『ギャラクシー街道』三谷幸喜監督&綾瀬はるか 単独インタビュー
つい物語の主人公になろうとしてしまうのが恋
取材・文:相田冬二 写真:吉岡希鼓斗
三谷幸喜監督の最新作『ギャラクシー街道』は、宇宙のハンバーガーショップを舞台に繰り広げられる、奇想天外なSFシチュエーション・コメディー。多種多様なキャラクターたちの恋が見つめられる群像劇でもある。夫ノア(香取慎吾)と共に、店を切り盛りする妻ノエを演じた綾瀬はるかが、三谷監督と「恋愛」をテーマに語り合う。かつて『ザ・マジックアワー』でも組んでいるだけに、息もぴったり。三谷監督が綾瀬に問いかける自然なムードで始まった。
かわいく食べる姿を撮りたかった
三谷幸喜(以下、三谷監督):映画、どうでしたか?
綾瀬はるか(以下、綾瀬):アニメで始まるところとか、かわいい印象がありました。
Q:この映画で描かれている男心もかわいいですか。
綾瀬:よく「男の人は……」って言うじゃないですか。「昔の彼女は、いつまでも自分のことを思っている」って。やっぱりみんなそうなのかなと思って、観ていました。
三谷監督:女性は違いますか?
綾瀬:そこまでは思わないと思います。ただ、「自分が相手のことを忘れられないからこそ、相手が自分のことを忘れられないでいると思いたい」という心理はわかるし、女性にもそういう部分はあると思います。
Q:ノアは、綾瀬さんふんするノエのハンバーガーを食べる姿に惚れて、付き合い、結婚しますね。
三谷監督:舞台をやったときに、長澤まさみさんから「綾瀬さんは本当に食べる姿がかわいいから、絶対そういうシーンを作ってください」って言われたんです。
綾瀬:『海街diary』でご一緒したとき、「はるかちゃんって、気付いたら食べているよね」と言われて(笑)。「何食べてもおいしそうに食べる」とよく言われます。ただ、食いしん坊なだけだと思います(笑)。
Q:三谷さんご自身はノアのように、キレイにものを食べるからその女性を好きになるということはありますか?
三谷監督:あまりそういうことはないんですけど、自分が食べている姿が汚いとか言われたらショックですから、それは気を付けようと思ったことはあります。ハンバーガーはカッコつけて食べるものじゃないから、難しいんですけどね。
悲劇のヒーローは雨に濡れて帰る
Q:香取さんは、「ノエのおかげで夫婦関係が成り立っているのに、自分がいなきゃとか、自分が守ってやらなきゃと思っている。ノアはダサいけど、男ってそういうところがある」とおっしゃっていました。
三谷監督:ノアさんもそうだし、この映画に出てくる男性は全部、僕なんですよね。僕の気持ちがそのまま投影されている。あんなヤツですよ。
綾瀬:ふふふ。
三谷監督:小栗(旬)さんの役(自分がヒーロー・キャプテンソックスであることを恋人に告白するハトヤ隊員)も僕ですからね。
Q:ハトヤ隊員も、告白して恋人のマンモ隊員(秋元才加)に驚かれるものだと思い上がっていると、逆に驚くような事態になるという。
三谷監督:自分がヒーローでありたい、常に自分は物語の主人公のつもりなんだけど、実はそうではないということはありますからね。とことん悲劇のヒーローになりたい。だから、これくらい堕ちたほうがカッコイイんだと。そういう自分の美学みたいなもので、ヒドい目に遭ったことはあります。雨の日、傘を持っていないのにあえてずぶ濡れで帰るとか。傘を買えばいいのに、あえて濡れて帰る。そうすると、ちょっと悲劇っぽくなりますよね。
Q:傷心の状況に酔っちゃうというか。
三谷監督:そういうの、ないですか?
綾瀬:思い出せないけど、あったような気がします。
三谷監督:じゃ落ち込んだとき、土砂降りになったら、傘買いますか? 買わずに濡れて帰りますか?
綾瀬:おうちまでの距離にもよりますけど(笑)。近かったら、「ま、いいや」って落ち込んで帰るかもしれない。結構距離があったら、風邪引くとか、洋服が濡れるとか考えると……。
三谷監督:現実的ですね。
Q:落ち込むときはとことん落ち込みますか。
綾瀬:とことん落ち込むかもしれないです。
三谷監督:落ち込むときとかあるんですか? 全然そういうイメージがないので。
綾瀬:ありますよ! たまにですけど。
三谷監督:悔し泣きすることあるんですか。「チクショー!」みたいな。
綾瀬:マネージャーさんと話していて、一本取られて返せないとき、「悔しい!」 って。
三谷監督:ずっと?
綾瀬:家に帰る途中も「悔しい!」って。
三谷監督:そのとき雨が降ってきたら、傘買う?
綾瀬:それは距離によります(笑)!
恋はメールの一文一文をも悩ませる
Q:三谷さんは、落ち込むときは落ち込むほうですか。
三谷監督:僕はあまりないんですよ。仕事がうまくいかないとか、うまくできないということはありますけど、人間関係で落ち込むとかって、実はそんなになくて。学生の頃、女性に振られることもありましたけど、あまりそのこと(振られたこと)に気付いていないというか。僕が付き合っていると思っていた女性がいて、その人が別の男性と歩いているのにバッタリ会ったときがあったんです。彼女に「ごめんなさい。わたしは三谷さんと付き合っているつもりはなかったの」と言われて。
綾瀬:えー!
三谷監督:「わたしはこの人と付き合っているんだ」と面と向かって言われたんですけど。そのとき僕が思ったのは、彼女は相手の男の人に気を遣ってウソをついた、と。
綾瀬:(笑)。
三谷監督:「なるほど、そういうことね」と。「わかった、わかった」と納得して(笑)。それで全然落ち込まなかったんです。むしろ「絆が深まった」「僕らはそれだけわかり合った仲なんだ」と思っていましたね。
綾瀬:すごくポジティブなんですね。
Q:綾瀬さんはどうします? そんなことになったら。
綾瀬:相手によるかもですけど、三谷さんのように自分の良いように考えるところ、あるかもしれないです。でも、まだ信頼関係が築けていなくてそういうこと(二股)しそうな相手だったら、引いちゃうと思います。
三谷監督:本当に信頼している相手だったら、「ひょっとしたらこれは、わたしに気を遣っているんじゃないか」と思うよね。
綾瀬:じゃなかったら「ドッキリ」かなと(笑)。あとで喜ばせるために、わざと落として上げる、みたいな。相手を信頼していたらそうなると思います。
三谷監督:僕はそのとき、周りのみんなに相談したんだけど「お前は付き合っていたのか?」と聞かれて「もちろん。一緒にコーヒーを飲んで、映画も観に行った」と言ったら「それは付き合っていることにはならないんだよ」と。そこで初めて「ああ、そういうことだったのか」と理解できた。でも、彼女を恨んではいないですよ。
Q:綾瀬さんは友達に恋の相談をするほうですか?
綾瀬:すっごくします。「こういう内容のメールが来たんだけど、どういうことだと思う?」「この言葉は、どういう心理で送っているんだろう?」って。
三谷監督:メールは難しいですよね。その人が思っている30倍ぐらい、大きく受け取ってしまいますから。顔文字も、もっと深い意味があるんじゃないか? とか。男性心理のことなら、僕が相談に乗りますよ(笑)。
のっけからインタビュアーのようだった三谷幸喜監督は、あるときはホストとして、あるときはゲストとして、軽快かつ柔軟に、綾瀬はるかをもてなしていた。リラックスしたムードが、自然に恋の話をするムードにつながり、綾瀬も終始笑顔が絶えない。三谷監督の話術を垣間見、綾瀬の魅力を再確認するひとときだった。
映画『ギャラクシー街道』は10月24日より全国公開