5月の5つ星映画5作品はこれだ!【第84回:今月の5つ星】
今月の5つ星
カンヌ国際映画祭開催月の5月は、140分完全ワンカットのベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作やコーエン兄弟&是枝裕和監督の最新作など、映画ファン必見の作品ばかり! これが5月の5つ星映画5作品だ!
140分間ワンカットのマジックがリアルを見ている錯覚を引き起こす
『ヴィクトリア』
3か月前にスペインから単身ベルリンに来たヴィクトリアは、ちょっとだけ危険に憧れる女の子。クラブで踊り疲れて帰ろうとした夜、チンピラ風の男4人組と出会ったことで彼女の人生は狂いだす。第65回ベルリン国際映画祭銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞した本作は、ヴィクトリアの運命を変えた140分をひたすらワンカットで撮影。長回しといえば、最近では見事なカメラワークでつなぎ続けたアカデミー賞作品賞受賞作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』などがあるが、『ヴィクトリア』には一切の小細工はない。本当のワンショットで繰り広げられるドラマは、徐々に自分がヴィクトリアのそばにいるような錯覚を起こし始め、緊張感を観客にも共有させてくる。また、たどたどしい英語で男たちと交流を深めるヴィクトリアの選択は考えうる中でも悪手のように思われるのだが、それでも「つながり」を優先する姿に、孤独からの救いを求め続けてしまう人間のもろさを痛感させられる。(編集部・井本早紀)
映画『ヴィクトリア』は公開中
コーエン節炸裂!ハリウッド黄金期を舞台に描くのはあくまでも“等身大の男”
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟のもとに、ジョシュ・ブローリンやジョージ・クルーニーなど豪華キャストが集結した本作は、1950年代ハリウッド黄金期のスタジオで、世間に知られてはまずい問題を解決していく“フィクサー”が主人公。コーエン兄弟のお決まりともいうべく誘拐が今作でも物語の起点になっているが、それを解決するために熱血奮闘する主人公の姿を期待するような映画ではなく、むしろトップスターの誘拐という一大事件が起きても冷静に対応できちゃったりするフィクサーの彼が、実は神父に懺悔しまくるように悶々とした思いを抱えているところに視点が置かれているあたりにコーエン兄弟らしさが光る。そのため物語の展開に拍子抜けすることもあるが、主人公が最終的に得るカタルシスには、すがすがしさがある。また、スカーレット・ヨハンソンの水中演技、チャニング・テイタムのタップダンスシーンは黄金期さながらの華やかさ。何といっても、コーエン兄弟お得意のクスッと笑える会話劇は安定感抜群のうえ、彼らの過去作を彷彿させる要素も多く、ファン必見の一作だ。(編集部・石神恵美子)
映画『ヘイル、シーザー!』は5月13日より公開
なりたい大人になれなくても、夢見た未来が今と違っていても
『海よりもまだ深く』
誰もが憧れるかっこいい大人。家族と過ごす幸せな日々。どちらも手に入れることができなかった男がこの映画の主人公。阿部寛演じる良多は中年になっても作家の夢を諦められない。元妻に新しい彼氏ができても復縁しようと必死だ。子どもの頃に思い描いた大人になれた大人はどのくらいいるのか。自分はどんな大人になりたかったのか。これから先をどんな未来にしたいのか。そんな疑問を登場人物たちから投げかけられる。是枝裕和監督が丁寧にシンプルに描く物語の中で、役者たちが素朴で温かい演技を披露する優しい2時間。ハナレグミのエンディング曲でとどめを刺される。なりたい大人になっているはずの是枝監督が、なぜそうではない大人の気持ちをこれほどまでに理解できるのだろう。マックとモスの違いを海外映画祭常連の監督が感じ取っているなんて……。(編集部・海江田宗)
映画『海よりもまだ深く』は5月21日より公開
キャストを見ただけで、絶対に面白いでしょ!
柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎……何だか名前を見ただけで面白そうなにおいのするこの映画。監督は『イエローキッド』『NINIFUNI』が国内外で高い評価を受け、これが満を持してのメジャーデビュー作となる真利子哲也だ。「楽しければええけん」と言って、通りすがりの人にひたすらケンカを吹っ掛け続ける主人公と、彼に魅了され行動を共にする男、そしてそんな二人の“遊び”に巻き込まれる女。柳楽に至っては全編通してほぼセリフなしで、ただただ殴り、殴られまくる。目を背けたくなるような暴力シーンの連続に嫌悪感を抱きながらも、どこかで高揚感を禁じ得ない、とにかく挑発的で刺激的な一作で、これからの日本映画界を担う若き才能がぶつかり合い、互いの演技を引き出し合う姿を目の当たりにさせてくれる。不穏な空気を醸し出すジャズ調の音楽も印象的でカッコイイ。(編集部・中山雄一朗)
映画『ディストラクション・ベイビーズ』は5月21日より公開
本当は何の情報も書きたくないほど、先入観なしで観るべき衝撃作
『或る終焉』
主人公は献身的な看病で病人に寄り添う寡黙な男……。SNSで特定の女性をチェックしたり、車で尾行したり、平然とした表情で大ウソをついたりと、その素性には謎が多い。説明はなく、ただ彼の生活を切り取っているだけのようなライブ感のあるカメラワークも功を奏し、スクリーンからひとときも目を離すことが出来ない。そうして物語にのめり込むうちに、男が抱えた消せない壮絶な過去がちらつき始める。突きつけられるのは、人を思いやることの大切さ。人を思うということが、あわただしい日常の中で本当にできているのか? 男の生きざまから、次第に人の心に焦点が絞られていく。名優ティム・ロスが静かな存在感を放ち、カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した本作。若きメキシコの奇才、『父の秘密』のミシェル・フランコ監督が再び提起する問題に、びっくりすること必至。(編集部・小松芙未)
映画『或る終焉』は5月28日より公開