第3回:藤井まゆみのとまとさんの言うとおり!? - 2015年8月公開作品編
とまとさんの言うとおり!?
アメリカの大手映画レビューサイト Rotten Tomatoes の批評家満足度を基に、8月公開作品をランキングでご紹介。さらに Rotten Tomatoes の批評家たちが選んだベスト5に対して、ニコニコ生放送「元祖シネマざんまい」にも出演している映画コメンテーターでモデルの藤井まゆみが、独自の視点で切り込みます!
第1位:『ベルファスト71』 批評家満足度:97%
第2位:『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』 批評家満足度:96%
第3位:『ナイトクローラー』 批評家満足度:95%
第4位:『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』 批評家満足度:90%
第4位:『さよなら、人類』 批評家満足度:90%
(2015年7月22日時点)
『ベルファスト71』
治安悪化した北アイルランドの首都、ベルファストの一角で1971年に勃発した暴動をきっかけに、戦闘経験がない一人の若いイギリス兵が必死に敵から逃げる一夜を描いたサバイバルスリラー。世界の賞レースで絶賛された本作では、ヤン・ドマンジュ監督の初長編映画とは思えないスピード感ある演出が全面に押し出されている。戦争映画にありがちな長めの政治的なメッセージは排除。99分の上映時間の8割は、観客を恐怖のドン底に陥れる臨場感と、敵だらけの地獄に一人置き去りにされた丸腰の兵士のおびえる目線だけに焦点を絞った、手に汗握る展開がノンストップで続いていく。主人公の兵士を演じたジャック・オコンネルの純粋なまなざしと、夜のベルファストの陰湿さのコントラストが理屈抜きの究極のドラマを生み出した。
『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』
第87回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた、ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース監督が捉えた、写真家セバスチャン・サルガドの世界。環境活動家でもあるサルガドは世の中の実態を写真に収め、記録としてサルガド自身の哲学と共に観客に淡々と説明していく。またヴェンダース監督の傑作『ベルリン・天使の詩』をほうふつさせる映像マジックと、生と死を目の当たりにさせられる衝撃的なモノクロ映像は、本作の世の中を学ぶアート作品としての濃厚さを増幅させる。しかし場面転換の多さからか、サルガドの深い心の中をのぞくドキュメンタリーとしての印象は薄まってしまったように思われた。
『ナイトクローラー』
夜の現場にいち早く駆け付けショッキングな映像を撮影し、テレビ局にその映像を売って金を稼ぐパパラッチ、通称「ナイトクローラー」。夜のロサンゼルスを徘徊(はいかい)する無職の男ルイスは、たまたまある事故現場をスクープするパパラッチを目撃したことをきっかけに、自らも小さなカメラを手に事件を求めるようになる。第87回アカデミー賞の脚本賞にノミネートされた同作は、テレビ業界を風刺するユニークな話と畳み掛けるようなカーチェイスが魅力的な娯楽映画だが、メインは現代の情報社会に依存して毒された主人公ルイスの孤独な姿を観て楽しむことにある。演じるジェイク・ギレンホールがつくり上げた強烈なキャラクターに、エンディングまで呼吸を忘れてしまうほどの衝撃を受ける。礼儀正しく丁寧な言葉遣いの好青年な風貌でありながら、人間をモノ扱いし洗脳する彼の話術には皮肉も交じっており、ジェイクの完璧な演技からあふれ出す恐ろしさにゾクゾクさせられる。
『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』
1960年代に大ブームを巻き起こしたザ・ビーチ・ボーイズの中心的メンバー、ブライアン・ウィルソンの20年余りの苦悩を描いた作品。華やかなステージに立つことを選ばず、スタジオにこもり音楽を作ることに魂をささげた男の精神が崩壊していく過程を、二つの時代に分けている。全盛期のブライアンにポール・ダノ、1980年代のブライアンにジョン・キューザックという演技派が違和感なくふんしている。ミュージカルなどの安易な要素を入れず、天才と呼ばれた男がもがき苦しむ心理描写にフォーカスし、ドキュメンタリー風の質感でリアルを映し出す。興味本位にセレブの裏側を垣間見るためだけのドラマにとどまらず、誰もが共感できるラブストーリーで色を添えた成功作となっている。
『さよなら、人類』
スウェーデンの巨匠監督、ロイ・アンダーソンの非の打ちどころがない映像力で生きることを描いた3部作の最終章であるブラックコメディー。第71回ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した本作で、『散歩する惑星』(2000)、『愛おしき隣人』(2007)に続き、長年の歳月をかけた人間ドラマに幕を閉じる。面白グッズを売り歩くサムとヨナタンのセールスマンコンビを中心に、登場するキャラクターたちの人生の存在価値を求めた行動を映し出す。配置へのこだわりで見せ、遠近法を使用し、淡いグレーのかわいらしい箱の中で、面白おかしくミニチュアを動かす人形劇を見ている感覚になる。あえて要望を出すなら、現実離れしたファンタジーには現実的な脚本のインパクトが欲しかった。
第1位:『ベルファスト71』
第2位:『ナイトクローラー』
第3位:『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』
第4位:『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』
第5位:『さよなら、人類』
8月は夏休み真っただ中、エンターテインメント性を重視したランキングとなった。今回は「追われる主人公」と「追う主人公」の一騎打ち。1位にした『ベルファスト71』は、追われることへの恐怖を切れ目なく見せることにこだわった新進監督に称賛。一方、2位にしたスクープを追う『ナイトクローラー』で不快な気分にさせる主人公を演じた、ギレンホールの完璧な役づくりは今年のベスト演技に入ることだろう。『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』は役者の好演とスタイリッシュな構成で、ミュージシャンの実話に基づく物語としてはまれに見る傑作。アート作品としてビジュアルで勝負した『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』と『さよなら、人類』は、ストーリーにもう一つ盛り上がりが欲しかった。
◆ 藤井まゆみ Mayumi Fujii
Twitter:@mayumi_fujii
オフィシャルブログ:『藤井まゆみのシネマジャーナル』
2010年に第一回 国民的"美魔女"コンテスト「美肌魔女賞」を受賞。以降、Team美魔女のメンバーとして各方面で活動中。
大の映画好きがきっかけで6年間ロサンゼルスの映画留学を経験した豊富な知識を生かし、 "映画を観て美しくなろう!"をコンセプトに「美に効くサプリ」として映画を紹介する、映画 "ビューティ" コメンテーター として活動をスタート。
【映画関連】
<記事>
・2013年5月~ 映画エンタメ情報『シネマカラーズ』、美に効く映画[サプリ]連載
・2014年12月~ トレンドミックスマガジン『VANITY MIX ヴァニティ・ミックス』、藤井まゆみの魔ジカルCINEMA 連載
【雑誌・広告】
2010年~ 光文社「美STORY」
2012年 小学館 「週刊ポスト」グラビア出演
2014年 ショップチャンネル 藤井まゆみプロデュース「BE GENE」
2014年~ 美サロ イメージキャラクター