三谷幸喜の頭の中!あの俳優のあんな姿を見たい…から始まる映画づくり
提供:ポニーキャニオン
劇作家・脚本家・映画監督としての顔を持つ三谷幸喜監督。ドタバタ喜劇の中に、ハートウォーミングで泣ける展開や奇想天外なストーリーを盛り込み多くの人を魅了し、数々のヒット作を生み出してきました。『ギャラクシー街道』の製作過程を聞きながら、三谷監督の頭の中をのぞいてみました。
◆<企画>この役者のこんなシーンを見たい!が原点
Q:監督の映画企画はどのようにスタートするのでしょうか?
僕の作品は、「次はこの人のこんなシーンが見たい」というところから始まります。『ギャラクシー街道』だと、香取慎吾さんの宇宙物が見たいという気持ちが最初の出発点でした。『ステキな金縛り』は深津絵里さんの上に幽霊の西田敏行さんが馬乗りになっている画(え)が、その前の『ザ・マジックアワー』は佐藤浩市さんが窓の外をトランポリンで上下運動しているという画が浮かんで。そこから話を考えていきましたね。だからまずは俳優さんありきなんです。
Q:『ギャラクシー街道』のアイデアはいつから?
6年前ですね。ニューヨークでミュージカル(「TALK LIKE SINGING」)を上演したときに、香取さんにオファーしました。僕の作品はけっこう寝かせている時間が長いんですよ。この作品も6年ごしですし。その間にいろいろな要素が出てくるんです。最初に考えていた企画は、だだっ広い宇宙船の中で香取さんしかいないというイメージで、彼の一人芝居のイメージでした。
でも、なんか宇宙を舞台に恋愛ものをしたいなという発想が後から生まれてきて。ほかにもヒロインの綾瀬はるかさんの食べる姿はすごくかわいいので、何か食べづらいものを食べさせてみたい。じゃあ、ハンバーガーがいいんじゃないか。宇宙のハンバーガーショップはどうだろうと。いろいろな要素がまとまって、練り上がるまでに6年かかりました。
Q:それでは何か一つに集中するというよりも、常にたくさんの企画や製作を同時進行で進めていらっしゃるのですね?
そうですね。もちろんほかの仕事も同時にいくつかしています。決まるときはドドドと勢いで決まることが多いんですよ。今回も偶然この時期に『ギャラクシー街道』として実ったという感じでした。
◆<キャスティング>俳優との別の仕事で次が見える
Q:俳優さんが何かしている画が浮かぶということでしたが、その俳優さんについて監督の中で何か基準があるのでしょうか?
例えば佐藤さんでいえば、初めてご一緒した12年前のNHK大河ドラマ「新選組!」で、自分の書くものと佐藤さんとの相性の良さをなんとなく感じまして。その時は僕ではなく、NHKさんのキャスティングだったのですけれども。その後『THE有頂天ホテル』で初めて演出家と俳優という形で仕事をして、すごくコメディアンの資質を感じたんです。彼もユーモアのある方ですし、次はこの人が主役の作品を作りたいと思って。なので一緒に仕事をして、そこで何か初めて見えた時に、その人で何か次をやりたいと思う感じなんです。
Q:『ギャラクシー街道』の主演である香取さんは?
香取さんと初めてご一緒したのは、「古畑任三郎」のSMAPの回でした。でも実はその時はまだ香取さんの良さに気付いていなかったんです。やっとこの人すごいなと気付いたのは、「SMAP×SMAP」で僕が本を書いた、木村拓哉さんが古畑を演じるパロディー企画でした。そのときに香取さんが演じたのが、日本人に見えるけれども実はブラジル人で日本語が全くわからないという犯人に間違えられる男の役で。本当に香取さんがそういう人に見える、いい芝居だったんです。それから香取さんで何かやりたいなという思いが芽生えて。その後がドラマかな。
香取さんはやればやるほど、次はこの人にこれをやらせたいという思いを必ず投げ返してくれる人ですね。その後もミュージカルや舞台でご一緒しましたが、またやっぱり香取さんで何かやりたいという気持ちが湧いてくるんです。一本やると、必ずその次が見えてくるものがある人です。
◆<脚本>この人が、こんなことをしたら面白い!
Q:監督は最初から俳優さんを想定して脚本を書く“当て書き”をされることで知られておりますが、脚本を執筆する際に苦労されたことはありましたか?
苦労はないです。当て書きって、「この人がこんなことをしたら面白いんじゃないか」という思いを本として書くので、そこに苦労はありません。でも唯一困るのは、当て書きという意味が間違って伝わっているんじゃないかというところで。その人自身がそういう人なんじゃないかと思われる方がいらっしゃるんです。『清須会議』でいうと、また佐藤浩市さんの話になりますが、彼の演じた池田恒興という武将はこずるくて、あっちについたり、こっちについたりする小悪党みたいな役なんですが、佐藤さんがそういう人ということでは全くないんです。少なくとも僕はそういう佐藤さんを知らないですし。佐藤さんがこういう役を演じたら面白いだろうなと思って書く。それが当て書きなんです。
わりとそのことを皆さんが誤解されているんですよね。役者さんも「三谷監督はわたしのことをすごく見抜いている」とおっしゃってくれたりして。うれしいんですけれども、そんな才能は僕にはないんです。その人の性格とかを見抜いて、役に反映させるなんて。そういうことはしたくないという気持ちもありますし、そうではないと思うんですよね。
Q:監督の作品はオリジナルがほとんどですが、もしも原作ものの依頼が来たらどうしますか?
どうでしょうか。僕はあんまり原作ものを自分で演出することはないですからね。近いのは前作の『清須会議』かな。自分で書いた原作と史実の清須会議というものがありまして。それをどう自分なりに料理していくかと考えた時に、原作という“史実”というものは邪魔にはなりませんでしたね。どう生かすかを考えます。歴史的な事実として、あの時は夏なのですが、撮影は冬だったので、冬の景色をどう夏に見せるかという困難はありましたね。ゆくゆくは、どうかわかりませんが、原作ものはなるべく元の形を生かした作品を作ると思います。
◆<撮影現場>ロケよりもセット!閉鎖された空間でドラマを作る楽しさ
Q:監督の作品はロケで撮影されたものが少ないですよね。
自分の作品はセットがメインなので、ロケを重要視したことはあんまりないんです。自分の作るものは、リアリズムとはちょっと違う世界だから、できれば、作り物のセットの中でやりたい。屋外のシーンでもセットを組みたい。そういうジオラマみたいな空気感が好きだし、僕の本には合っている気がします。
それと、密閉された空間に対する愛着。今回は宇宙のハンバーガーショップという架空の設定でしたが、それが裁判所であったりとか、ホテルの中であったり。そういう閉鎖された空間で自分なりにどんなドラマが作れるだろうかということは考えてしまいます。
Q:セットは監督が考えているのですか?
僕の中に漠然としたイメージがあってそれを美術スタッフの方々に伝えて、スタッフたちが形にしてくれています。今回は、1960年代の人が考えた宇宙というコンセプト。懐かしい宇宙というか。あとは、色がたくさんある映画にしたいなということがありました。セットだけではなくて、衣装も。なるべく原色に近い感じの色合いの映画を作りたいとスタッフの皆さんにお願いして。そこから皆さんが考えてくださっています。
Q:監督は完成したものを確認するということですね。
そうですね。
Q:セットや小道具を含めて特にこだわったものはなんですか?
一番こだわったのは、香取さんと綾瀬さんのビジュアルです。二人の髪形をどうするかと悩みました。香取さんは何を着ても似合うし、かっこよくなっちゃうんです。でも今回は、かっこいいやかわいい“キャラクター”ではない「香取慎吾」を見たかったんです。それでなるべく普段の香取さんではないところを探して、ジョージ・クルーニーのような眼鏡と七三分けという結果に行きつきました。
Q:ちなみに香取さんのほかにもハリウッドスターをイメージした方はいらっしゃるのですか?
山本耕史さんに出てもらうときには、僕の中ではいつもケヴィン・スペイシーなんです。誰も賛同しないと思いますけれども(笑)。僕としては、彼はどんな役でもケヴィン・スペイシーになっています。
◆<製作・編集>計算したスケジュール通りにいかない!どうする?
Q:三谷監督が撮影の面で苦労したことは?
撮影は1か月かけて行われるのですが、十何人かの出演者の方全員が1か月全部スケジュールを空けてスタジオに……とはいきません。皆さん、それぞれのスケジュールがあるわけで。でもこういう限定された空間の場合、香取さんと綾瀬さんがやり取りをしているときにカメラの位置によっては、奥の方にどうしても他の役者さんにいて欲しくなっちゃう。前後のつながりで、いないとおかしい場合もある。
今回はクランクインする前に、このシーンはどう撮影するか、カメラの置き場所、だれが映り込むのかという計算をしました。それで、このシーンには誰が必要なのでということから、スケジュールを構成していくんですよね。僕も大変でしたが、スケジューラーの方が一番大変だったと思います。
Q:スケジュールがどう頑張っても合わないこともあったのでしょうか?
そうですね。そういう時には代役の方に後ろのほうに座っていていただくんです。そして、その方に役者さんの顔を合成しました。映画ではぼんやり後ろにいるだけなので、そこまでわからないんですけれどもね。すべてきちんと想定して進めました。皆さん合成素材用の顔撮りというところから始めて、どんなシチュエーションでも、後からはめ込めるようにしていましたね。
Q:俳優さんの顔にCGが使われていたことには気付きませんでした
本当のCGの使い方はそれが正しいと思うんですよね。どこで使っているかはわからないような使い方が、CGの一番良い使い方のような気がします。
Q:編集していく上で新しい驚きはありましたか?
今回大竹しのぶさんとは、初めて映像で一緒に仕事させていただいたのですが、「やっぱりすごい」と思いました。
実際に撮影が始まったとき、正直僕の計算よりも大竹さんの芝居が、少し大きかったんです。8のイメージだったところが、8.5、だったりする。面白いからOKにしたんだけど、これ編集したらどうなるんだろうとちょっと心配だった。でもね、つないでみたらものすごくハマっていたんですよ。彼女は僕よりわかっていた。
そもそも大竹さん演じるハナさんは、要所要所にふっと現れる役。他の人たちがいろんなドラマを背負っている中、彼女だけが背景が何もないんですね。ただ店内をうろうろしている。そこが面白いんだけど。だから撮り方、演じ方によっては、物語の中に埋没してしまっていたかもしれない。そこを大竹さんはちゃんと計算されていた。計算ではなく天性のカンかもしれませんけれども。やっぱり大竹しのぶはすごいやと思いましたね。編集しながら気付きました。
演劇・ドラマ・映画と引っ張りだこの三谷幸喜監督。売れっ子で忙しい日々を送る監督ですが、どの作品もじっくりと三谷監督の頭の中で熟成して作られていることがわかりました。今も何かをじっくり熟成中なのでしょうか? そのアイデアがアウトプットされる日が楽しみです。(編集部・井本早紀)
『ギャラクシー街道』DVDスタンダード・エディションは5月3日に発売
<オフィシャルサイト>
発売元:フジテレビジョン 販売元:ポニーキャニオン
税込価格:4,104円
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