第2回:どうやってピクサー映画はできるの?
『インサイド・ヘッド』特集:ピクサーの頭の中
ピクサー新作映画『インサイド・ヘッド』がいよいよ来週末に公開!本作は『モンスターズ・インク』や『カールじいさんの空飛ぶ家』などのドクター・ドクター監督の6年ぶりの最新作です。
第2回となる今回はピクサーの映画作りについて探ってみました。
■どれくらいの期間がかかるの?
ピクサーの映画作りにかかる期間はだいたい3年~6年とのこと。最新作『インサイド・ヘッド』の制作期間は約5年だったそうです。
同作の企画は、『カールじいさんの空飛ぶ家』の日本公開を控えていた2009年8月、ピート・ドクター監督が自身のアイデアをスカイウォーカーランチ(ルーカスフィルム本社が入っているスタジオの総称)で、共同監督のロニー・デル・カルメンとプロデューサーのジョナス・リヴェラと2日間かけて話し合ったことから始まりました。ドクター監督は同年10月にジョン・ラセターにゴーサインをもらい仕事に取り掛かります。そして2010年、本格的に映画作りが始動しました。
■映画作りの段階
主な映画作りの段階は、ディベロップメント(開発)、ストーリー、エディトリアル、アート、プロダクション、キャラクター&セット、カメラレイアウト、アニメーション、シミュレーション、エフェクト(視覚効果)、ライティング、レンダリングです。
今回の作品におけるスケジュールを下記表としてまとめてみました。
制作始動時の2010年はたった8人のスタッフでのスタートでしたが、制作が進むにつれて、総スタッフ人数は14人(2011年)、49人(2012年)、75人(2013年)、207人(2014年)と徐々に増えていきます。ピクサーでは、ある部門から次の部門へといったきちんとした順番があるわけではありません。一つのシーンにおいても何度も手直しが行われ、各部門に戻されるため、だいたいの部門の仕事が同時期に進行していくことになります。それでは最初に行われるディベロップメントから説明していきます。
■ディベロップメント
ディベロップメントの初期の段階では、たくさん考えたり、話したり、書いたりすることがメインです。特にライティングといって、たくさん絵を描くことになります。ドクター監督はランチの際にも、ナプキンで本作のための絵を描いていたそう。そのようにしてインデックスカードやスケッチの作業を行い、ストーリーを何度も作り直します。ストーリーの練り直しはこの後何年も続くことになりました。
ちなみにドクター監督がこの物語を考え付いたのは、『カールじいさんの空飛ぶ家』で若いころのエリーの声を務めたことでも知られる彼の娘のエリーちゃんがきっかけでした。エリーちゃんが11歳になると、突然彼女は静かになり無口になったそうです。そして監督は、「子供時代あんなに楽しかったのに、何が起きたんだろう。彼女の頭の中で何が起きているんだろう?」と自問し始め、この物語が生まれました。
■ストーリー&エディトリアル
ピクサーではストーリー&エディットの二つの言葉を合わせた「Ed-istorial」(エディストリアル)という呼称がつかわれているそうです。それくらいこの二つの作業は密接につながっているよう。
ストーリー部門のストーリーアーティストたちは、ドクター監督たちが練り上げた脚本のアイデアを、絵コンテとして視覚的に見えるようにしていきます。スケッチをシーンごとに並べて、そのシーンがどういうふうになるのか、どのようにしてストーリーが展開していくのかがわかるようにします。彼らは『インサイド・ヘッド』のために、17万7,000枚以上の絵コンテを手掛けたそうです。
この絵コンテのOKがドクター監督から出ると、今度はそれらがエディトリアル部門に届けられます。絵コンテに音楽や音響効果、セリフを入れて編集していきます。
ピクサーには録音スタジオがあって、ここでセリフが録音できます。声優のキャスティング前にはピクサーで働いているスタッフたちが吹き替えるとのこと。出来上がった90分の映像は、全てのスタッフの前で上映されます。上映後は会議室に監督やストーリーのトップが集まり、何がうまくいっているか、何がうまくいっていないか、もっと面白くするためには何が必要かの話し合いが行われます。そして出た意見を基に、ストーリー部門が絵コンテをバラバラにした後、再び描き直していきます。『インサイド・ヘッド』は90分の映像を合計で10回上映したそうです。それだけストーリーのリライトが行われたということですね。
■アート&キャラクターデザイン&セット
エディトリアル部門とストーリー部門がストーリーを作っている間に、アートチームは、キャラクターや世界がどのようなものになるのかを考え始めます。今回は脳の中という空想の世界が描かれるため、これまでの作品のように参考にするものが少なく、彼らは苦労したそうです。
キャラクターデザイナーが作り上げたメインのキャラクターたちを、スカルプト(彫刻を作る部署)に持っていき、そのキャラクターを3D化します。そしてスケッチアーティストによって再びキャラクターのデザインを2Dにして整えられたものが、キャラクターチームに渡されて、初めてパソコン上での3DCGのキャラクター作りが始まります。
キャラクターのほかにも、劇中に出てくるセットや背景のデザインもアートチームの仕事です。スケッチアーティストたちは何度も頭の中の世界を繰り返し描き、それらのアイデアを絞り最終的なものに仕上げていきます。
■プロダクション
最初の3年間、スタッフは、アセット(キャラクターやセット)をデザインしたり作ったりすることに専念しますが、最終的な映画に仕上げるためには、登場する全てのキャラクターやセット、小道具、照明、影などを作らなければなりません。
これらを管理するのが、プロダクションチームです。その週の最優先事項や迫ってきているデッドライン、話題になっているどんなプロダクションのトピックについても、ドクター監督と話し合い、また各部門における必要事項を明確にしていきます。
■カメラレイアウト&レコーディング
カメラレイアウト部門は、実写映画の撮影監督やカメラマンと同じようなもののよう。あるシーンが完成すると、まずはレイアウト部門に渡されます。レイアウトチームはコンピューターを使用して、シーンにバーチャルカメラを設置し、キャラクターやセットが視覚的に映える配置を決定していきます。この作業はアニメーションの前に行われます。
レコーディング作業も同時に進行。声優陣にはピクサーに来てもらうか、難しい場合にはバーバンクにあるディズニースタジオで収録するそうです。
■アニメーション&シミュレーション
レイアウト部門がシーンをアニメーション部門に送ると、アニメーション部門が始動します。アニメーション部門はこの作品で最大のチーム人数で総勢約60人だそう。そしてアニメーション部門はそのアニメを今度はシミュレーション部門に送ります
シミュレーション部門の作業としては、例えばキャラクターの着ている服が違和感なく見えるようにすることなどが挙げられます。
■エフェクト&ライティング&レンダリング
エフェクト部門は、視覚効果を担当しています。彼らが手掛けたものとしては、雲で出来た町や魔法のように現れる線路、溶岩でいっぱいのリビングルーム、そして感情たちの一人ヨロコビの粒子など! ヨロコビに関しては、ほとんど全てのシーンに登場するため、エフェクトチームは自動粒子システムを作りました。
ライティング(照明)部門は、レイアウト部門がバーチャルカメラを設置したように、シーンに何百個ものバーチャルライトを配置して、色や光度を調整していきます。
上記のような作業を最後にまとめるのが、レンダリング部門です。各部門が手掛けた全ての要素をレンダーファームというコンピューターシステムに送り、何時間もかけて最終的なシーン映像に仕上げます。そしてできたシーン映像を監督が見る「デジタルデイリーズ」という作業で、監督のオーケーが出れば、全ての工程が終了します。これでスタッフたちの汗と愛の結晶である作品が完成です。
映画『インサイド・ヘッド』は7月18日全国公開
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取材・文:編集部・井本早紀