「名探偵コナン」漫画家・青山剛昌インタビュー:劇場版で原作者として名前がクレジットされる意味
記念すべき20作目となった劇場版『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』では、原作漫画のストーリーの根幹となる「黒ずくめの組織」とコナンたちの対決が描かれる。またその構図にFBI(米連邦捜査局)や日本の公安警察も絡み合い、漫画の重要キャラクターが一堂に介することに……。さまざまなエピソードについて原作者の青山剛昌に話を聞いた。(編集部・井本早紀)
◆劇場版20周年を迎えて
Q:アニメと劇場版が20周年を迎えました。今のお気持ちは?
「もう20年!?」という感じがします(笑)。よくここまで続いたなと思いますね。週刊連載についてもここまで続くとは思っていなかったです。まあ、やりたいことはどんどん増えていくんですけれども(笑)。
Q:映画でFBIと公安と「黒ずくめの組織」の対決が実現するなんて思ってもいませんでした。
それは今回の映画の一番の見せ場でもありますしね。「これをやろう!」と思って作っていますから。なかなか、漫画だとアクションシーンはコマを多くとってしまうので、表現しきれない部分があるんです。(FBI捜査官の)赤井秀一と(公安所属の)安室透の対決は今作でやりたかった部分なので、彼らを映画ならではの場所で戦わせてやろうと思いまして(笑)。この対決シーンは、ぜひファンの方に見ていただきたいですね。
Q:アニメや劇場版のスタッフに先生からこういうことをやりたいとアイデアを持ち込むことはあるのでしょうか?
割と毎年そうですよ。こういうことをやろうと。特別に「この作品だけは」とお願いするのではなく、毎回そうなんです。漫画じゃやりづらいところとかね。爆発させたり大規模なアクションを漫画で描いてしまうと、アシスタントを泣かせることになるので(笑)。映画だからできることをしようとは思っています。
Q:ということは今回「黒ずくめの組織」を登場させたのも先生のアイデアなのでしょうか?
劇場版第20弾で「黒ずくめの組織」を出すきっかけは、プロデューサーに言われたから(笑)。でも、かなり気合入れてやりました。原案段階から、たくさんアイデア出していますよ。
◆原案・脚本・原画・画(え)コンテ……毎回総監修を務めている『コナン』シリーズ
Q:今回も先生は原画に携わっているということですが……
そうですね。今回は赤井も安室も描きましたよ。もう一人、意外な人物も原画で描いているので、ぜひ映画館で探してみてください(笑)。
Q:また原画以外にも監修もされていらっしゃるとか。
ええ、脚本も画(え)コンテも全てチェックしています。特に今回の話は「黒ずくめの組織」が登場しますし。設定と違ったことをやられてしまうと困るので。アニメのスタッフとは原案段階から常に相談していますよ。それに監督やアニメスタッフのプロデューサーの方たちには、「黒ずくめ」のボスの正体を共有しているんです。「黒ずくめ」のお話を作る上で、そこは話しておかないとわからないと思いますので(笑)。
Q:ラストの蘭の言葉にはグッときました。あの言葉は青山先生が?
もちろんです! 最初はあのセリフはなかったんです。脚本をチェックしたときに入れていたんですが、画コンテ時点でなくなっていて。時間が足りなくて、カットになりそうだったんです。でもあの言葉がなければならないと思い、なんとか復活させました。
Q:原案や画コンテもチェックされていらっしゃるということで、総監修という立ち位置でも間違いないですよね。
毎回『コナン』チームでは当たり前のことなので、あえて入れる必要はないから入れていないという感じなんです。原作と書かれていれば、それでいいと思うんですよね。(ほかのアニメ映画で)原作者が総監修と銘打たれているのを見ていると、俺は毎回なんだよな~と思ってしまいます(笑)。
Q:もしも先生に一から脚本を手掛けてほしいというオファーが来たらどうしますか?
やりたいとは思いますが、そうなると連載を休まなければならなくなってしまいますので……難しいですよね。もしもやれるのであれば、監督をやりたいです。怪盗キッドや「黒ずくめの組織」との対決を描いてみたいです。ちょっと考えてみようかな(笑)。
◆忙しくともミステリーものは必ずチェック!
Q:「名探偵コナン」コミックスのカバー袖でさまざまな探偵を紹介する「青山剛昌の名探偵図鑑」では、小説から映画まで多くの探偵たちが登場していますが、お忙しい中でも先生は映画やドラマもしっかり観られていますよね。
映画はかなり観ます。小説は読むのは大変ですが(笑)、映画は2時間で観られますから。ドラマもミステリーものは確実に見ています。最近ですと「臨床犯罪学者 火村英生の推理」は毎週楽しみに見ていました。
Q:特に一番好きな映画作品はありますか?
『アマルフィ 女神の報酬』(2009)ですね。今回ゲスト声優の天海祐希さんが出演されていらっしゃるからというわけではないのですが、すごく好きなんですよね。作業が行き詰ったときとか、何回も観ちゃいます。頭から最後まですごくいい映画なんで。セリフとかも好きで観てしまいますね。
Q:映画などをご覧になられて、実際の作品づくりに生かされている部分はあるのでしょうか?
ありますよ。前作の『名探偵コナン 業火の向日葵(ごうかのひまわり)』には、『タワーリング・インフェルノ』(1974)の要素がありますしね。第13弾の『名探偵コナン 漆黒の追跡者(チェイサー)』は『ブルーサンダー』(1983)ですし。アイデアが以前に観た映画から生まれることはあります。またうまく例えると、映画のスタッフにも、「こういう感じか」と伝わりやすいので。
◆漫画のトリック裏話
Q:トリックはどのように考えているのでしょうか?
ほとんど自分と担当編集者だけで考えていますね。「最近面白い映画観た?」から始まって、何時間も仕事場で一緒に話して、案をたくさん出してから、使えそうなトリックをピックアップしています。毎回大変ですよ(笑)。
Q:打ち合わせではストーリーよりもトリックに時間を割かれる場合も多いのでは?
そうですよ。ストーリーの方が早いです。トリックはかなり時間かかっています。話を考える時間とトリックを考える時間は2:8くらいなんじゃないでしょうか。なかなか難しいので。それからトリックはできる限り実験もしているんですよ。今週刊少年サンデーに載っている話(FILE954~957)も、実はきちんと試しています(笑)。
Q:原作漫画を描かれているときに、アニメのことを意識されることも?
アニメになったときに表現しにくそうだから、こういう表現にしておこうかなということを考えたりはしますね。コマの間の動きであったり、アニメでやりづらそうなトリックの説明は、予定と変えてみたりとか……。あ、でもそんなには考えていないです(笑)。漫画は自分勝手に描いています。
Q:映画では「黒ずくめの組織」の巨大さも描かれていますが、漫画の第1話ではジンとウォッカは遊園地のジェットコースターに乗っていましたよね。こんなに大きな組織になると当初から予定されていたのでしょうか?
それはご想像にお任せします。でも、ジンがジェットコースターに乗っていたなんて、かなりレアですよね。ウォッカが券を買うところに並んで「大人2枚」って言っていたんでしょうね(笑)。
Q:小さな子から大人までファンがいる「コナン」ですが、ファンのみなさんにメッセージをお願いします。
ファンレターで、子供の時は絵がかっこよくて見ていたけれども、大人になって内容を理解して2度楽しめたという言葉をいただいたりします。なので小さい子には、わからなかったところは大人になってから見てみたりと、何度も「コナン」を楽しんでほしいですね。大人の皆さんは、どうかこれから年を重ねてもコナンを卒業しないでください。息子さんや娘さんができたら一緒に観に行ってください(笑)。
編集後記
劇場版を含め「名探偵コナン」に関することはしっかりチェックをしているという青山。作画が休みの日も映画や小説などを楽しみ、作品につながる時間の過ごし方をしているという。「もともとメッセージ性のあるものを見るのが好きなので、それが自分の作品づくりにはいいのかもしれませんね」と笑顔を見せる彼の作品への愛情が、子供から大人まで幅広いファンを惹(ひ)きつけているのかもしれない。
劇場版『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』は4月16日から全国東宝系にて公開
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