにいるわけ。もうそこは運の問題。そこでおまえ、いざ本番で当たったら、「今後は番組に呼ばれないかもしれない」「これが最初で最後になるかもしれない」「そういうとき、僕は後悔したくない」って言うて、急におしっこの話をしだして。この映画で言うたら、指揮者の制止を振り切って楽譜にない曲を急に演奏しだしたわけや……そしたら、めちゃくちゃすべりやがって!
中川:もう、二度と呼ばれなくなったな……。
村本:さらに、その部分はカットされてお蔵入りや!
中川:ただ引かれるっていうね……。まさかすべるとは思わんかったわ!
『セッション』
サンダンス映画祭でのグランプリと観客賞受賞を筆頭に、さまざまな映画賞で旋風を巻き起こした音楽ドラマ。ジャズドラムを学ぼうと名門音楽学校に入った青年と、彼にすさまじいスパルタ的指導を行う教師の姿を追い掛けていく。メガホンを取るのは、『グランドピアノ 狙われた黒鍵』などの脚本を手掛けてきた俊英デイミアン・チャゼル。主演は『ダイバージェント』などのマイルズ・テラーと『JUNO/ジュノ』などのJ・K・シモンズ。熱いドラマはもちろん、マイルズが繰り出すパワフルなドラミングにも圧倒される。
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2008年に結成された、村本大輔と中川パラダイスによるお笑いコンビ。2011年「ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞受賞、2012年「THE MANZAI 2012」決勝進出、2013年NHK上方漫才コンテスト優勝など数々の賞に輝き、4月に東京進出。先ごろ行われた「THE MANZAI 2013」で見事優勝し、3代目王者に輝いた。
1980年生まれ。福井県出身。自分でも「ネットに書き込まれるうわさはほとんどが事実です!」と認めている、自称・ゲス野郎芸人。だがその一方で、ジブリ作品やピクサーなどの心温まるアニメが大好きで、映画『あなたへ』で号泣するほどのピュアな一面も持ち合わせる大の映画好き。水産高校に通っていたため(中退)、お魚系や海洋ネタにも意外に詳しい。
1981年生まれ。大阪府出身。これまで10回もコンビ解散している村本と唯一トラブルもなくコンビを続けている広い心の持ち主。2012年に入籍し、現在1児の子育てを満喫中のイクメンパパでもある。映画に関しては、「王道なものしか観ない」というフツーレベル。