未来の観客を育成!シカゴ国際子供映画祭(アメリカ)【第45回】
ぐるっと!世界の映画祭
海外では情操教育のため、未来の観客の育成のためにと、積極的に子供や学生部門を設けて映画祭への参加を呼びかける試みが行われています。米国・シカゴ国際子供映画祭は32年の歴史を誇る、子供専門映画祭では老舗。しかも子供映画祭として初めて米アカデミー賞公認となり、ここからオスカーを目指すことも可能だ。2015年10月23日~11月1日に開催された32回に参加したストップモーションアニメ『こにぎりくん』の宮澤真理監督がリポートします。(取材・文:中山治美、写真:宮澤真理、シカゴ国際子供映画祭)
子供審査員・子供監督も活躍
同映画祭は、シカゴを拠点に子供たちにメディア教育プログラムの紹介や上映活動を行っている民間企業ファセッツ・マルチメディアが創設し、1984年にスタート。米国初のコンペティション部門を設けた子供映画祭でもある。子供映画祭というとアニメーションをイメージしがちだが、上映作品は子供が対象となりうる作品であれば長短実写映画やドキュメンタリーなど多義に渡る。ヤング監督映画(18歳以下)の部門や、子供審査員(6歳~14歳)とユース審査員(15歳~18歳)がいるのも特徴だ。
2002年には米アカデミー賞公認となり、アダルト審査員によって受賞した短編アニメと短編実写映画は、米アカデミー賞のノミネート対象作品となった。第32回の上映本数は世界42か国から集められた244本。例年、期間中に2万8,000人の観客を動員し、約100人のゲストが参加。また映画祭期間中のみならず、年間を通しての子供映画制作ワークショップなども行っている。
日本作品ではこれまで、第11回で高畑勲監督『火垂るの墓』(1988)が国際審査員による子供人権賞とアダルト審査員による最優秀長編アニメーション映画賞、山村浩二監督が短編アニメーション『サンドイッチ』(1992)などでアダルト審査員による最優秀監督賞を受賞。第31回では吉浦康裕監督『サカサマのパテマ』(2013)が長編映画のユース審査員賞、西久保瑞穂監督『ジョバンニの島』(2014)が長編アニメーション部門でアダルト審査員賞。第32回では『思い出のマーニー』(2014)が長編アニメーション部門で子供審査員賞を受賞した。
3年連続参加!
宮澤真理監督は、2002年から食品をモチーフにしたアート活動を行っており、お弁当アーティストとして知られる。著書「LOCUS MOOK 宮澤真理のこどもがよろこぶHappyお絵かき弁当」なども多数あり、お弁当教室で講師を務めることも多い。タコさんウィンナーなど愛らしいキャラクターたちを「動かしてみたい」という願望から東京藝術大学映像研究科アニメーション専攻に入学し、ストップモーションアニメの制作を開始。これまで店主の留守中に動物型パンたちが暴れ出す『Twins in Bakery』(2013)、命を吹き込むがごとくデコレーションされたお菓子たちが次々と動き出す『Decorations』(2014)、三角ボディの小さなおにぎりの楽しい日常を描いたNHK Eテレ「プチプチ・アニメ」でもお馴染みの『こにぎりくん』(2015)を制作し、いずれもシカゴ国際子供映画祭に参加。さらに『Decorations』は第31回の短編アニメーション部門で子供審査員賞を受賞した。同映画祭への参加は、FilmFreewayやWithoutaboxといった映画祭応募サイトを活用し、選出された。
「子供向けの作品を作っているわけではないのですが、子供にも分かる作品なので子供映画祭へも出品しました。すごく申請料が高い映画祭は避けて、たくさん応募しました。中でもシカゴ国際子供映画祭は他の映画祭のプログラマーや配給会社の方も見に来るという評判を聞いていたので、積極的に応募しました」(宮澤監督)。
ただし『こにぎりくん』に関しては、前作の『Decorations』が受賞したことから、「新作はないの?」と映画祭側から出品を促されたという。「とはいえ『Decorations』の受賞は、賞状などが送られてきただけだったのですが(苦笑)。その時、新作はNHK Eテレ用に制作していた『こにぎりくん』しかなかったのですが、『これでもいい?』と確認したところ『良い』と。作り続ける事の大切さを実感しました」(宮澤監督)。
SUSHIに好反応
作品は過去2回参加している宮澤監督だが、第32回で初めて現地入りした。『Decorations』受賞の御礼と、米アカデミー賞公認の映画祭がどんな雰囲気なのか、自分の目で確かめてみたいと思ったからだという。「思った以上に手作り感覚に溢れた映画祭でした。飛行場への送迎もなく、シカゴのオヘア国際空港から自力で映画祭会場へ。クロージング・パーティーも、映画館のロビー・スペースでピザを片手に(苦笑)。ただ観客は、非常に教育熱心そうな御両親に連れられた子供たちが多いなと感じました」(宮澤監督)。
『こにぎりくん』の上映は会期中2回あり、いずれも宮澤監督が舞台挨拶に立ち会った。“こにぎりくん”の仲間たちとして海苔巻きが登場すると、客席から“寿司コール”が起きるという思わぬ反応もあった。「題材はパンや菓子など世界中の誰が見ても分かるものを選び、素材を生かして加工せず、かつ持った時の重さが想像できるものを使うことを心がけています。やはり食品を扱っているので、見た目にも美味しそうと思わせるような“シズル感”が大事。そして、食欲を減退させるような物語にしません。結局、映像で食品を目の前にした時、人は持った時の重さや、匂い、美味しい、美味しくないという個人的な記憶を、無意識のうちに頭の中から総動員させて鑑賞することになります。その各々の記憶を、アニメの力で引っ張って来られるような感じがして好きなのです。それが私が食品にこだわる理由でもあります」(宮澤監督)。
上映後のQ&Aでは、「1秒何フレームですか?」「手足が動く仕組みは?」といった制作に関する質問が多かったという。映画制作ワークショップも積極的に行っている映画祭だけあって、質問内容も専門的だ。
シカゴから広がるネットワーク
シカゴ国際子供映画祭に選出されると、各映画祭からのオファーが相次いだ。『こにぎりくん』も米国・ミシガン州のコーストライン子供映画祭(2016年3月11日~20日)、ワシントン州ポート・タウンセンドの映画館や同州レーニエ・バレーの幼稚園など、元気に全米を一人歩きしている。そして2016シアトル子供映画祭(2016年1月21日~31日)では、短編アニメーション部門で観客賞を受賞した。
「映画祭のみならずチャリティーイベントのための上映など、いろんな方に見て頂けるのが嬉しいです。作品を作ったのなら、作りっぱなしにせず、一人でも多くの方に見ていただいて世に問うべきだと思っています。例え評価されずとも、こうして形に残り、一人でも良いなと思ってくれる人がいたら嬉しいです」(宮澤監督)。
現在は、『こにぎりくん』の第3弾を制作中。主婦業をしながら、キャラクターの制作から撮影までは一人で行っていることもあり、1話(4分57秒)の制作に6か月を要する。「今後も企業とのコラボレーション制作を手掛けつつ、自主制作で活動していきたいと思っています。作り続けて、せっかく出来た映画祭との縁を切らないようにし、さらに新しいステップへ進むことが出来れば」(宮澤監督)。
理想の作品は、第62回米アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞したウォルフガング&クリストフ・ラウエンシュタイン監督のクレイ・アニメーション『バランス(原題)/ Balance』(1989)。舞台は宙に浮いた板の上。5人で均衡を保ちつつ立っていたが、一人が大きな箱を釣り上げたことから均衡も5人の関係も崩れていく不条理劇だ。「セリフも余計な説明がなくとも、状況が分かる。そんな作品作りを目指していきたいと思っています」(宮澤監督)。世界でも食品にこだわった映像制作を手掛けているのは稀。日本食ブームも手伝って、宮澤ワールドが世界へと広がっていきそうだ。