第3回:キャラクターの作り方
『インサイド・ヘッド』特集:ピクサーの頭の中
ついに今週末ディズニー/ピクサーの最新作『インサイド・ヘッド』が公開!
本作のメインキャラクターは、11才の少女ライリーの頭の中にいる5つの感情たち。主人公であるヨロコビのキャラクター制作の過程や共同監督によるカナシミの描き方講座を通して、ピクサーの「キャラクターの作り方」の秘密に迫ります。
■ヨロコビができるまで
劇中に登場する五つの感情たち(ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ビビリ、ムカムカ)の中で、最初に完成したのはヨロコビでした。
最初のアイデアを出したのはピート・ドクター監督。しかし、監督の一番初めのアイデアは「彼女は(見た目も)ヨロコビみたいに感じられるべきだ」というあまりにも漠然としたもの。そこでキャラクターチームは、輝いているもののイメージを集めてみることから始めたそうです。そして「幸せ・はじける」というイメージからセレクトした、星や星と形が似ている風車、お祝い事と関係が深い花火やシャンパンの泡などの画像を参考に、キャラクターを何回も練り上げていきます。
キャラクター開発にはドクター監督やキャラクターチームのほかにも、プロダクションデザイナーのラルフ・エグルストンや共同監督のロニー・デル・カルメンたちも参加。それぞれがアイデアを持ち寄る中、キャラクターチームはラルフのパステル画に着目しました。妖精のように光を放つヨロコビの姿を見て、彼らは「感情たちは粒子でできている」というアイデアを思い付いたそう。このアイデアはドクター監督にも受け入れられ、感情たち全員に適用されました。
ちなみにキャラクターチームとしては、ヨロコビを「妖精」として描くことには抵抗があったようで、アクティブさを出そうと体操選手やオードリー・ヘプバーンの画像も参考にしたそう。ヨロコビの髪にはその名残がありますね。
キャラクター像が固まってきたら、次は2Dから3Dにするモデリングの作業に入ります。その中で課題となったのは、頭の中で考えていた絵をどのようにして実際にコンピューターの中で作り上げるかということ。
それを解決するために行われた作業は、「ヨロコビは伸び縮みするのか?」「大きさは?」「人間みたいなのか?」「向こうが透けて見えるのか? 彼女の背中は見えるのか?」「ヨロコビは何でできているのか?」といった、より具体的な質問とそれに対する答えを考えるというものでした。
これを繰り返していくうちに、キャラクターの皮膚や髪は4層に分けて作ることが決定。1層目は皮膚&髪、2層目はキャラクターの内側から出ている光、3層目は泡や粒子、4層目は青い光で構成されることになりました 。この層作りを担当した人物は、13週間かけて、13種類の違うやり方を考案することになったといいます。
そして完成したヨロコビの3Dモデルは、ほかのキャラクターたちの参考にもなりました。カナシミやイカリたちも、ヨロコビと同様に4層に分かれた同じ素材で構成されています。特にヨロコビが光り輝いて見えるのは最も重要なキャラクターであるからと、ドクター監督の指示で強めにしているんだとか。
■教えて!製作者しか知らない裏話
・ビビリは主人公になる予定だった!?
ヨロコビの次に完成したキャラクターは、なんとカナシミではなくビビリ! その理由は、ビビリとヨロコビを主人公に予定していたときもあったから。しかし、途中でその役割はカナシミに引き継がれることになりました。ヨロコビとビビリの組み合わせの冒険は、カナシミとのものとはまた違うものになりそうですね。
結果、キャラクターが完成した順番は、1番目がヨロコビ、2番目がビビリ、3番目がカナシミ、4番目がイカリ、最後まで時間をかけて作られたのがムカムカなんです! 映画ではムカムカちゃんの髪型をショートカットにするかロングヘアにするかは、とても議論されたようです。
・カナシミのメガネ
カナシミが掛けているメガネですが、普通のメガネとはちょっと違うことに気付きましたか?
そう、レンズとつるがないんです! そのため度がないどころか、彼女のメガネは顔の前にただ浮かんでいるだけ。一体何でできているんでしょうね……。
・キャラクターの頭身がバラバラな理由
感情たちの頭身は、イカリが2頭身、ヨロコビが約4頭身とバラバラ。これは、それぞれの感情の個性を目立たせるため。全員が集まることでバランスがとれた画(え)になるように何度も調整されました。構想初期から違う頭身にすることは決まっていたそう。
イカリが一番小さいのは、ドクター監督が「彼が一番小さければ、いつも心の中で怒りを感じているだろう」と考えたから。イカリも苦労しているんです。
■カナシミの描き方講座
ピクサーのストーリー作りには絵コンテが必須です。そのため監督たちや絵コンテ担当の人たちは、さまざまな表情をしているキャラクターの姿が描けるようになる必要があります。そんなキャラクターたちを何度も描いたカルメン共同監督が、カナシミの描き方について教えてくれました!
カルメン監督)僕が言う通りにやってみて、カナシミを描けるかをやってみましょう。まず丸を描きます。パーフェクトである必要はありません。
カルメン監督)次に彼女のメガネを表す他の二つの丸を描きます。こういうふうにとても大きくしてください。今度は彼女に目を与えます。近づけて描いてくださいね。
カルメン監督)彼女はいつも悲しいので、ハの字の眉毛にします。どうでしょう? すでに悲しんで見えませんか? 今度は彼女に髪の毛を足しましょう。メガネと顔の輪郭が重なる部分から一つの大きな弧を描いてみてください。そしてもう一つ(の髪)も。
カルメン監督)それから小さな鼻も付けましょう。彼女は悲しいから、口は下向きに。泣いているように、口をピーナッツの形にしましょう。ほら、もうほとんど出来上がりです。彼女にセーターを着せて、仕上げで彼女に涙を与えましょう。……さあ、カナシミの出来上がりです。ブラボー!
?監督と共同監督の違いって?
違いはほとんどありません。最初は、ドクター監督とカルメン監督だけで映画の企画を進めていました。ドクター監督が映画のストーリーを(一緒に考えるように頼んだ)最初の人が、カルメン共同監督でした。基本的にカルメン監督は、ストーリーやデザインにおける全ての部分でドクター監督と共に作業を進めました。二人でストーリーを練って、それからストーリー部門やアート部門、エディトリアル部門と連携する形だったそうです。
映画『インサイド・ヘッド』は7月18日全国公開
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取材・文:編集部・井本早紀