第7回:古参アニメーターが語るピクサー
『インサイド・ヘッド』特集:ピクサーの頭の中
ピクサーの初長編アニメーション作品『トイ・ストーリー』が全米公開されてから20年。当時からピクサーを支えてきたアニメーターのショーン・クラウスとヴィクター・ナヴォンがピクサー作品について語りました。
■『トイ・ストーリー』制作後に生まれた人たちと仕事している今
Q:『トイ・ストーリー』が公開から20周年を迎えました。今のお気持ちはいかがですか?
ショーン・クラウス(以下、ショーン):最も素晴らしいことは、僕らがこんなに長い間ここにいて、これだけたくさんの映画を作ることになったことです。夢にも思っていませんでした。『トイ・ストーリー』が公開されたときは、僕らが作品を気に入っているように、人々も作品を好きになってくれるかどうかはわかりませんでした。それからもう一つ少しそわそわしてしまうのは、『トイ・ストーリー』が作られた当時まだ生まれていなかった人々を、今ピクサーが雇っているということです(笑)。僕らはそれだけ年を取ったということですね(笑)。
Q:ほとんど全てのピクサー作品の仕事に関わってこられたということですね。
ショーン:たくさんの作品に関わりました。
ヴィクター・ナヴォン(以下、ヴィクター):そう、たくさんね。少なくとも10本は手掛けました。
Q:お二人ともでしょうか?
ショーン:そうだね。ヴィクターは『ウォーリー』をやったけど、僕は『ウォーリー』と『モンスターズ・インク』には参加していない。
ヴィクター:ショーンは『カールじいさんの空飛ぶ家』や『レミーのおいしいレストラン』をやったけど、僕はそれらの作品には参加していない。
ショーン:いや、僕も『レミーのおいしいレストラン』には参加していないよ。
ヴィクター:オッケー。でもほとんどの映画に参加しているということです。
ショーン:(笑)。
■一番思い入れのある作品
Q:関わった作品の中で、最も思い入れのある作品はどれですか?
ヴィクター:この映画(『インサイド・ヘッド』)だと言わざるを得ないです。この映画を宣伝しているから、そう言っているというわけではないですよ。この映画は僕個人としても、最も誇りに思っている作品なんです。『Mr.インクレディブル』や『ウォーリー』の仕事もすごく楽しかったですけどね。
ショーン:僕も同じです。僕は二つの見方をしています。リード・アニメーターとして、そしてアニメーターとして。この映画は本当に素晴らしいと思います。なぜなら繊細な人間的なアニメーションと、漫画的なアニメーションの両方がある作品だからです。チームとしてそういうことを手掛けた素晴らしい映画です。でもアニメーターとしては、『Mr.インクレディブル』と『ファインディング・ニモ』が最もやりがいのあった作品だったと思います。特に『Mr.インクレディブル』は。ブラッド・バード監督はすごくダイナミックで、僕ら全員があの映画の仕事にすごく興奮していました。
■『インサイド・ヘッド』で最も大変だったシーン
Q:この映画で最も大変だったシーンはどこですか?
ヴィクター:ヨロコビが記憶のゴミ捨て場にいるときに泣きだしてしまうシーンです。あのショットはダヴィ・アンダーソンという一人のアニメーターが担当しました。あのショットにどれだけかかったと思いますか? 何か月もかかったんですよ。
ショーン:多分、2か月くらいね。
ヴィクター:あれは、この映画で最後に出来上がったシーンの一つだったと思います。そのシーンの他にも、一人のアニメーターが全部を手掛けたショットがあります。それは初めの方のシーンで、ライリーが初めて学校に行く日に、ヨロコビが他の感情たちに向かってその日どういうことをするかということを興奮して話している部分です。約1分間のシーンですが、全てのキャラクターの動きを1人のアニメーターが手掛けました。
■ピクサー、ソニーからアニメーターを雇う
Q:今回のアニメーションがとても漫画的だとおっしゃいましたが、今作は、デフォルメされたキャラクターの動きの面白さをしっかり楽しめる作品だと思います。ピクサーのアニメーションについて教えてください。
ショーン:『モンスターズ・インク』とか過去の作品ではアニメーターたちは、今のトレンドでもある自分たち自身(が演技しているところ)を録画して、その演技をそのままアニメーションに取り込もうとしていると感じます。だからアニメーションを極端に漫画的な表現で描くことは、自然ではないと思ってしまうんです。そんな傾向がありましたから、僕らは他の会社から多くの人々を雇ったところなんです。
ヴィクター:ソニーからね。
ショーン:そう、ソニーから。彼らは極端に漫画的でした。僕らよりもずっとね。彼らは、表現方法をもっと極端にやっていたんです。そんな表現方法をする彼らは素晴らしかったですけれども、彼らの仕事を、もう少し現実に基づいたものにしないといけなかった。
ヴィクター:一般的にピクサーのアニメーションは、もっと自然主義的な傾向がありますからね。
ショーン:いろいろな分析に基づいているんです。
ヴィクター:でもこの映画は、僕らがこれまでに手掛けた作品の中で最も漫画的な映画です。だから僕らピクサーにとってチャレンジでした。これまでそういうのをやったことがない人たちは、どうやれば漫画的なスタイルができるのかを学びました。漫画的な表現の経験がある人々は、より信ぴょう性があるものにするために、どうやれば漫画的な表現を抑えられるかを学んでいます。この二つの表現が、面白いバランスで成り立っているんです。
■20年の歴史が培ったピクサーの自信
Q:本作では現実世界じゃない頭の中の世界と、人間たちが過ごす現実世界をアニメーション化しています。どちらが大変でしたか?
ヴィクター:どちらも大きな挑戦だったと思います。でも僕らにとっては、頭の中のキャラクターたちの方が、より難しかったといえるでしょうね。なぜなら、これまでそういうものを取り扱ったことがなかったからです。人間の世界にも、間違いなくエモーショナルで挑戦的なシーンはありました。でもここピクサーでは、そういうものを描くことに関してはかなりの歴史があります。だから、その部分についてはどうやればいいかはわかっていたんです。
映画『インサイド・ヘッド』は全国公開中
作品情報 公式サイト
(C) 2015 Disney / Pixar. All Rights Reserved.
取材・文:編集部・井本早紀