第8回:藤井まゆみのとまとさんの言うとおり!? - 2016年1月公開作品編
とまとさんの言うとおり!?
アメリカの大手映画レビューサイト Rotten Tomatoes の批評家満足度を基に、1月公開作品をランキングでご紹介。さらに Rotten Tomatoes の批評家たちが選んだベスト5に対して、ニコニコ生放送「元祖シネマざんまい」にも出演している映画コメンテーターでモデルの藤井まゆみが、独自の視点で切り込みます!
第1位:『パディントン』 批評家満足度:98%
第2位:『イット・フォローズ』 批評家満足度:96%
第3位:『ブリッジ・オブ・スパイ』 批評家満足度:91%
第4位:『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』 批評家満足度:91%
第5位:『サウルの息子』 批評家満足度:90%
『パディントン』
ペルーのジャングルでイギリス紳士のように育てられたクマ“パディントン”。自身の住む場所を見つけるためにはるか遠くのイギリスに渡った彼は、慣れない都会で大騒動を起こす。ベストセラー児童小説を映画化した本作は、ファミリームービーらしく起承転結がはっきりしていて先が読みやすい。しかし、赤の差し色が目を引くロンドンらしいファッションで鮮やかに彩られ、子供向けのドタバタ喜劇的な笑いと感動が心地よく最後まで見飽きることはない。ウディ・アレン監督の『ブルージャスミン』でアカデミー賞助演女優賞ノミネート経験のあるサリー・ホーキンスを含めた豪華キャストによる演技も良い。『007』シリーズのQ役で今注目のベン・ウィショーが声を担当するクマのパディントンの人懐っこいキャラクターは、愛さずにはいられない。
『イット・フォローズ』
ユニークなストーリーで話題になり、今年全米で大ヒットした「性感染サスペンスホラー」が日本上陸。性行為で感染する“それ”は、姿をいろいろと変えて自分に向かってやってくる。感染者は“それ”に捕まり死んでしまう前に、誰かにうつさなければ助からない。感染してしまった19歳の少女ジェイ役は、『インデペンデンス・デイ』の続編『インデペンデンス・デイ:リサージェンス(原題)』に出演し、注目を浴びているマイカ・モンロー。スクリーンで輝く彼女の才能から最後まで目が離せない。またセットや小道具、ファッションやヘアメイクなど至る所に1970年代風のテイストが見られ、クラシックホラーの雰囲気で満たされつつも、あくまで現代が舞台の物語であるというアイデアが新しい。しかし映像のオシャレさに引っ張られ、テンポが一本調子になっているため、恐怖を感じるのが後回しになってしまう。ホラー的な「仕掛け」を見逃さないようにご注意。
『ブリッジ・オブ・スパイ』
アメリカとソ連が冷静状態だった1950年代~1960年代、逮捕されたソ連側のスパイを弁護することになったアメリカの保険専門弁護士、ジェームズ・ドノヴァンの実話を基にしたドラマ。監督はスティーヴン・スピルバーグ、脚本はジョエル&イーサン・コーエン兄弟、そして主人公のドノヴァンを演じるのはトム・ハンクスという映画ファンにはたまらない完璧な構図。コーエン兄弟らしい妙なセリフ回しと空間にちりばめられた笑いで、登場人物全員のキャラクターを魅力的に描いている。交渉上手な性格ゆえに必要以上にリスクを背負うことになるドノヴァンと彼のクライアントである敵国スパイの交流や、家族の物語が丁寧に描写されており、スピルバーグらしい心温まるヒーロー映画である。ソ連スパイのルドルフ・アベル役のイギリス出身の舞台俳優マーク・ライランスの存在感は偉大。
『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』
リーマン・ショック後のアメリカが不況の時代に住宅ローンを払えなくなり、マイホームから強制退去させられた人たちの実話を基に描いたサスペンスドラマ。世界の99%が貧困に悩み、残り1%だけが富を得る皮肉な昨今の経済問題を、ドキュメンタリータッチの映像と役者の過激すぎない自然な演技で映し出す。一軒ずつ家を奪っていく非情な不動産ブローカー役で、こわもてのマイケル・シャノンが怪物的な演技力を発揮。またアンドリュー・ガーフィールドが演じる、住む家を追い出されて必死にもがく無職のシングルファーザーが、目先の金に目がくらむある意味まっすぐな姿は作品にスパイスを与えてくれる。道を踏み外していく主人公の葛藤を中心に、無駄を省いたスリリングなストーリー展開に釘付けになる。
『サウルの息子』
1944年のアウシュビッツ=ビルケナウ収容所で、ユダヤ人の死体処理をする「ゾンダーコマンド」の任務に就くハンガリー系ユダヤ人のサウル。彼は収容所内で殺された息子らしき少年の姿を見つけ、手厚く埋葬してやりたいとユダヤ教の聖職者を探す行動に出る。第68回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した本作は、背景をほとんど映すことはない。ナチスに脅かされながらも無の表情を崩さない主人公サウルの顔と後頭部が、クローズアップの長回しで撮られている斬新なスタイルだ。映画を観る側が、まるで収容所でナチスに強制されているかのような感覚に陥る臨場感もある。歴史上の大事件をラストまで感情的にならず芸術性を持って描いた、才能あふれる監督の今後に期待。
第1位:『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』
第2位:『パディントン』
第3位:『サウルの息子』
第4位:『ブリッジ・オブ・スパイ』
第5位:『イット・フォローズ』
2016年の一発目を飾るランキングに共通して言えるのは、さまざまな理由で必死な主人公がいること。今回は新年を娯楽性のある作品で迎えていただきたいと、観客を釘付けにするオープニングからの“引き込み力”とテンポの良さで目を見張った作品を上位にしたランキングとなった。『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』は、事実を基にリアルなアメリカ社会の一部分を、主人公の追い込まれる姿を通して一気に観せてくれた。招かれざる客であるクマによるドタバタ王道コメディー『パディントン』は、誰が観ても害がないハートウォーミングなストーリーと、センスの固まりのような映像美で魅了。『サウルの息子』『ブリッジ・オブ・スパイ』『イット・フォローズ』はクオリティーの高さゆえに、玄人好みな芸術映画として鑑賞したくなる作品だった。
◆ 藤井まゆみ Mayumi Fujii
Twitter:@mayumi_fujii
オフィシャルブログ:『藤井まゆみのシネマジャーナル』2010年に第一回 国民的"美魔女"コンテスト「美肌魔女賞」を受賞。以降、Team美魔女のメンバーとして各方面で活動中。大の映画好きがきっかけで6年間ロサンゼルスの映画留学を経験した豊富な知識を生かし、 "映画を観て美しくなろう!"をコンセプトに「美に効くサプリ」として映画を紹介する、映画 "ビューティ" コメンテーターとして活動をスタート。
【映画関連】
<記事>
・2013年5月~ 映画エンタメ情報『シネマカラーズ』、美に効く映画[サプリ]連載
・2014年12月~ トレンドミックスマガジン『VANITY MIX ヴァニティ・ミックス』、藤井まゆみの魔ジカルCINEMA 連載
【雑誌・広告】
2010年~ 光文社「美STORY」
2012年 小学館 「週刊ポスト」グラビア出演
2014年 ショップチャンネル 藤井まゆみプロデュース「BE GENE」
2014年~ 美サロ イメージキャラクター