『ピンクとグレー』中島裕翔インタビュー ~よく事務所がこの脚本にOK出したなとドキドキでした~
芸能界の嘘とリアルを巧みに描く加藤シゲアキ(NEWS)の小説デビュー作を映画化した『ピンクとグレー』。本作で映画初出演にして主演を果たした中島裕翔(Hey! Say! JUMP)は、メガホンを取った行定勲監督から「ポテンシャルがすごい」と評価された並外れた許容力で、共演の菅田将暉や夏帆らと激しくぶつかり合う演技を見せた。この作品でなければ、きっと挑めなかったであろう、衝撃的な場面の数々に彼の俳優としての覚悟がうかがえる。大人気スター・白木蓮吾にふんしながら、その光と影に触れ、実際、芸能界に生きる彼の心にはどんな思いが去来したのだろう。
Q:原作は読みましたか?
もともと母親から勧められていたので読みたいと思ってたんです。そんなときドラマの番宣で大失敗してダメ出しを受けた後、マネージャーから原作を手渡されたんです。てっきり「感想文を書け」ってことなのかなと思ったんですが(笑)。ずいぶん経ってから映画出演のお話をいただいたので「読んでおいてよかった!」と思いました。その前にもアイドル誌で加藤(シゲアキ)くんと対談することもあったりして、何か縁があるなとは感じていましたね。
Q:小説の方は、映画の主人公であるごっちこと白木蓮吾の親友・河田大貴の言葉で描かれていますよね。
小説は河田大貴目線で書かれているので、彼の葛藤もそうだし、芸能界の話でもあるので自分に重ねて読んでいるところはありました。でもすごく難しくて、内容を全部理解できているかといったら僕の頭では到底無理で(苦笑)。映画の話を聞いたときはやっぱり、最初に「どっちをやるんだろう?」と思いました。蓮吾をやるって聞いたときはびっくりしてなかなかなじめず混乱しました。映画自体、初出演で初主演。しかも重苦しいシーンやギターを弾いたり、やることがたくさんある。ギターはもともと弾けたからよかったけど「普段、やってることが意外と生きてくるんだな。充電(期間に行ったこと)って無駄じゃないんだな。大切なんだな」と思いました。
Q:自分としては蓮吾、大貴、どちらのタイプだと思いますか?
あんまり、ネガティブなイメージがありませんが……。 いや、すごいネガティブですよ、僕って。自慢できることじゃないか(笑)。ネガティブに思っておけば、成功したときの喜びが倍になるって考える究極のネガティブです。褒められたりすると調子に乗っちゃうところがあって、それで嫌な思いをしたこともあるから、最近はそう思わないようにしよう、つつましく生きようと心掛けるようになりました。願ったりしない方が(運が)巡って来るんじゃないかって思いますね。例えばジャニーズの舞台で「殺陣、やりたいな」と思っても選ばれなかったりする。だから望まないでそれに向けて準備していればやがて自分の番が回ってくるんじゃないかと思うようになったんです。また本作での暗いシーンはネガティブな気持ちを存分に引き出して臨みました。逆に高校時代のシーンはネガティブな心情から解放されていました。「明日は高校の方だね!」って将暉と楽しみにしてました。
Q:菅田さんと本当に仲が良いそうですね。影響や刺激を受けたことはありますか?
お芝居をやってるときは常に刺激を受けていました。将暉はやりたいことがあって、それをリハーサルや本番で監督に見せるんです。ことごとく外れこともありましたけど(笑)、監督から「やりすぎ」とか言われてもめげずにエネルギッシュにぶつけていく。その度胸はさすがだと思いました。撮影以外でも仲が良くて、釜山国際映画祭に行くときは悪天候で飛行機が遅れたんですが、その間、何時間もずっと一緒にギターをいじって遊んでいました。僕はドラムができるので「セッションしたいね」って話してるんです。後は古着屋にも一緒に行きたい。彼はいつもかっこいい服を着てるんですよ。影響受けまくりです。年齢は同じだけどお兄ちゃんみたいな感覚です。その一方で、僕は10歳のときに事務所に入って訳もわからずやってきたようなところがあるので、ちゃんと俳優をやってる彼には負けられないなと意識を強くするところもあります。要は大好きってことです(笑)。
Q:今回は俳優として、ぶつかり合っていました。アイドルとは思えない場面にも挑戦していますね。
とりあえず、かっこつけない。それが第一の目標でした。といっても演じている白木蓮吾はかっこいい人なので、結局出ちゃうんですけど。例えばPVのシーンなんかは、監督にディレクションされて「わかりました。恥ずかしいけどやってみます!」と言ってはみたけれど、その場ですぐできちゃったんですよね。柳楽(優弥)くんも同じようにやってみてたけど、恥ずかしがるんです。僕がやってることって特殊なんだな、普通じゃないんだなって気付かされました(笑)。でもそこくらいですかね。蓮吾は割とかっこつけたり、すましたりするけど、せりふの言い回しなどは自然だったから。僕の個人的な解釈なんですけど、映画ってドラマほどあざとくないというか、自然な芝居のイメージが強い。もちろん、そうじゃない作品もあるとは思いますが、今回は自然さを心掛けたいと思ったんです。それってジャニーズというかアイドルっぽくない芝居にたどり着く。特に誰ってことではなくてイメージなんですけど、アイドルらしさは打破したいと思っていました。
Q:脚本を読んだときに躊躇(ちゅうちょ)しなかったですか?
「これやっていいんだ。よく事務所がOK出したな」とドキドキでした(笑)。僕にはプラスなことですが、初めてのことだらけなんです。キスシーンはこれまでも何回かありますけど、今回はベッドシーンがある。お酒を飲んだり、タバコを吸ったりするのもそう。普通の人が普通にやることでも僕らの立場的には新鮮で、こういう映画でないとできません。かなりびっくりする方がいらっしゃると思うんですが、まあ作品は作品、この中の役でやっているのでそこに衝撃を受けないでほしいですね。
Q:ファンの存在が頭をよぎりましたか?
撮影しているときは思わなかったけど、やった後に考えました。「あれ、そういえばこれ大丈夫かな」って。でもそこで戸惑ったら本末転倒だと思うんですよね。もし自分が誰かのファンならその人のやりたいことがやれなくなるのは悲しいこと。好きならその俳優の進化を見届けたいじゃないですか。僕はアイドルと俳優をやっているけれど、今回共演した人は皆さん俳優業を中心に活動されている方々。アイドル映画にならないよう、しっかり混じり合いたかったから、僕としてはこの作品でいろいろやれてよかった。行定さんが妥協しない監督で本当によかったと思っています。
Q:行定監督の撮影現場はどうでしたか?
感覚としてはやりやすかったです。求められていることがだんだんつかめてきたから。考えて持って行っても結局無駄になったりすることもあったから、僕としては現場で作っていく方が好きですね。でもどんどんやることによってそのシーンのことをより咀嚼(そしゃく)できる一方、何回かやるとこなれてしまうところもある。何かを知っていてやるとリアルさがないから、それはまた難しい線引きですよね。最終的に判断するのは監督なので。自分でもわからないまま、想像の範疇(はんちゅう)でやっているところもあります。全部を理解しているわけじゃない。それは自分の経験の浅さからくるものだから、作品として合っていればそれでいいと思っています。
Q:今後はどんなことに挑戦していきたいですか?
なんだろう。軍人の役や丸刈り頭もやってみたいです。あ、でも、太ったりやせたりはちょっと……。過酷だと思うん ですよね。鈴木亮平さんなどすごいなって思いますけど、僕にはあんなストイックなことはできないなぁ。それでも努力はしたいと思います!
実際に会ってみると、中島裕翔は笑顔がキラキラとまぶし過ぎるほどで、誰からも愛されるだろう、華やかなキャラクターだ。もちろん自分でネガティブと認識するくらいだから、その胸中はそうシンプルではないのかもしれないが、話を聞く限り、自称・ネガティブはかなりポジティブ思考。そんな生粋のアイドル気質の彼が俳優としてあらわにしたのは、テレビの枠には収まりきれないこれまで隠し持っていたのであろう表情の数々。俳優としての彼は非常に貪欲な印象で、いったいこれからどうなっていくのだろうと今後が楽しみな存在である。(取材・文:高山亜紀)
©2016「ピンクとグレー」製作委員会
映画『ピンクとグレー』は全国公開中