1.5センチの最小ヒーロー『アントマン』撮影現場に潜入!主要キャストを直撃
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世界の映画産業の中心・アメリカの最新映画情報を現地在住ライターが紹介する「最新! 全米HOTムービー」。今回は、1.5センチの最小ヒーローが登場するマーベルの新作映画『アントマン』の撮影現場に潜入! 全米ボックスオフィスランキングで初登場1位を記録した話題作の主要キャストたちを直撃しました。(取材・文:細谷佳史)
アントマンって何?
『アントマン』は、仕事も家庭も失った主人公スコット・ラングが、ピム粒子を開発したハンク・ピムから身長1.5センチのアントマンになることを勧められ、人生のセカンドチャンスを懸けて世界平和のために戦うさまを描いたアクション映画。オープニングの週末だけで興行収入5,722万5,526ドル(約68億6,706万3,120円)を上げた。これでマーベル作品は2008年の『アイアンマン』以来、12本連続で全米ボックスオフィスランキングの首位を獲得したことになる。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル120円計算)
コメディー俳優として知られるポール・ラッドがスコットにふんし、名優マイケル・ダグラスがハンクを、『ホビット』シリーズのエヴァンジェリン・リリーがハンクの娘ホープを演じている。テレビドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」で注目されたコリー・ストールが悪役ダレン・クロス/イエロー・ジャケットを演じていることも話題だ。
スケールの大きさが感じられる巨大なセット
昨年、ジョージア州アトランタで行われていた撮影の現場に潜入し、物語の主要な舞台となるセットをいくつか見て回った。クロスやホープが働くピム・テックは、1階がコンピューターが並ぶマシンルームで、2階にラボがあるモダンなデザインの巨大なセット。作品のスケールの大きさが感じられた。
ハンクの家の外観はサンフランシスコにある実際の建物を使っているが、家の中は全てセットで撮影しており、ハンクがアントマン・スーツを生み出した自宅の地下にある秘密の部屋のセットは研究室になっているだけでなく、トレーニング用のジムにもなっていて、壁に剣道の構えを説明する図が貼ってあり、アリの巣を観察できる飼育ケースも置いてあった。衣装部では、撮影用のアントマン・スーツやヘルメットなどが並んでいた。
幻のエドガー・ライト版『アントマン』…脚本が完成するまで
『アントマン』はもともと、『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』のエドガー・ライトが監督する予定だったが、ライトが準備段階で監督を降板。主演のポールらが脚本を書き直し、最終的に監督には『チアーズ!』や『イエスマン “YES”は人生のパスワード』のペイトン・リードが抜てきされた。
ポール:「脚本はもともとエドガー・ライトとジョー・コーニッシュ(『アタック・ザ・ブロック』)によって書かれたんだ。それは素晴らしかった。マーベルとエドガーの組み合わせはうまくいっていないんじゃないか、と報道されてきたけどね。でも結局作品の撮り方に関してエドガーはマーベルと意見が食い違って、この作品を去ることになった」
ポール:「そしてエドガーが去った後、こっそり書かれた他の脚本が出てきた。そこにはマーベルが入れたいと思っていたいくつかのアイデアが組み込まれていたほか、エドガーの脚本から残っているものもいくつかあった。でも僕たちはみんな、その脚本が複雑過ぎると感じた。そして、ほかの監督を見つけようとしていたとき、以前僕が一緒に仕事をしたアダム(・マッケイ)が会いに来てね。僕らはこの本をどういう方向に持っていくかについて話し合った。それでたまたま僕らが、脚本を書くことになったんだ」
これまでのマーベル映画とは一味違う!人間関係に重点
『アントマン』はミクロの世界を舞台にした久々の映画だが、同作の魅力はそれだけではないとポールは言う。
ポール:「体が小さくなるというアイデアや、そういう視点で物を見るというのはとてもクールだ。なぜなら『ミクロキッズ』(1989)の時代から、テクノロジーや映画作りは格段に進歩したからだ。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の宇宙を見ると、それは完全に別世界で魅力的で実に美しい。今作を観た観客が、全く同じような経験ができることを願っている。宇宙の代わりに床板の間やカーペットが出てくるんだけどね(笑)」
ポール:「でもこの映画で僕が期待していることは、人々がある先入観を持って観に行ってそれが完全に崩されるということだ。なぜなら、この映画は人間関係やドラマといったストーリーに重きを置いている。親子関係とかにね。そういったことはマーベル・ユニバースの一部じゃない(笑)。僕たちが語っているストーリーには、感情的にとても引き込まれるところがあるんだ」
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を観てぶっ飛んだ名優マイケル・ダグラスがヒーロー映画に参戦
ハリウッドを代表する名優マイケルにとって、今作は初めてのスーパーヒーロー映画だ。最近はロバート・レッドフォードやグレン・クローズといった名優たちもマーベル作品に出演しているが、マイケル自身はマーベルから出演のオファーがきたときはどう感じたのだろうか?
マイケル:「『ワーオこれは楽しくなるぞ』って思ったよ。そのときちょうど『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を観た後だったし。IMAXの3Dで観てぶっ飛んだんだ。あの作品のユーモアのセンスが大好きだった。それから『アントマン』の脚本を見たら、彼らが同じトーンでやろうとしているのがわかった。アドベンチャーとコメディーのひねりが合わさったコンビネーションが感じられたんだ」
マイケル:「声を掛けてくれてうれしかったね。(役者は)常に求められていたいものなんだ。そしてポールがアントマンになると知った途端に、笑みがあふれてきた。ポールは常にシーンを終わらせる何か(決めぜりふとかジョーク)を見つけようとする。彼は素晴らしいよ。僕にとって、この作品は全く違う環境で何かをやるチャンスだった。ここに来るまで僕は、人生でブルースクリーンを見たことがなかったんだよ」
ハンクとホープの父娘の関係に魅了されたエヴァンジェリン
エヴァンジェリン演じるホープは、知的で男勝りのヒロインだ。格闘技が得意なホープがスコットを鍛えるシーンも楽しいが、物語が進むにつれ、ホープとハンクの父娘の関係がドラマを盛り上げていく。
エヴァンジェリン:「能力があって知的で強くて、同時に傷つきやすくて、同情心があって、エモーショナルな女性の役を見つけるのはわたしにとって重要なことなの。なぜなら、そういうのは、女性の美しくてパワフルな側面だと思うし、わたしたちが恥ずかしがることじゃないわ。もっと見せびらかすべきことね」
エヴァンジェリン:「ホープは父親ととても悲劇的な関係を持っていて、父親にとても憤慨している。でも彼女の中の小さな女の子が、ものすごく父親を欲しているの。わたしにとっては、それがこの映画でもっとも興味深い点だったわ。ホープとハンクの間の、素晴らしく、とても複雑な関係がね」
まとめ
『アントマン』は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で成功したコメディーのタッチをさらに推し進めながらも、アクション、家族ドラマ、ラブストーリーの要素をバランスよくちりばめた、実にウェルメイドなハリウッド映画に仕上がっている。そして何より、ポールの愛嬌(あいきょう)があってとぼけたヒーローぶりがいい。アリたちとの交流を描くミクロの世界の映像も秀逸。毎回、違うトーンの作品作りに挑み続けるマーベル。失敗を恐れないチャレンジ精神が、打率10割という奇跡的な成功を支えているのは間違いないだろう。
映画『アントマン』は9月19日より全国公開
(C) Marvel 2015
【今月のHOTライター】
■細谷佳史(フィルムメーカー)
プロデュース作にジョー・ダンテらと組んだ『デス・ルーム』など。『悪の教典 -序章-』『宇宙兄弟』ではUS(アメリカ側)プロデューサーを務める。