親子の愛いろいろ傑作選 父×母×息子×娘
今週のクローズアップ
親子の関係性は人それぞれ違うもの。自分が息子なのか、娘なのか、相手が母親なのか父親なのか、または相手が息子なのか娘なのか……。そんな関係別の親子愛を描いた傑作映画を紹介します。(編集部・香取亜希)
【父×娘】『恋人はパパ/ひと夏の恋』
離婚によって別々に暮らしているパパと14歳の娘ニコルが、夏の思い出づくりのために二人でバカンスへ。ニコルは現地のイケメンに恋をしますが、彼にパパと旅行中のお子ちゃまだと思われるのが嫌で、一緒にいるのはパパではなく愛人だと紹介したことによって巻き起こる騒動を描いたラブコメディ。フランス映画『さよならモンペール』をリメイクしたアメリカ版で、主演はオリジナル版と同じく、ジェラール・ドパルデューが務めました。娘役にふんするのは、ドラマ「グレイズ・アナトミー」シリーズのキャサリン・ハイグル。ティーンエイジャー時代の超絶美少女ぶりが目を引きます。
父親にとって娘は「最後の恋人」で、娘にとって父親は「最初の恋人」と言われます。それゆえ、父親は娘を溺愛することが多く、目に入れても痛くない人も多いはず。ジェラールふんするパパも離婚はしたものの娘のことはかわいくてしかたなく、いつまでも一緒に暮らしていたころの小さな天使だと思っています。ニコルもパパのことが大好きですが、「パンツ一丁でうろうろしないで!」「気安く話し掛けないでよ!」とパパに対して、素直に愛情表現ができないお年頃。思春期の娘と父親の典型的な例ですね。そんな娘に対して、パパはすべて「YES!」で応えます。背伸びをしたいお年頃の娘の言いなりになって愛人のふりをしたり、作り話をしたり、全力で恋の後押しをします。そんなの娘のためにならないのでは? という正論なんて、パパの耳には届きません。娘の幸せのためならどんなことだってするんです。そして、いつしか愛する男性と結ばれる。ニコルの恋も成就し、憧れの彼とキス……。娘を持った父親が最も葛藤を覚える瞬間です。うれしいけど、どこかさみしいこの気持ち、年頃の娘を持った父親の心境が切なくも愛情豊かに描かれています。
【母×娘】『マグノリアの花たち』
アメリカ南部の小さな町に住む、年齢も立場も違う6人の女性たちの姿を通して人生の素晴らしさを賛美した、笑えて泣けるヒューマンドラマ。ジュリア・ロバーツふんするシェルビーの結婚式のシーンから始まる本作。当時まだ新進女優だったジュリアが、アカデミー賞助演女優賞に初ノミネートされました。母親マリン役には、当時すでにアカデミー賞主演女優賞を2度受賞していたサリー・フィールド。
6人の女性たちの中でもっとも物語を象徴しているのが、母親と娘の関係性についてです。母親と娘の関係は面白いもので、成長するに従い娘でありながら、親友やライバルにもなります。マリンとシェルビーは典型的な仲良し親子で、何でも言い合える親友のような間柄。しかし娘は大人の女性となり結婚し、妻、そして母親になります。それでも母親にとって娘はいつまでも娘なので、ついつい干渉し過ぎてしまい、シェルビーから「いつまでも指示しないでよ!」とキレられることもしばしば。大人になれば、娘も自分と同じ女性です。いつまでも子供扱いせず、一人の女性として尊重することが大事です。本作の中で母娘の関係が色濃く出ているのが、出産に関する考え方です。シェルビーは持病があるため、出産は控えるべきと医師に告げられていましたが妊娠。父親はおじいちゃんになることに大喜びしますが、母マリンは認めません。出産や育児がどんなに大変なものか身を持って知っているので、シェルビーの体が心配なのです。と同時に、母親になることの素晴らしさも理解しているので、最終的には娘の選択をサポートします。どんなに衝突しても結局は一番の理解者になってくれる、母と娘とは切っても切れない永遠の親友のような存在なのだと痛感します。
【父×息子】『クレイマー、クレイマー』
母親が家を出てしまったことで、突然二人暮らしをすることになった父親と5歳の息子の姿を描いた感動作。父親役のダスティン・ホフマン、母親役のメリル・ストリープがアカデミー賞主演男優賞と助演女優賞に輝いたほか、全5部門を受賞。愛くるしい演技で注目された息子役のジャスティン・ヘンリーが、8歳にして同賞の助演男優賞にノミネートされ、当時史上最年少記録を樹立したことでも話題になりました。
ダスティンふんするテッドは、仕事一筋のサラリーマンで、家事や育児は妻任せ。そんな夫に嫌気がさし、自分も社会に出て働きたいと考え家を飛び出した妻。妻の黄色信号にも気が付かず、突然息子と二人きりの生活が始まりますが、食事の世話から学校の送り迎えや寝かしつけなど、不慣れなことばかりでてんやわんやな日々。女性は妊娠期間を経て出産するので、子供が生まれた瞬間から母親になるものですが、男性は子供が生まれてから次第に父親になっていくもの。今まで仕事だけをしてきちんと息子と向き合っていなかったテッドにとって、家庭と仕事の両立は至難の業。しまいには仕事に支障をきたし、クビになる始末。それでも息子とのきずなは深まり、最初はできなかったフレンチトースト作りも、二人で協力し合いながら手際よくできるようになります。あうんの呼吸で料理する姿がほほ笑ましい! よい相棒としてうまくいき始めた矢先に、母親との親権争いが勃発。「いい親でいるのに性別は関係ない」と自分が息子のよい親であることを訴えるテッドの姿は胸に響きます。父親の役目とは何なのか、仕事だけをしているのではなく、日頃から家事や育児にかかわることも大切なんだと考えさせられます。
【母×息子】『ルーム』
拉致され7年もの間監禁された女性が、「部屋」の中しか知らない5歳の息子と外の世界に脱出する姿を描く。母親ジョイ役のブリー・ラーソンがアカデミー賞主演女優賞を受賞したほか、息子ジャック役のジェイコブ・トレンブレイの母親を愛する一途で勇敢な演技が絶賛されました。
監禁された「部屋」での7年間にもおよぶ絶望的な暮らしの中、狭い部屋の中でかわいい息子といえども二人きりの生活なんて想像もできませんが、「この子は私が守らなければ!」という思いが芽生え、母親ジョイの生きる目的となります。ジャックにとっても母親がすべてで、普通の親子とは少し違った濃密な関係を築きます。ジャックが物事の分別が付く年頃になったとき、母親は部屋からの脱出を計画。そこからがジャックが大活躍し、白馬の騎士のごとく母親を救出することに成功します。初めて外の世界に触れた5歳の少年が、母親のために勇気を振り絞ったのです。現実世界に戻ってからも親子の戦いは続きます。子供は順応性が高いので以外にもすんなり新しい環境に慣れて行きますが、ジョイは過去のトラウマを忘れることができず精神不安に陥り、母親失格だと落ち込む日々。そんな母親を純粋無垢な愛で癒やすジャックの存在は、小さいながらに男らしく、まるで「小さい彼氏」です。この物語は母親と娘ではなく、母親と息子であったことで説得力が増しています。無条件で愛を与え、その愛に応えてくれる相手がいることは、何よりも心強い生きる希望になるのだと気付かされます。