3月の5つ星映画5作品はこれだ!【第82回:今月の5つ星】
今月の5つ星
今月はストーリーの奇抜さや奥深さが感じられるつぶぞろいのラインナップ! アカデミー賞が終わっても、映画熱は冷めない! これが3月の5つ星映画5作品だ!
笑って熱狂できるのに、怒りと空しさも感じさせる文句なしの傑作
アメリカのみならず世界の経済を破綻させた悪名高きサブプライムローンとそれに基づく債権の危険性を早くから感じ取り、多くの人々が家や財産を失う中で、世界経済が破綻する側に賭けて莫大な金を稼ぎ出した男たちを描いたエンターテインメント作。圧倒的な量の情報をシャワーのように浴びせ掛けながら、先見の明があったクリスチャン・ベイル、スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピットふんする一癖も二癖もあるキャラクターたちの目を通して、モラルなどどこにもないウォール街の腐敗ぶり、無能な格付け機関、貧困層を食い物にするローン業者の姿を抜群の疾走感で浮き彫りにするのはコメディー畑のアダム・マッケイ監督ならでは。良質なエンターテインメント映画として笑って熱狂できるのに、同時に怒りと空しさも感じさせる文句なしの傑作だ。第88回アカデミー賞で助演男優賞のほか、作品賞、監督賞、脚色賞、編集賞と作品の根幹を成す部門で多くノミネートされたのも納得。(編集部・市川遥)
映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』は3月4日より公開
奇妙な世界は現代社会の縮図?摩訶不思議な設定がクセになる
『ロブスター』
身柄を確保された独身者はホテルという名の矯正施設で45日以内にパートナーを見つけられなければ動物に姿を変えられ、森に放たれる……そんな非リア充真っ青なルールが存在する世界を描いた本作は、第68回カンヌ国際映画祭の審査員賞受賞作。『籠の中の乙女』に引き続き独自の奇妙な世界観を展開するヨルゴス・ランティモス監督だが、彼が描く世界は偏見や不条理に満ちた我々が生きる社会の縮図だ。生きるため、成功するために人間はどう行動するのか? 打算的な生き方は悪なのか? 愛は本当に私益的なものではないのか? 本作で描かれる極端な世界は、道徳や常識でガチガチに固まってしまった我々の思考にそんな疑問を投げ掛ける。そうした心奪われる設定に加え、一風変わったキャラクターも魅力的で、これまでのイケメンなイメージから一転、太ったどんくさい中年男性を静かな演技で魅せるコリン・ファレルをはじめ、レイチェル・ワイズ、レア・セドゥ、ベン・ウィショーらが演じたユニークなキャラクターたちは可笑しくもどこか悲哀を誘い、それぞれの不器用さが愛おしくもある。彼らが選択したように、もし自分が動物になるとしたら何を選ぶ? 鑑賞後にはそんなことを考えずにはいられない、クセになる一作だ。(編集部・吉田唯)
映画『ロブスター』は3月5日より公開
2回観て味わうべき衝撃!
『マジカル・ガール』
白血病の幼い娘の願いを叶えたい一心で無職の父があくどい方法に手を染めていくさまを軽やかかつスタイリッシュに描き切り、サンセバスチャン国際映画祭で作品賞と監督賞をダブル受賞した傑作。題材のわりに重い作風にならなかった利点は、笑える皮肉がちりばめられていることや、日本の漫画やアニメが好きなスペインの新星カルロス・ベルムト監督ならではの楽曲のチョイス。長山洋子のデビュー曲「春はSA-RA SA-RA」に合わせて娘が踊るなど、ポップな要素満載。音楽は時に劇中に登場するキャラクターの性格を表し、自分と自分以外の向こう側の境界線を表現するなど、ただのBGMではなく、ストーリー上欠かせない重要な役割を果たしている。物がキャラクターの心情や決意を示す場面もあり、要素の全てが一体となった世界観を前に衝撃が走り、夢中になること必至。「あれは何だったのか?」と最後まで明かされない部分も多いが、不思議と消化不良にはならず、もう一度観たい衝動に駆られる。(編集部・小松芙未)
映画『マジカル・ガール』は3月12日より公開
タイムリープものにハズレなし!
『僕だけがいない街』
本作は、“リバイバル”という時間が巻き戻る不思議な現象に巻き込まれた主人公が、現在と過去を行き来しながら、自身の母親を殺害した犯人と18年前に起きた連続誘拐殺人事件の謎に迫るミステリー。原作は「ヤングエース」にて連載中で、未完の作品をどう映画化するのか? が要だったが、「天皇の料理番」でも高い評価を受けた平川雄一朗監督は『神様のカルテ』で観客の涙を誘った脚本家・後藤法子とタッグを組み、映画オリジナルの形でストーリーを完結させた。原作よりも色濃くなった悟(藤原竜也)と愛梨(有村架純)の微妙な関係や、物語の大部分を占める過去を担う子役たちの演技にも惹きつけられるものがあり、最後は「そういう意味か!」と思わず納得の結末。『バタフライ・エフェクト』『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』しかり、タイムリープものは面白いものが多いとあらためて感じさせられる。(編集部・中山雄一朗)
映画『僕だけがいない街』は3月19日より公開
美しい絵本が映し出す現代社会の闇
『父を探して』
第88回アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされたブラジル発のアニメーション。出稼ぎに出た父親を探す幼い少年の旅と共に、虐げられる農民や都会における孤独など現代の抱える問題をあらわにする。全編手描きによる繊細なタッチと独特の色彩感覚の本作。冒頭のカラフルな幾何学模様や、少年が豊かな自然の中で遊ぶシーンはまさに美しい絵本のよう。しかし、少年と父との別れが物語に突如として暗い影を落とし、少年の冒険は徐々に現代社会が抱える深い闇を映し出す。美しい絵本がその姿を変え、さまざまな問題を観客に投げ掛けてくる。機械のように働く人間、機械に仕事を奪われる人間、ピラミッドのような都会、クローン、ネット社会、ファストファッション、孤独……。抽象的に描写される現代への問い掛けは、観る者によってその捉え方も違うはず。子供向けだと思っていた絵本が、急に襲い掛かってくる感覚は他作品では経験したことのない異様なものだった。(編集部・海江田宗)
映画『父を探して』は3月19日より公開