第6回:頭の中をのぞこう!
『インサイド・ヘッド』特集:ピクサーの頭の中
映画『インサイド・ヘッド』の舞台は頭の中。『カーズ』や『ファインディング・ニモ』では、カーレースや海の生物などの参考資料を基に作品を作り上げてきたピクサーが、今回作品作りのために調べたのは、ずばり頭でした。
■感情が働く理由
プロデューサーのジョナス・リヴェラは、脳科学者にアプローチしたことで「感情を持つことには理由がある」という基本的なアイデアが作品にもたらされたと語ります。「機能的、臨床的な理由と定義があるんだ。もしも犬が誰かをかんだら、それ以降その人は自分の身を守るために犬を怖がるようになる。安全のためにね」。
「感情」を、人が最も意識するのは「感情が邪魔になるとき」だとピート・ドクター監督は言います。監督は人を怒鳴ってしまった分、人は感情に任せて行動したという後悔も味わうと考えるようになるといい、「感情が手助けになる」と思う人はなかなかいないと説明します。実際「感情をコントロールして」などの表現は、感情的になることはネガティブであるという前提で使われることが多いですよね。
また映画のリサーチを進めていく中で、制作陣は「自分たちが思っているほど、人は感情をコントロールできていないんじゃないか」という考えに至ったそうです。そのアイデアが、ライリーの頭の中で駆け回る感情たちを生み出しました。
■脳細胞に色をつけてみる
キャラクターから、セット、特殊効果、照明などさまざまな部門に携わっているプロダクションデザイナーであるラルフ・エグルストンは、頭の中の世界を想像するために、自身の自分の体に特別な染料を注射して、脳を撮影してみたとのこと。その写真には、カラフルなニューロン(神経細胞)が映し出されていました。この写真は脳と虹を掛け合わせて「ブレインボー」と制作陣から呼ばれていたそうです。
このような挑戦を行うのも、観客に自分たちが考えた頭の中の世界を伝えるため。その結果、色とりどりなコンセプトアートが出来上がり、頭の中の世界は彩られていったのです。
■脳科学者から学び、製作者のフィルターを通す
エグルストンによるとこの作品を作るために、8人~10人の神経科学者たちと話したそうです。しかし科学者から学んだことはそのまま作品に出すのではなく、自分のたちの想像力のフィルターを通すことが必要だといいます。
「これは感情についての映画です。僕らはフィルムメーカーとして、自分たちの感情を頼りにしないといけなかったんです」(エグルストン)。この映画の中では、心や脳などが複雑に絡み合った世界が出来上がっています。この作品を観た観客に、自分たちの作った世界を信じてもらうため、自分たちの感情を理解し作品作りに生かすことが制作陣にとっての課題だったのかもしれません。
■頭の中の世界と現実の世界の区別
劇中に出てくるアイテムやキャラクターの一つ一つに着目してみると、脳に関係している作りになっていることがわかります。
例えばヨロコビ達が乗る「考えの列車」。脳細胞は電気信号で情報を伝達するため、石炭列車ではなく、電車としてデザインされています。またキャラクターからは泡や粒子が出ています。これはエネルギーのイメージからでした。
さまざまなアイテムやキャラクターが出てくる頭の中の世界ですが、本作にはそれ以外のライリーたちが暮らす現実の世界も出てきます。この世界との区別を明確にするために、制作陣が用いたのは、彩度の違いだったそうです。頭の中の世界はとてもカラフルで彩度はとても高く、現実世界はそれに比較すると彩度が低くなっています。
また頭の中の世界のものは、現実世界よりも夢の世界のように作ったそう。劇中に登場する映画の製作スタジオは、いくつかのハリウッドのスタジオを合わせてデザインされています。その結果ウォルト・ディズニー、パラマウント・ピクチャーズ、MGMなどいろいろな映画スタジオをイメージさせる一方で、よく見るとそのどれにも当てはまらない、まさに夢のスタジオが出来上がりました。
映画『インサイド・ヘッド』は全国公開中
作品情報
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