第1回:ピクサー社員の一日&トップのお部屋に潜入
『インサイド・ヘッド』特集:ピクサーの頭の中
ピクサー初の長編映画『トイ・ストーリー』(1995)から20年。これまでピクサーは数々の名作を生み出してきました。いまや日本でも多くのファンを獲得しているピクサーですが、会社ではどんな人たちがどのように働き、作品を生み出しているのでしょうか? 7月18日に公開を控えた最新作『インサイド・ヘッド』は脳の中の感情たちが冒険する物語。今回の取材でピクサーの“中身”を探ってみました。
■ピクサーって?
ピクサーの前身は、『スター・ウォーズ』などを手掛けたルーカスフィルムのコンピューター部門です。これを率いていたのはエドウィン・キャットマル。今のウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオおよびピクサー・アニメーション・スタジオ現社長です。『トイ・ストーリー』で一躍世に名を知らしめたジョン・ラセターが加入した1983年当時も、まだルーカスフィルムの一部門でした。転機が訪れたのは1986年。アップル社のスティーブ・ジョブズが同部門を買収、「ピクサー」として独立させました。そして翌年ジョン・ラセター監督デビュー作の短編アニメーション『ルクソーJr.』がアカデミー賞短編アニメ賞にノミネート。それから続々と短編を発表していき、1991年にディズニーとの「少なくとも一つの作品を制作し、配給すること」という取り決めに合意。そして1995年。製作総指揮エドウィン・キャットマル&スティーブ・ジョブズ、監督ジョン・ラセターの大ヒット作『トイ・ストーリー』が生まれました。
■ピクサートップのお部屋
まさしく『トイ・ストーリー』の生みの親であり、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオおよびピクサー・アニメーション・スタジオCCOであるジョン・ラセター。そんな彼はどんなお部屋で仕事しているのでしょう? ということで、めったに見られない彼のお部屋に、なんと特別に入らせてもらいました。
ここがその彼のお部屋です!
まさにワーオと言いたくなるすごすぎるお部屋。そしてこれは……
ネコバスだ!!(しかも2代目らしい……)
とスタジオジブリのキャラクターがたくさん!
ジブリの宮崎駿監督とは親しいことが知られていますね。
それにしてもラセター監督、ジブリ好きすぎ!
『かぐや姫の物語』の高畑勲監督からの贈り物も!
もちろん『トイ・ストーリー』などピクサーの作品もたくさん!
きっとこれが彼の原動力なんでしょうね。好きな物に囲まれて仕事をする。とってもすてきな生活です。
■ピクサー社員のスケジュール
さてそれではピクサー社員はどのように働いているのか? 入社5年目のストーリーボードアーティストであるドミー・シーさんに聞いてみました。
ストーリーボードアーティストとは?
ストーリーボード、つまり絵コンテを手掛ける人を指します。ピクサーでは、脚本をもらってから大体1週間のスケジュールで作っていくのだそう。初稿(ファースト・パス)を作り上げるのに2、3日、それを見せて、変更したり直したりするのに、さらに1日か2日かかるとのこと。多いときには3日間で800枚の絵コンテを手掛けなければならないときもあったといいます。(しかしその部分はほとんどがカットされたそうです……)10人といったチーム全体で作業するときもあれば、1人で作業するときもあるそうです。
■ピクサーへの入社 - ドミー・シーさんの場合
何がきっかけだった?
―毎年、ピクサーにはインターンシッププログラムがあります。わたしは4年前、ストーリー部門のインターンでした。期間は夏の3か月でした。ピクサーの学校みたいなものです。夏の終わりまでに、ピクサーはフルタイムのストーリーアーティストとして雇う人を、1人~3人選びます。わたしは選んでもらえて、とてもとてもラッキーでした。なぜなら、毎年誰かを雇うわけじゃないんです。雇うのは数年ごとなんです。
インターンでは何を学んだ?
―ストーリーボードの技術について学びました。毎週、課題が出されます。月曜日に課題を出されて、金曜日に多くの人々でいっぱいの部屋で、みんなにプレゼンするわけです。それぞれの課題でわたしたちのことをテストします。脚本からストーリーボードを作ることとか、どうやってアイデアを思い付くかとか。いろんなことについてです。
■1日のスケジュール - ドミー・シーさんの場合
1日のスケジュールを教えてください
―毎日、少しずつスケジュールは違います。わたしは朝、9時に来ます。これが決まったスケジュールというのは本当にないんです。そのときによります。普段は、週の初めに脚本とか、資料を渡されます。それから(それをストーリーボードにしたものを)週の終わりに見せないといけません。だから、週のほとんど、わたしは自分のオフィスで仕事をしています。
ストーリーボードを描き上げたらどうするのでしょう?
―自分がやったものを監督とストーリー部門のトップに見せます。彼らがわたしに感想や意見、指示を書いたメモをくれます。そしてわたしはまた自分のオフィスに戻って、また数日間、描くんです。そしてまた彼らに見せます。彼らはそれが気に入るか、気に入らないかを言います。そして(気に入らなければ)わたしはさらに描き続け、(気に入れば)エディトリアル部門にそれを送ります。時々、ストーリーミーティングがあります。ストーリーボードアーティスト全員が部屋に集まって映画について話すんです。アクト1、アクト2、アクト3と、映画の概略が話され、どこかにストーリーの問題がないか見つけようとします。それについて、監督かストーリー部門のトップに話します。だから、ミーティングをしているか、描いているかですね(笑)。
ピクサーで学んだことは?
―チームワークと、多くの他の人々と一緒に仕事をすることだと思います。わたしたちはみんな、映画全体にわたってちょっとずつ作業をしました。1人だけで小さなことをやっているわけじゃないんです。わたしはチームとして仕事をするということを学ばなければなりませんでした。わたしは学校ではとても静かで、内気な方でした。だから、もっと社交的になることを学ばないといけませんでした。ピクサーで学んだことはチームワークですね(笑)。
800枚描いてもほとんどがボツになったように、たくさんアイデアを出すけれども、いいものが残るまでボツを出し続けるピクサー。どういう気持ちで仕事に臨んでいるのでしょうか?
―わたしは早い時期に、(自分が描いた)スケッチよりも、プロセスを愛することを学んだと思います。なぜならスケッチはいつも捨てられるからです。わたしは常に、最終的な映画について考えないといけない。映画を作るのに4年間かかりました。それぞれのスケッチは重要じゃなく、重要なのは全体像なんです。 ピクサーの戦略は、全てを試してみるということで、全てがうまくいくわけじゃない。でも、それは構わないんです。そういうことをわたしは学ばないといけませんでした。それはアーティストとしてもわたしを強くしてくれたと思います。わたしは自分のアートワークを大事にしすぎないようになりました。わたしは、何かを捨てて新しいものを試してみるということが怖くなくなったんです。
映画『インサイド・ヘッド』は7月18日全国公開
(C) 2015 Disney / Pixar. All Rights Reserved.
取材・文:編集部・井本早紀